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Hitachi

ビッグデータ×AI(人工知能)

2,400億通りのデータを約2時間で処理
噴火100時間後の状況を3Dで可視化

国立研究開発法人 防災科学技術研究所では、頻発する自然災害の被害を極小化するため、火山防災研究にビッグデータを活用している。具体的には、日立製作所が提供する高速データアクセス基盤「Hitachi Advanced Data Binder プラットフォーム*1」により、溶岩流の進路と建造物の位置情報を組み合わせて解析。噴火が市街地に及ぼす影響を3Dのマップで立体的に表示する仕組みを実現した。
災害に強い社会の実現に向け、防災対策への実用化に向けた研究に活用されている。

溶岩流が引き起こす建造物被害の高精度予測に挑む

藤田 英輔氏 写真
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
観測・予測研究領域 地震・火山防災研究ユニット
主任研究員 理学博士 藤田 英輔氏

1993年に防災科学技術研究所に入所。火山物理学を専門分野としており、火山性地震に関する研究や火山現象の数値シミュレーション、地震・火山噴火の連動性に対する研究などを行っている。

地学的環境から、地震や風水害などの自然災害が避けられない日本。国民生活の安全・安心を確保するためには、災害に強い社会づくりを国家レベルで進めていくことが求められる。こうした要請に応えるべく、防災に関するさまざまな研究を行っているのが防災科学技術研究所だ。

「私が所属する地震・火山防災研究ユニットでは、地震・火山に関する各種観測データの提供や分析などを行っています。特に近年は、純粋な研究目的のみならず、将来的に国や自治体の防災/減災に生かすための基盤づくりも積極的に進めています」と同研究所の藤田 英輔氏は語る。

そうした活動の一環として今回新たに構築されたのが、「火山リスクマネジメントシステム」だ。これは、火山噴火の際に発生する溶岩流が、市街地の建造物などにどのような被害を及ぼすかをシミュレートするシステム。同研究所は、これまでも溶岩流の研究は行ってきたが、今回の仕組みではさらに一歩踏み込んだ分析を行っているという。

具体的には、同研究所が作成した溶岩流シミュレーションデータと、東京大学・空間情報科学研究センターが保有する市街地の建造物データを組み合わせ、地図上に配置した100m四方のマス目ごとに被害状況を分析。その結果を日立ソリューションズのGIS(Geographic Information System:地理情報システム)である、「GeoMation」で3D表示することで、災害の影響を、よりわかりやすく可視化するというものだ。

「例えば、自治体が住民の避難ルートを策定したいと考えても、分析エリアが10km四方では、細かな道路の安全性までは確認できません。その点、100m四方まで範囲を絞り、状況を地図上にマッピングする仕組みがあれば、より的確なルート選択ができる。この仕組みは、そうした効果的な防災/減災施策につなげることを最終目的としています」と藤田氏は紹介する。

しかし、こうした新たな仕組みを実現する上では課題もあった。その一つが、膨大な溶岩流シミュレーションデータと建造物データをいかに高速にマッチングするかという問題だ。

溶岩流シミュレーションデータの中には、溶岩の温度や厚み、粘性、流速といった多くのデータが含まれるため、処理時に大きな負荷がかかる。そのため、高速に処理が行えるデータベース製品を必要としていた。

防災施策への実用化を視野に入れた場合、「リアルタイム性」が大変重要である。「噴火後、速やかに被害予測情報を提供できなければ、真に効果的な施策にはつなげられません。そこで私たちは、将来的なそうした仕組みの実現にも対応できる、高速なデータベース製品を探し始めました」と藤田氏は話す。

*1
内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:喜連川 東大教授/国立情報学研究所所長)の成果を利用。

他製品では難しい処理を高速データアクセス基盤で実現

そこで同研究所は複数ベンダーの製品を対象に競争入札を実施。最終的に選ばれたのが、日立製作所(以下、日立)の高速データアクセス基盤「Hitachi Advanced Data Binder プラットフォーム」(以下、HADBプラットフォーム)だ。

与えられた命令を順次実行する一般的なデータベースエンジンと異なり、HADBプラットフォームは各命令の処理完了を待たずに並列処理する「非順序型実行原理*2」を採用。これにより、圧倒的な検索性能を実現している。こうした性能の高さが、膨大なデータの高速処理に威力を発揮すると感じたという。

また性能の高さは、システムの導入コストを低く抑えられることにもつながる。HADBプラットフォームは、1台で処理できるデータ量が圧倒的に多いため、スケールアウトのために複数サーバを用意する必要がないのだ。一方、インメモリ技術を採用したデータベース製品にも高い性能を持つものは多いが、データ量が増えれば大量のメモリを実装するため、コストは膨れ上がる。その点でも、HADBプラットフォームが有利と判断した。

「加えて、こうした先進的な製品を紹介してくれた日立の提案力・サポート力も魅力でした。我々は研究者でありITの専門家ではないので、実現したいアイデアがあっても、具現化するために必要なシステムなど技術的な部分には詳しくありません。日立は私たちの要望を正しく理解し、技術的観点から最適な方法を提案してくれたことが、非常にありがたいと感じました」と藤田氏は語る。

*2
喜連川 東大教授/国立情報学研究所所長・ 合田 東大特任准教授が考案した原理。

4日後までの溶岩の流れをわずか2時間で処理・表示


図:「火山リスクマネジメントシステム」の概要
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こうして同研究所は、HADBプラットフォームとGeoMationを組み合わせた火山リスクマネジメントシステムを構築(図)。研究の第1弾として、「富士山の噴火時の被害予測」を実施している。具体的には、60万件の溶岩流シミュレーションデータと、40万件の建造物データを基に、60万×40万=2,400億通りの組み合わせ評価を実行。その上で、火口の位置と測定エリアを変えた合計5つのシミュレーションパターンを設定し、周辺地域にどのような影響が及ぶかを地図上で3D表示する。結果、リスクの高いエリアや、どのエリアにどのくらいの時間で溶岩流が到達するかなどが時間経過に沿って、ひと目でわかるようになったという。

注目すべきなのは、分析結果が得られるまでのスピードだ。各シミュレーションパターンでは、富士山周辺の約20km四方エリアを対象に、噴火から100時間後までの時系列データを扱う。この条件の下、あらかじめ作成しておいた溶岩流シミュレーションのデータを読み込み、状況をGeoMationで可視化するまでの処理を、約2時間で終えることができる。

「これくらい迅速に3D表示ができれば、結果を防災分野で応用できる可能性も拡がります。つまり、最短で噴火の2時間後には、その後4日間の溶岩の流れを予測・表示することができるようになるということです。エリアの広さなどにもよりますが、もし他の製品を使っていたら、相当な時間がかかってしまい実用化できなかったでしょう」と藤田氏は強調する。


富士山噴火時の被害予測画面
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また、データの扱いも容易だ。今回、HADBプラットフォームに格納されている溶岩流シミュレーションデータは、研究に利用していないテストデータも合わせると膨大な件数に上る。通常、こうしたテストデータは、検索性能を低下させないよう格納しないのが一般的だが、処理性能の高いHADBプラットフォームなら、すべてのデータを格納しても、必要なデータのみを高速に出力することが可能だ。そのため研究者は格納するデータの必要有無を選別する作業が不要となり、研究のコアとなるシミュレーションなどデータ解析に注力することができる。また格納するデータの形式は、動くものを表すデータ形式の国際標準「OGC Moving Features」にも対応。これにより、今後、人流データなどを追加で取り込む際にも対応できるようにしている。

「より多様なデータを組み合わせて分析を行うようになれば、データ処理時の負荷はさらに増大します。しかし、HADBプラットフォームならそうした要求にも難なく応えられる。今後も日立には、アイデアや要望を具現化し、災害に強い社会づくりに貢献するための最適なシステムの提案を期待します」と藤田氏は最後に語った。

USER PROFILE

国立研究開発法人 防災科学技術研究所

理事長:岡田 義光
設立:1963年04月
URL:http://www.bosai.go.jp/ 新規ウィンドウ表示

1963 年、国立防災科学技術センターとして設立。「災害に強い社会の実現」を基本目標に、火山や地震、気象災害といった多様な災害の研究を行う。これまで、集中豪雨や竜巻の監視技術、雪崩・地吹雪の予測などの技術が実用化。日本の防災技術の進化に貢献している。

特記事項

  • この記事は、ITpro special(2015年9月)に掲載されたものです。
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