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京都信用金庫

新営業店システムの構築事例

「Exアプローチ」と「FREIA21+」でコミュニティ・バンクの実践を支える新営業店システムを構築

京都・滋賀・北大阪を営業地域に86の店舗網を持つ京都信用金庫(以下、京信)は、日立と共同開発した「新営業店システム」の全店移行を2011年5月に完了しました。
開発にあたっては日立の超上流システム設計手法「Exアプローチ(*1)」を適用し、来店されたお客さまへの“おもてなし”を実践する次期システムのあるべき姿を見える化したほか、勘定系と情報系の情報をリアルタイム連携することで、お客さまと対話しながら事務処理を完結できるPCベースの新営業店端末を導入。インフラに統合チャネルソリューション「FREIA21+(*2)」を採用し、拡張性と柔軟性を兼ね備えた次世代営業店システム基盤を構築しました。

  • *1 Experience Oriented Approach
  • *2 Financial Retailing Delivery System of Information-Advance21+

地域の絆づくりに取り組むコミュニティ・バンクとして

 1923(大正12)年の設立以来、お客さまとの親密で永続的な信頼関係を構築しながら、付加価値の高い金融サービスを提供し続けてきた京信は、Face to Faceのお付き合いをベースに地域経済の発展に貢献する「コミュニティ・バンク」という概念を、国内の金融機関で初めて提唱したことでも知られています。
「当金庫では地域のお客さまと同じ目線で生活を考え、地域に役立つ金融サービスを提供するというコミュニティ・バンクの理念を実践するため、営業店における対面・対話をセールスの基本と位置づけ、来店されるお客さまへの“おもてなし”をいかに向上できるかを常に考え続けてきました」と語るのは、専務理事の榊田氏です。店舗内をお客さま目線で見渡した場合、10年ほど前に更改された営業店システムと店舗営業のあり方には「大きく3つの課題がありました」と榊田氏は振り返ります。
 「1つは、お客さまの待ち時間が長いことです。受付書類が後方の役席者を回って処理を終え、改めてお客さまをお呼びするまで15 分ほどかかりますが、これはやはり長いと感じます。2つめは、ATMは利用するものの、そこから先のロビーへ足を踏み入れるには、気軽に声をかけられる顔見知りの担当者がいない。このため、どうしても敷居が高くなってしまう。3つめは、預金量の多寡にかかわらず本当にすべてのお客さまへ適切なサービスを提供できていたかどうか−−これらの課題は当金庫に限らず、全国の金融機関の多くが長年抱えていた問題でもあります。しかしコミュニティ・バンクを標ぼうする以上、手をこまねいているわけにはいきません。改善するには何をすればいいかを皆で考え、まずは煩雑な事務処理は極力システムに代替させ、人間にしかできない付加価値の高いサービスを提供できる、簡便で使い勝手のよい営業店システムを構築しようと決断しました。それを基盤に店頭での接客体制の強化を図り、お客さま一人ひとりに最適なご提案ができる体制を整えることが、わたしたち京信の使命だと考えたのです」と榊田氏は続けます。

長年の実績を評価し日立をSIパートナーに

 そこで京信は、次世代の営業店窓口体制を構築するべく、社内に営業店ワークフロー革新プロジェクトチームを設置。その答申に基づいた新営業店システムの開発を推進するWARP 計画(*3)を2008年4月に始動しました。新営業店システムの共同開発ベンダーには、絞り込まれた2社の中から日立を指名。
 「新営業店システムでは、これまで分離していた勘定系と基幹データベース、情報系を連携させ、端末上ですべての情報を一元的に見せることが重要なポイントになっていました。この難しい要件に対しては、当金庫の勘定系を長年にわたって支えていただいている日立さんの技術力やノウハウに頼る部分が大きかったことが1つ。また今回から、高コストな専用端末に代えて、低コストで汎用性の高いPCを営業店端末にしたいというわれわれのチャレンジに、開発面でのリスクや負担が大きいにもかかわらず、“やってみましょう”と言ってくださった日立さんの力強い姿勢も、パートナー選択の大きな決め手になりました」とシステム部 部長の松井氏はその経緯を説明します。

*3
京都信用金庫がめざす次世代の店頭体制を実現するための新営業店システム開発プロジェクト名
「Workflow Analysis and Reengineering Project」のこと

Exアプローチで職員が課題と解決策を見える化

 システム設計にあたっては、「最初からベンダーに頼るのではなく、現場とお客さまをいちばんよく知っている職員自身が、コンセプトメークや業務設計に取り組むべきだと考えました」と榊田氏は語ります。その思いを実現するため、日立は要件定義以前の“超上流”工程に、システム開発プロセスの改革を推進する手法「Exアプローチ」を適用。京信は、経営層、営業部門、システム部門、事務部門などから計10 名程の参加者を集めたワークショップを半年間にわたって実施し、新システムのねらいや効果など、現場における本質課題の理解と整理、あるべき姿の見える化を徹底的に進めていきました。
 「手厚い接客を行うおもてなしと、待ち時間を短縮するための事務の効率化、この一見相反する課題を両立させるには、すべての関係者が課題を共有し、その解決策となる次期システムの理想像を、互いに共感しながら導き出していく必要がありました。その点、Exアプローチでは日立さん側担当者も交えた徹底的な議論の積み重ねにより、来店からお帰りになるまでのお客さまの動線と思い、そこで職員はどのように行動すれば、おもてなしと事務の効率化が図れるのかをしっかり見える化することができました。この過程がなかったら、今回のような革新的なシステムは作れなかったと思います」とシステム部 課長の中嶋氏はExアプローチの効果について話します。
 作業の最終工程となったシステム要件定義では、お客さまと対話しながら操作可能な窓口端末の仕組みや、お客さまと職員双方のニーズを満たす情報支援、コンタクト情報をお客さま情報ファイルに蓄積することなど、システム面での要件整理と、操作性を向上させるためのデザイン設計なども行われました。これにより、その後のシステム構築プロジェクトでは「以前に比べて開発段階での手戻りが非常に少なく、計画通りにシステムを完成させることができました」と松井氏は評価します。

ワークフローモードで接客しながらの事務を実現「ながらオペ」(*4)

 2010年4月より京信の営業店に順次導入され、2011年5月に86店舗全店への移行が完了した新営業店システム。そこでは京信と日立が共同開発した、対面ディスプレイ、スキャナ、指静脈認証ユニットや各種金融デバイスを自在に組み合わせることが可能なPCベースの新営業店端末「Multimode Teller Station(MTS)(*5)」が採用されています。
 MTS 端末は勘定系の事務処理用Web 画面に加え、取り引きに訪れたお客さまの基本情報やコンタクト履歴などを管理する情報系のWeb 画面も備えており、本人確認から取り引き完了までに必要な情報を1つの画面で俯瞰しながら、インターネットバンキングのように操作することが可能です。「ワークフローモード」と呼ばれるこの新操作画面を使うことで、自動入力や選択項目方式による事務負担の軽減により、「お客さまと直接対話しながら、事務処理を自然と完結できるようになりました」と中嶋氏は語ります。
 また、電子台帳を核に役席権限取引の申請・承認をフロー化する「権限取引管理機能」、オープン出納システムと端末の現金取扱データを一括管理して現金取扱事務の効率化を図る「出納システム連動機能」、MTS端末/オープン出納システム/ATMの現金有高を管理して店舗ごとの現金照合事務を効率化する「勘定照合支援機能」など、さまざまな新機能も提供され、処理の厳格性を担保したうえでの業務効率向上を支援しています。
 導入後は、照会取引にかかる時間が約3 割削減されたことで、「来店客1件あたりの平均取引時間が約7分の中で、お客さまとの会話時間を従来の約2分から約6分へと生み出すことができました。エラー率については、20数%から約5%へ大きく低減でき、コード入力のミスなどによる単純ミスはなくなりました」と松井氏はその効果を評価します。
 これらの新機能は、関連システムとのスムーズな連携を支援する統合チャネルソリューション「FREIA21+」を基盤に開発されたものです。これにより京信は、お客さまへのよりきめ細やかな接客を実現できる体制と、将来の伝票レス、印鑑レス、事務レスの実現に向けた拡張性、柔軟性を兼ね備えた次世代営業店システムを構築することに成功しました。
 さらに今回導入された新営業店システムは環境配慮型製品の採用により、消費電力を約38%も削減。ITリソース管理やメンテナンスもセンター側で一括運用できるようになったため、PCベースの低コスト端末も含めた営業店1 店あたりの投資コストは「従来の約半分に低減できました」と中嶋氏は語ります。

*4
「ながらオペ」=事務処理をしながら接客を行うこと
*5
Multimode Teller Stationは京都信用金庫の登録商標

  

職員とお客さま双方に新たな体験価値が

 新システムの導入に合わせて京信では、営業店すべての窓口を、来店客が座って話せるローカウンターに改装する方針(*6)を立て実施しています。その理由を事務部・システム部・事務集中部担当 理事の河東氏は、「新営業店システムによって事務の効率化が図れたぶん、お客さまとの対話を増やし、窓口での営業強化につなげることがねらいです」と説明します。さらに河東氏は、「こうした端末の入れ替えでは、必ずベテラン職員を中心に“以前の方がよかった”という不満が聞こえてくるものですが、今回ばかりはまったくそのような声が出てきません。特に若い職員はPC のWeb 画面に慣れているせいか、切り替えた初日からほとんど違和感なく使いこなしているのに感心しました。お客さま側も、職員が端末を操作しながら対面で話すという新しいスタイルに戸惑われることなく、自然に笑顔を見せられています。非常に大きな窓口改革が進みつつあることを実感しています」とMTS 端末の使いやすさと窓口環境の変化にも言及します。
 新営業店システムでは、新しい操作性のワークフローモードのほか、従来型コード入力のスタンダードモードにも切り替えられるようになっています。当初、ベテラン職員には「従来型の方が“慣れていて速い”という先入観を持っていた人が多かった」とのことですが、「一度ワークフローモードを使ってみると非常に使いやすく、“これならお客さまと会話できる余裕が生まれる”と評価が一変したのが印象的でした。かつては黙々と端末へ入力することに追われていた職員も、お客さまの顔を見ながらストレスなく処理が進むため、“このお客さまのお役に立ちたい”というやりがいや楽しさが生まれ、お客さまも“自分のためにじっくり時間をかけて仕事をしてくれている”という満足感が得られるという、職員とお客さま双方に新たな体験価値が生まれつつあるのです」と中嶋氏は分析します。

*6
店舗スペースなどの制約のため、合計約30の営業店を改装対象としている

世界最高クラスのおもてなしを提供していく

 「もちろん端末を変えるだけで、業務自体が激変するわけではありません。この間、われわれは最初に挙げた2つめ、3つめの課題にも対処するため、数々の施策に取り組んできました」と榊 田氏は語ります。「例えば、お客さまと担当者がより親密な関係を作り、気軽にロビーへ訪れていただける『くらしのアドバイザー』制度を設けました。これは窓口担当の職員全員を、お客さま一人ひとりのご相談やご要望にお応えするスペシャリストと位置づける施策です。現在、営業店職員の70%となる約500 名が店頭接客を行っていますが、それを可能としたのが、お客さまと接客し ながら事務処理が行えるMTS端末です。新端末の導入で、退職金や満期を迎えた定期預金の運用に投資信託などの商品を紹介するなど、個々のお客さまに合った提案がタイミングよく行えるようになりました。今後は職員の接客レベル向上と新システムとの相乗効果で、京都の老舗旅館と同様の世界最高クラスのおもてなしをお客さまに提供していくことが目標です」と榊田氏は続けます。
 「そのためにも、ワークフローモードの活用をさらに広げるとともに、レベルの高い事務処理も画面を見ながら自動的に行えるよう、このシステムをさらに進化させていくことが必要です。日立さんとのパートナーシップを一段と深化させながら、新しいビジネスモデルを作っていきたいですね」と河東氏は語ります。
 また松井氏も、「日立さんには営業店システムだけで、新たな金融商品が生み出せるような、FREIA21+のさらなる強化を期待しています。」と語ります。
 「CHALLENGE TO CHANGE」(変えること変わることへの挑戦)をテーマに掲げ、新しい時代のコミュニティ・バンクとして継続的な経営改革を推進する京都信用金庫。その取り組みを、これからも日立は幅広い金融ソリューションとプラットフォーム製品群により、力強くサポートしていきます。

[お客さまプロフィール] 京都信用金庫

本店外観

本社:京都府京都市下京区四条通柳馬場東入立売東町7番地
設立:1923年9月27日
総資産額:23,839億円
常勤役職員数:1,776名(2011年3月末現在)

京都・滋賀・北大阪を営業地域として、会員・地域の皆さまそして地域社会の発展に寄与することを基本理念とし、取引先へのきめ細やかな接客を通して、地域の皆さまと中長期的な信頼関係を構築し、「地域の絆づくり」に取り組んでいる。

特記事項

  • 記載されている会社名、製品名は、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。
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