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光トポグラフィ装置[多チャンネルNIRS(近赤外線分光法)装置]の専門家であるMr. TOPO(ミスター・トポ)と、彼の友人で、最近、光トポグラフィ装置に関心を持ち始めたグラフィ氏。彼らの議論を通じて、光トポグラフィ装置を原理について説明します。
もちろん、Mr. TOPOもグラフィ氏も実在の人物ではありません。また、わかり易く表現するために比喩的なたとえ話も用いています。しかし、これらは「みなさまにより深く知ってもらいたい」ための表現方法であることをご理解いただきますようお願いいたします。
(ここで言及している機能などは、機種や販売時期などによっては対応していない場合もあります。詳しくは弊社までお問い合わせ下さい。)

原理編

Discussion 1:脳活動に伴うヘモグロビン濃度変化を測定

  • 最近、「光トポグラフィ装置」という言葉をよく聞きますが、どのような装置ですか?
  • 光を用いて、脳活動に伴う大脳皮質のヘモグロビン濃度変化を測定・画像化する装置です。
  • 頭皮上から測定できるのですか?
  • できるのです。光、特に赤い色(波長)の光は、生体組織を透過しやすい性質を持っています。例えば、暗闇で懐中電灯の白い光を掌に透かしてみると、掌を通して赤い光が見えるでしょう。このように、全ての色を含んだ白い光の中から、赤い光が透けて見えるということが、その性質を示しています。この性質を用いて、頭皮上から測定するのです。
  • 懐中電灯と掌の話は経験があります。でも、まだピンとこないですね。
  • 光トポグラフィ装置では、人間の目で感じられない弱い光を検出するので、なかなか実感できないでしょうね。しかし、最近の光測定技術を用いると、その弱い光を捉えることができるのです。
  • 脳活動に伴うヘモグロビン濃度変化を測定するのですね。
  • そうです。ヘモグロビンは血中に含まれているので、その濃度変化は局所的な脳血流や脳血液量変化と関連しています。また、脳血流/脳血液量変化と脳活動との関連性は、19世紀の末ごろから報告されているのです[1]。そして、PET(Positron Emission Tomography)が1980年代頃から用いられるようになると、脳活動に伴う脳血流/脳血液量変化の画像が得られるようになりました。現在までに多くの知見が得られていますよ。
  • それでは、このヘモグロビン濃度変化を光でどのように測定するのですか?
  • ヘモグロビンの光学的な性質(吸収スペクトル)を利用します。ヘモグロビンは可視から近赤外の光を吸収する性質があるからです。血液が赤い色をしているのは、この吸収スペクトルのためですね。もし、脳活動によって脳内の局所的な血液量(すなわち組織中のヘモグロビン濃度)が増加したら、増えたヘモグロビンによって吸収されてしまう光が増加します。その結果、検出される光量が減少することになります。へモグロビンの濃度変化と検出光量の変化とは、方程式として関連付けられているので、検出光量によって、その濃度変化が測定できるのです。
  • すなわち、脳活動→局所的な脳血流/脳血液量の増加→該当部位のヘモグロビン濃度増加→増加したヘモグロビンによる光の吸収量増加→検出される光量の減少、ですね。定性的にはわかりました。
  • ヘモグロビン濃度変化と検出光量との関係を定量的に理解するなら、文献などで確認したほうが良いかもしれないですね。最近はNIRSのわかり易い文献がかなり増えてきていますから。また日立が発行しているMEDIXでも、この原理を説明しているので、関心があれば参照してみて下さい[2]。
  1. [1]Michael. I Posnoer 他、「脳を観る―認知神経科学が明かす心の謎」、日経サイエンス社 (1997)
  2. [2]山下優一 他、「無侵襲脳機能画像計測システムとしての光トポグラフィ開発」、MEDIX vol. 29 (1998)

Discussion 2:fMRIや脳波計などと比べた特長は?

  • 光トポグラフィ装置については少しわかりました。一方、fMRIや脳波計なども有名ですね。いろいろな装置がありますが、どの装置が一番良いのですか?
  • そうですね、fMRIや脳波/脳電位(EEG)などの他に、脳磁図(MEG)、PETなどもありますね[3]。多チャンネルNIRSとしても知られる光トポグラフィ装置も含めて、それぞれに特長があります。今のところは「これがあれば全てOK」であるオールマイティな装置は、残念ながらありません。利用者が目的に応じて装置を選択しているようです。
  • それぞれの装置の特長を簡単に教えてください。
  • EEGやMEGは、神経の電気的(磁気的)活動をミリ秒程度の時間分解能で測定します。fMRI、PETおよび光トポグラフィ装置は血流/血液量(ヘモグロビン濃度)変化などを測定し、時間分解能は少し遅くなります。
  • 空間分解能はどうですか?
  • 空間分解能なら、やはりfMRIやPETの性能が高いです。また、これらの装置は頭部を断層像としても測定できます。一方、光トポグラフィ装置は、fMRIほど空間分解能は高くはありません。
  • とすると、光トポグラフィ装置の特長は何でしょうか?
  • それは「測定時の自由度が高い」ということです。fMRIやPET、MEGは専用の装置室が必要です。なおかつ、測定中、被検者は固定姿勢を保ち続ける必要があります。しかし、光トポグラフィ装置の場合、検査室や普通の部屋など、身近な場所で測定できます。また、測定中に固定姿勢を続ける必要も無いため、心理的にも被検者の負担は軽減できます。
  • 測定場所の自由度なら、EEGも光トポグラフィ装置と同様に高いですね。
  • そのとおりですね。しかしEEGでは、測定中に手足や口などを動かす場合は注意が必要です。脳波や脳電位の信号上に筋肉の動きによる筋電信号が重畳し、ノイズとなってしまうからです。その点、光トポグラフィ装置なら、ある程度の手足の動きや発話などが可能になります。
  • なるほど。この自由度の高さが、最近注目されている理由の一つなのですね。
  1. [3]柴崎浩 他、「脳のイメージング―脳のはたらきはどこまで画像化できるか」、共立出版、(1994)

Discussion 3:絶対値は測定できるか?

  • ヘモグロビンの濃度変化を測定することは「Discussion 1」でわかりました。その際、濃度変化の絶対値は測定できますか?
  • 残念ながら絶対値は測定できないです。測定しているのは、ある基準状態(例えば安静状態や参照状態)からの相対的な濃度変化です。
  • それは残念ですね。でも、どうして絶対値が測定できないのですか?
  • 単純に言うと、頭部での光の伝播経路が特定できないためです。濃度変化を絶対値として定量化するには、脳の活動領域で「光が飛行した長さ」を知る必要があります。しかし、頭皮や頭蓋骨、大脳皮質中での複雑な光散乱のため、活動領域で「光が飛行した長さ」がわからないのです。
  • 何故、この「飛行した長さ」がわからないのか、くわしく説明してくれませんか?
  • 例えば徒歩での帰宅途上で、ある交差点から隣の交差点まで歩く距離を考えます。真っ直ぐに歩いていれば、これら交差点間の直線距離がそのまま歩いた距離ですね。
  • そうなりますね。
  • しかしお酒に酔っていればどうでしょう。右にフラフラ、左にフラフラ、後ずさりをして、また前に歩き出す。これを繰り返して進むことになります。そうすると、実際歩いた距離がわからなくなりますよね。頭部では、これに類する複雑な光の散乱伝播が起こっているのです。
  • 交差点と交差点の間が脳の活動領域で、歩いた距離が光の飛行した長さなのですね。それでは、光の飛行距離と濃度の定量化とはどのような関係があるのですか?
  • 濃度変化量が同じでも、飛行距離が長くなればヘモグロビンによって吸収される光の量は多くなりますし、飛行距離が短いと吸収される光は少なくなります。このような関係があるため、濃度の定量化には飛行距離の特定は必要になります。
  • 酔って歩く距離が長くなると、ハンカチを落としたり靴を失くしたりする可能性が増えることと同じですね。
  • 少し苦しいアナロジーかもしれないですが、定性的には似ていますね。とにかく、以上の理由のため、光トポグラフィ装置では測定結果を示す単位として、濃度を示すモル/リットル(mol/l もしくはM、通常これに1/1000を示すミリを付けている)と、長さを示すmm(ミリメートル)とを乗じたm(mol/l)・mm(もしくは、mM・mm)を用いています。この単位は、今では多くの論文などで使われています。

Discussion 4:どのような分野で利用されているのだろう〜保険適用と先進医療〜

  • この光トポグラフィ装置は、どのような分野で利用されていますか?
  • 医療分野で言うと、脳外科関連と精神科関連の保険適用が代表的です。
  • 保険適用されているのですね。どのような内容ですか?
  • 光トポグラフィー検査の診療報酬(D236-2)として、「抑うつ症状の鑑別診断の補助に使用するもの」、「脳外科手術の術前検査に使用するもの」が適用されています。精神科関連の文献としては[4][5][6]、脳外科関連の文献としては[7][8][9]があります。
  • その他にも、どのような分野で使われているのですか?
  • リハビリテーション関連や小児科関連など、多くの分野で論文があります。さらにさまざまな分野でも注目を集めていますよ。
  • すでに医療現場で用いられているのですね。さらに適用分野が広がればよいですね。
  1. [4]福田正人、「精神疾患の診断・治療のための臨床検査としてのNIRS測定」、MEDIX vol. 39 (2003)
  2. [5]Tomohiro Suto, et al., “Multichannel near-infrared spectroscopy in depression and schizophrenia: cognitive brain activation study,” Biol. Psychiatry 55, 501-511 (2004)
  3. [6]福田正人 編、「精神疾患とNIRS−光トポグラフィー検査による脳機能イメージング」、中山書店 (2009)
  4. [7]渡辺英寿 他、「光トポグラフィの臨床応用」、MEDIX vol. 30 (1999)
  5. [8]Eiju Watanabe, et al., “Non-invasive assessment of language dominance with near-infrared spectroscopic mapping,” Neurosci. Lett. 256, 49-52 (1998)
  6. [9]Eiju Watanabe, et al., “Noninvasive Cerebral Blood Volume Measurement During Seizures using Multichannnel Near Infrared Spectroscopic Topography,” Journal of Epilepsy 11, 335-340 (1998)

Discussion 5:多チャンネルNIRSは日立から始まった!

  • そもそも光トポグラフィ装置は、いつ頃、どこで開発されたのですか?
  • この光トポグラフィ装置は、多チャンネルNIRSとも言われていることは、前にも説明しましたね。この技術は、日立が世界で初めて開発したのです。
  • 日立から始まったのですか!
  • そうです。まず、大脳皮質のヘモグロビン濃度変化のイメージングとして、多チャンネルNIRSのコンセプトを明確にしました。それと同時に具体的に実現したのです。それが光トポグラフィ装置につながっていきました。
  • もう少し詳しく教えてください。
  • 1995年に日立の研究グループから発表された論文が、多チャンネルNIRS(光トポグラフィ)について世界的に最初です[10]。この論文では、多チャンネル化の具体的な方法論が提示されると同時に、今ではすっかり見慣れるようになった光トポグラフィ画像も示されています。その後、1990年代の後半に当時の日立メディコが世界で初めて製品化したのです。また、光トポグラフィ装置の基盤となる多くの技術も論文として発表されており、関連した総説もいくつかあります[11][12]。その技術の詳細は、この講座の「技術編」でじっくり説明しますよ。
  1. [10]Atsushi Maki, et al., “Spatial and temporal analysis of human motor activity using noninvasive NIR topography,” Med. Phys. 22, 1997-2005 (1995)
  2. [11]Hideaki Koizumi, et al., “Higher-order brain function analysis by trans-cranial dynamic near-infrared spectroscopy imaging,” J. Biomed. Opt. 4, 403-413 (1999)
  3. [12]Hideaki Koizumi, et al., “Optical topography: practical problems and new applications,” Appl. Opt. 42, 3054-3062 (2003)

Discussion 6:世界が認めた日立の光トポグラフィ装置

  • 開発も製品化も日立が世界で最初だということはわかりました。でも、世界では、日立の光トポグラフィ装置はどのように評価されているのでしょうか?
  • もちろん、エポックメイキングな技術・製品として海外や国内で高く評価されています。例えば、2002年には米国R&D Magazine社による「R&D 100 Awards」に選ばれています。これは毎年世界中で発表された製品の中から最も技術的に重要と評価された100の製品に与えられるものです。
  • 国内での評価はどうですか?
  • 国内では、多くの学会や団体などから賞を受賞しています。例えば、2003年に受賞した「大河内記念賞」と、「平成16年度 全国発明表彰 21世紀発明奨励賞」などが挙げられます。「大河内記念賞」は、理化学研究所の第三代所長であった大河内正敏博士を記念して設立された大河内記念会により、生産工学上優れた独創的研究成果をあげ、論文や発表により学術の進歩と産業の発展に多大な貢献をした業績に贈られるものです。また、発明表彰は100年以上の伝統を持つ発明協会が主催し、独創性に富む優れた発明に対して贈られます。
  • いくつかの伝統のある賞を受賞し、まさに、独創性が認められているのですね。ところで、海外では光トポグラフィ装置は使われていますか?
  • 北米や欧州を中心にして使われています。2000年代の始めごろからすでに海外に輸出されていて、海外での実績も多いのです。また日立の装置を用いた海外からの論文発表も多く、特にドイツからはかなりの数の論文が出ていますよ。
  • 世界でも認められた確かな技術と、豊富な経験と実績で安心して利用できるということですね。


  • 次からは「技術編」です。この「原理編」でご質問やご不明点などがあれば、「お問い合わせ」からお気軽にお尋ね下さい。お待ちしています。

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