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イオン銀行
マイクロサービスでデジタルチャネルを
進化させた理由と挑戦の軌跡

「親しみやすく、便利で、分かりやすい」銀行をめざし、先行してDXを推進しているイオン銀行。お客さまにより良い体験を継続的に提供すべく、従来のシステム構成を刷新する「マイクロサービス化」を決断した。挑戦の道のりを追った。

クラウド移行、マイクロサービス化に寄せた期待

池田浩幸氏
イオン銀行
システム統括部
システム開発部長
池田浩幸氏

イオン銀行 池田浩幸氏 従来のシステムでは、ATM、インターネットバンキング、スマホアプリ、店舗/窓口用システムなどチャネルごとに作り込んでいたので、制度変更などによる機能改修でも、個別にロジックを何カ所も修正する必要がありました。

都河勲氏
イオン銀行
システム統括部
システム開発部 基盤グループ
マネージャー 都河勲氏

これに対し、クラウド上に「共通アプリケーション基盤」を構築し、中央に置いた「部品」を各チャネルから利用する構成を採用することにしました。共通化できるものをマイクロサービスとして展開します。変更が発生した場合には、中央にある該当部品のみを修正すればよくなるという発想です。部品を汎用化し、複数チャネルで共有することで、コストを抑えて、開発のスピードアップにもつながります。

イオン銀行 坂本祐一氏 大きなきっかけになったのはインターネットバンキングの老朽化対応ですが、技術の進化やアマゾン ウェブ サービス(AWS) のサービス拡充などがあり、クラウド化する潮目が来ていると感じていました。コンテナやマイクロサービスといった新しい技術を取り入れ、旧来の仕組みを刷新するいいタイミングだったので、思い切ってチャレンジしました。

都河勲氏
イオン銀行 システム統括部 システム開発部 基盤グループ マネージャー
都河勲氏

イオン銀行 都河勲氏 現状、イオン銀行で提供するスマホアプリは、インターネットバンキングよりも少ない機能しか提供できていません。機能追加したくても、スピーディーな対応が難しかったのですが、共通アプリケーション基盤はこの点にも効果を期待できます。

池田氏 また、クラウドを活用することによって、ハードウェアの老朽化を意識せず、ソフトウェアのライフサイクルでシステム更改を検討できることから、より戦略的な人材配置が可能になる点もメリットだと考えました。

迅速さやコスト優位性を損なわず、勘定系システム相当の品質と信頼性を

池田氏 日立製作所は、勘定系システムの開発ベンダーであり、実績や技術力、また、システム全体を見通して構築することが可能と考え、今回のプロジェクトも依頼することにしました。

白浜真一
日立製作所
金融第一システム事業部
金融ソリューション本部
金融ソリューションサービス部
担当部長
白浜真一

池田氏 日立製作所は、勘定系システムの開発ベンダーであり、実績や技術力、また、システム全体を見通して構築することが可能と考え、今回のプロジェクトも依頼することにしました。

日立製作所 白浜真一 共通アプリケーション基盤の迅速さ、コスト優位性を損なわないために、特定のチャネルやベンダー、特定のクラウドに極力依存しないことが要件でした。その上で、これまで日立製作所として勘定系システムに提供してきた品質と信頼性を保証するのがわれわれのミッションです。

そこで、汎用的なオープンソースソフトウェア(OSS)を用いてインフラを構築することを前提に検討し、品質面の中枢を支えるフレームワークとして日立製作所が提供する「Justware マイクロサービスフレームワーク」を採用しました。併せて、特定のクラウドに依存しないようにOSSコンテナプラットフォーム「OpenShift」を採用し、マネージドサービスとして提供することで、堅牢(けんろう)さと信頼性、可用性を保証する体制を整えています。

日立製作所 千葉直人 特定のベンダーに極力依存することなく、日立製作所が現行システムで提供する品質レベルを維持することは、適用サービス、範囲を見極めながらの提案でした。最終的には、将来のビジネス変革を見据えて、デファクトスタンダードの技術を中心に構成することになりましたが、汎用的な製品を組み合わせながら、品質保証の仕組みを入れた構成、体制を構築できたと考えています。

苦戦したマイクロサービスの“設計”を、アプリ開発の先鋭部隊と解決

千葉直人
日立製作所
金融第一システム事業部
金融ソリューション本部
金融ソリューションサービス部
第6G 技師 千葉直人

白浜 本プロジェクトでは、イオン銀行さまが全体のプロジェクト管理を、日立製作所がマイクロサービス基盤の構築を担当しました。その上で日立製作所はアプリケーション上のビジネスロジック部分を担い、ネイティブアプリなどのUI(ユーザーインタフェース)は他のベンダーが担当するという複数ベンダーでのプロジェクトとなりました。その全体の推進にも日立は微力ながら関わらせていただきました。ビジネスロジックとUIを分離したことで、特にUIにおいて新たな技術を取り込みやすいアーキテクチャになりました。また、ビジネスロジックの部品を共通化したことで、機能集約によるコストメリットを最大化できたと思います。

千葉直人
日立製作所 金融第一システム事業部 金融ソリューション本部 金融ソリューションサービス部 第6G 技師
千葉直人

千葉 マイクロサービス化は設計段階でかなり苦労しました。特に、「既存プログラムをどのような形で分割するのが適切か」という“粒度”を判断するのが難しかったのです。われわれのチームは金融の業務知識はありますが、分散化や共通化に関する方法論を持ち合わせていませんでした。そこで、日立製作所の研究開発グループ、アプリケーションサービス事業部、デジタルプラットフォーム事業部などのこの分野に精通した先鋭部隊に技術支援を依頼し、グローバルで実績のあるマイクロサービスのフレームワークを日本向けに整備、強化した「Hitachi Microservices Platform」を適用することで対応しました。

坂本氏 システムの部品化、疎結合化のメリットは大きいのですが、データの持ち方も含めて部品化を検討しなければなりません。部品化の機能範囲の考え方も難しいところがありましたが、日立製作所の研究開発グループなど、技術に特化した有識者支援があり、納得のいく形で実現できました。

AWSが提供するサービスを利用する場合、開発してから判明する制約などブラックボックスになる部分があることには、オンプレミスのシステムよりも注意が求められました。これらの制約も解消しながら共通アプリケーション基盤を構築できたことには大きな価値があると思います。

1年間でたどり着いた成果と未来

坂本祐一氏
イオン銀行
システム統括部
システム開発部 基盤グループ
マネージャー 坂本祐一氏

池田氏 2022年7月から要件定義に着手し、今回は「通帳アプリ」について共通アプリケーション基盤でマイクロサービス化し、2023年7月にリニューアル版をリリースしたところです。まだ発展途上ですが、マイクロサービス化した部品を増やしていくことで、開発スピードや柔軟性を大きく向上できると考えています。

坂本祐一氏
イオン銀行 システム統括部 システム開発部 基盤グループ マネージャー
坂本祐一氏

坂本氏 システムテストにおいても、これまでは1カ所修正しただけでも全ての機能をテストし直さなければなりませんでしたが、今後は修正箇所に限定してテストすればよくなります。「部品化による内部完結によって疎結合になる」というメリットは大きいと考えています。また、共通アプリケーション基盤によって開発期間の短縮だけでなく、アジャイル開発など開発手法を変えやすくなります。以前より柔軟でスピーディーな開発が可能と見込んでいます。

都河氏 まだ一部ではありますが、初めてシステムをマイクロサービスで設計し、コンテナで作り、クラウドで稼働させることに成功しました。DXを推進するための大きな一歩を踏み出せたと考えています。

今後、インターネットバンキング、スマホアプリ、店舗/窓口用システムなどの全てのチャネルで機能を共通化していけば、「お買い物ついでに店舗やATMで」「ご自宅からPCで」「どこからでもスマホアプリで」などユーザーがいつでもどこからでも同じサービスを同じ品質で受けられるようになります。これまで以上に「親しみやすく、便利で、分かりやすい」銀行を実現できる展望が開けたことは大きな成果といえます。

先をめざすための基盤が整い、DX人材育成にも注力

坂本氏 今回の取り組みで、共通アプリケーション基盤を整えれば、どのチャネルからも同じユーザー体験を提供できるようになると確信しました。まだ残っている古いシステムを統合、廃止しながら、革新的なシステムの構築をめざします。

池田氏 日立製作所はパートナーとしての総合力が高く、さまざまな角度での支援を得られました。また、イオン銀行としては、DX人材の育成に注力していますが、今回はクラウドやマイクロサービス、コンテナなど新しい技術に積極的に取り組み、今回同席している坂本さんをはじめシステム部門としては実践を交えて成長する姿が見られました。人材の成長は全ての鍵となりますから、今後も技術を高めるべく、体制強化も含めて人材育成とシステムモダナイゼーションに注力したいと考えています。

白浜 システム開発面だけでなく、コンテナやDXのアーキテクチャに詳しい部隊のメンバーが講師になり、イオン銀行さま向けに勉強会を開催するなど、引き続きDX人材育成のサポートも提供する予定です。

共通アプリケーション基盤は使い方が多岐にわたり、特定のシステムに依存しません。まさにビジネスそのものであり、汎用的に設計した分、可能性も無限に広がります。これもお客さまとベンダーが共に取り組んだ結果であり、今後も引き続き取り組みを進めていければと思います。