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デジタル技術でより安全で精度の高い手術を

〜MRIや手術用器材をIoTで統合。次世代の手術を実現した「スマート手術室」〜

その場で撮像されたMRI画像や患者さんの生体情報など、さまざまなデータを統合しモニタに集約。
術者とスタッフがリアルタイムで共有しながら判断・手術を行う、最先端の手術室とは。

スマート手術室

より安全で精度の高い手術をめざして、進化する手術室

東京女子医科大学 村垣善浩先生
先端生命医科学研究所
先端工学外科学分野/脳神経外科(兼任)教授

スマート手術室の構成(360度パノラマ映像)

一般的な脳神経外科の手術室は、多くの最新医療機器や設備であふれ、そこから生まれる膨大な情報を、医師やスタッフが限られた時間内に判断して治療にあたっています。しかし、これらの機器はお互い独立して稼働しており、治療として行われる医療行為やその結果である患者さんの生体情報は、それぞれに個別に記録されるに過ぎませんでした。

2000年、手術室にMRIを導入した東京女子医科大学と日立は、その後もより高精度な手術の実現のために研究を重ねました。その結果が、MRI装置を軸に各種医療機器や設備を、IoTを活用して連携させ、手術の進行や患者さんの状況を共有して把握することで、手術の精度と安全性の向上をめざした「スマート手術室」の開発につながったのです。

そしてこのスマート手術室は今、さらなる進化を続けていると、村垣先生は話します。

「現在、スマート手術室はAMED(*1)(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の計画と支援により、『SCOT』(*2)(Smart Cyber Operating Theater)(*3)という『次世代治療室』のプロジェクトに進化しています。広島大学病院(*4)、信州大学医学部付属病院(*5)、東京女子医科大学病院で臨床研究が始まっていて、特に私たち東京女子医科大学では、『SCOT』の最終目標である『Hyper SCOT』の開発を行っています」

*1 AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構):医療の分野における基礎から実用化までの研究開発について、その成果が円滑に実用化されるように大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境整備を行う。

*2 SCOTは、学校法人東京女子医科大学の登録商標です。

*3 Smart Cyber Operating Theaterは、学校法人東京女子医科大学の登録商標です。

*4 広島大学病院:国立大学法人広島大学の大学病院

*5 信州大学付属病院:国立大学法人信州大学医学部付属病院

データの蓄積とAIで、患者さんの手術後の未来まで予想

手術戦略デスクによるデータ共有のイメージ

「SCOT」のコンセプトは、医療機器の情報統合化により、より少ないリスクで高い治療効果の得られる精密医療を実現することです。例えば「Hyper SCOT」では、メーカーの違う約20種類の機器がIoTによって統合されます。記録・再レイアウトされた情報は「手術戦略デスク」と呼ばれる大型ディスプレイに表示されます。術野映像・MRI画像・生体情報モニタ・電気メスや術者用ロボットの使用状況などが時系列をそろえて整理統合されて表示・保存され、医師やスタッフの間で共有できるのです。

また、この大型ディスプレイは自由に設置することが可能で、たとえば、東京女子医科大学では医局に置かれています。ここでベテラン医師の俯瞰(ふかん)した立場からの助言がもらえる、逆に若手の医師が、熟練執刀医の過程をリアルにみることもできます。

取り残しを少なくすることが、術後の経過を大きく左右

手術中のMRI画像

*オープンMRI:Patient Friendly(=患者さんに優しい)をテーマに、患者さんが検査を受ける空間を従来の筒状ではなく開放したMRI装置。

手術中にMRIを活用する理由のひとつが、ブレインシフトの可視化です。ブレインシフトとは、脳腫瘍手術の際、開頭したところで脊椎液が失われてしまい、脳が沈み込み変形する現象です。もちろん手術前にも脳のMRIを撮像しますが、この現象によって、術前の画像と脳の位置にズレが生じます。そこで手術中にMRI画像を撮影することで、脳の的確な位置情報を確認しながらの執刀が可能になります。

もうひとつの役割が、摘出範囲の判断です。脳腫瘍は、じわじわと周囲に病変が広がる浸潤(しんじゅん)性で、正常組織との境目がわかりにくいという特徴があります。また、脳には運動野や言語野など、人間が生活するために重要な機能が集中しており、損傷してしまうと合併症も引き起こしてしまうのです。これまで腫瘍の摘出範囲の判断は、医師の「経験と技術」に頼ってきましたが、手術中のMRI撮像によって、的確な切除範囲を「見える化」したのです。術者はMRI画像を見ながら、その範囲を確認し、切除を行います。

「悪性腫瘍の摘出率は、その後の病状の経過を大きく左右します。東京女子医科大学病院は国内でも有数の手術件数がある病院です。たとえば脳腫瘍の中で最も困難といわれる神経膠腫の場合、その中でもグレード3の患者さん(220人)の5年生存率が74%でした(2016年調査)。一般的には40〜60%なので良好な成績だと思っています」(村垣先生)

村垣先生は、「SCOTでは、手術に関わるあらゆるデータを統合し、解析することが可能です。これによって、手術を行う医師の判断を、データの面から支援できるようになり、治療の効率性や安全性の向上が期待できます。また近い将来には、このデータの蓄積を基に、AIによる最適な治療方針のサポートや、患者さんの手術後の未来まで予測できるでしょう」と話します。

手術のデータを蓄積し、
医師の「新しい目」となる支援をめざす
日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
外科治療ソリューション本部
本部長 中西彰
手術のデータを蓄積し、医師の「新しい目」となる支援をめざす 日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット 外科治療ソリューション本部 本部長 中西彰

日立は、手術室内に設置するオープンMRI装置、手術ナビゲーションシステム、映像統合配信システムと、その周辺機器をひとつのパッケージにしたデジタル手術支援ソリューション「OPERADA」を提案している。手術室におけるさまざまな情報をデジタル技術で統合することで、どのようなサポートが可能になるのか。デジタル手術支援ソリューションの展望について、日立製作所・外科治療ソリューション本部の中西はこう話す。

OPERADA使用例

日立では、2000年に東京女子医科大学病院脳神経外科手術室にオープンMRIを提供したのをきっかけに、同大学病院と共同研究で、デジタル技術による手術支援に関するノウハウを蓄積してきました。それらを基に、デジタル手術支援ソリューションとしてパッケージ化したのが「OPERADA」です。導入から実際に使われるまでの支援、使われ始めてからのメンテナンスなどを一貫して提供することができます。

MRIシステムを、限られた広さの手術室内で使用することは、簡単なことではありません。MRIで起こる磁場漏えいが、精密機器や磁性のある医療器具に影響を与える可能性があるためです。

日立のオープンMRIは永久磁石を使用しているのが特徴で、永久磁石は磁場漏えいの範囲が狭いことから、限られた広さでも精密機器や医療器具に影響を与えないように設置することが可能です。手術室をMRI装置を含むひとつのパッケージにし、手術中に同じ室内でMRIを撮像できることで、手術の判断支援はもちろん、撮像による手術の中断時間の短縮、感染症リスクの低減などのメリットが挙げられます。

過酷な状況下で手術を行う医師の判断をデータで支援

「OPERADA」をひとつのソリューションとして提案する大きな理由は、手術データのデジタル化です。「OPERADA」内で行われる手術については、手術中に撮像したMRIの画像や腫瘍の切除の範囲、切除の際のメスの角度までリアルタイムで手術室内にいる医師やスタッフに共有され、また、そのままデータベースに記録されるようになります。

例えば脳腫瘍の手術は、5〜10時間という長時間にわたります。繊細な技術が求められ、同時に体力的にも厳しい中で、執刀医は切除部分についてのさまざまな判断を強いられますが、これまで医師の経験と知識が頼りになっていました。日立では、過酷な状況で行うこの判断を、デジタル技術を活用してサポートしていきたいと考えています。「OPERADA」はすでにその基盤を作り出しています。今後は症例数が積み重ねられ、蓄積されたデータベースにAIやIoTの技術を取り入れることで、「医師の新しい目」となる情報を提供し、判断支援を行っていきます。

さらにこうした技術を、海外に提供するという構想も広がっています。実際に、病院の広さや環境が日本に似ているアジア諸国は、コンパクトに設置できて5年後生存率に実績を残すデジタル手術支援ソリューションに大きな関心を寄せています。脳腫瘍手術による生存率が少しでも上げられるように、日本発で海外の医療に貢献し、さらなる技術の進化をめざしていきます。

日立がめざすのは、デジタル技術でヘルスケアにイノベーションをおこすことです。このデジタル手術支援ソリューションにより、一人ひとりに精度が高く安全な治療ができる環境をサポートしてまいります。