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痛みがなく、がんを治せたら

これまで困難とされてきたがんの治療を、手術の痛みがなく治すことができたら…※。
そのような開発者たちの想いが、粒子線という先進技術を用いた「身体への負担が小さい」がん治療装置を生み出しました。
私たちは、この粒子線治療システムがこれからも患者さんの生活の質向上をサポートできるよう、開発を続けていきます。

「切らないがん治療」編の映像はこちらへ

※現在のがんの治療法は、患部の位置や症状に応じて最適な治療法が選択されております。

QOL(生活の質)を大切にした治療法を

食事や生活習慣の変化などを背景に、がんの患者数は増え続け、いまや誰もががんにかかるリスクを抱えています。その一方で、これまで困難だったがん治療は大きく前進してきました。最近では治癒率の向上とともに、患者さんが治療と社会生活の両立を実現できる、QOL(Quality of Life)の向上が求められるようになっています。がんは「どのように治すか」が問われる時代になっているのです。

がん治療は、「外科療法(手術)」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」の3つに大きく分けられますが、このうち放射線治療は「切らずに治療する」ために痛みを伴わず、肉体的な負担も小さい治療法として知られています。この放射線治療分野のひとつに「粒子線治療」があります。

粒子線治療とは、患部に水素の原子核である陽子や、炭素イオンを照射し、がん細胞を破壊・死滅させる治療法です。

この治療法は、患部の深さに合わせて粒子線の速度を調整することで、患部に線量を集中できる特長を活かし、患部をピンポイントで治療します。

また、粒子線治療は、患部にピンポイントで照射できるため、治療に伴う身体への負担が少ないという特長があります。このため、仕事や日常生活を続けながら通院による治療も受けることができます。粒子線治療が「患者さんにやさしい治療法」と言われる理由は、治療による身体への負担が少ないだけでなく、がん治療と社会生活を両立できる点にあります。

呼吸や感情で動く患部にも、ピタリと照準

日立が、北海道大学病院との共同開発で実現した陽子線治療装置には、大きく2つの特長があります。

ひとつ目は、動き続ける患部位置をとらえられること。がんの患部によっては、呼吸や心拍動、腸の活動による動きだけでなく、緊張や不安など感情によっても位置が変わる場合があります。これまでは照射する範囲を広く取ることで動くがんに対応してきましたが、動体追跡技術と呼ぶ、患部の動きを観測しながら照射する技術により、文字通り「動きをとらえる」ことが可能になりました。

また、さまざまな患部形状に対応できることも特長のひとつ。がんが発生する臓器や患部形状は、大きさや位置がそれぞれ異なります。そこで開発されたのが、スポットスキャニング照射技術です。陽子線を細く絞り、患部形状に合わせて走査することで、陽子線を患部により集中して照射できるようになりました。

これらの動体追跡技術とスポットスキャニング照射技術を組み合わせることで、呼吸などにより動く患部に対しても患部形状に合わせて集中した照射ができるようになり、陽子線治療の特長がさらに一歩進みました。

「以前から陽子線治療はスポットスキャニング法が主流になるだろうと言われていました。しかし、呼吸などにより移動する臓器への照射を実現する上での課題もありました。日立との共同開発では、ヘルスケア全体における陽子線治療の位置づけについて常に話し合いながら取り組むことができました」と、北海道大学病院陽子線治療センター長 白土博樹氏は話します。

最先端技術で、患者さんにやさしい治療を――。
日立は今後もヘルスケアイノベーションを推進し、世界中の人々が健康に暮らせる社会に貢献していきます。

―世界初の照射技術を導入、子どもの言葉が支えに―


日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット
放射線治療システム事業部 事業部長
伊丹 博幸

世界トップクラスのがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンター(米国テキサス州ヒューストン)では、2006年から日立の粒子線治療システムが稼働を開始。2008年には、世界で初めてFDA(アメリカ食品医薬品局)の販売許可を取得したスポットスキャニング照射技術が導入されました。長年開発に携わってきた日立の放射線治療システム事業部長・伊丹博幸は、次のように当時を振り返ります。

日立が粒子線治療システムに取り組んだのは、電磁力で原子を構成するさまざまな原子核を加速して制御する加速器(シンクロトロン)の開発実績があったからです。私たちは、粒子線を加速・制御する技術には自信がありました。

国内初の病院併設型の陽子線治療装置として、筑波大学附属病院へ納入後、世界トップクラスのがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターに採用されることに。粒子線治療装置の実績が少ないながら、日立が培ってきた様々な要素技術を全面的に信頼してくれたのです。これに応えるため、スポットスキャニング法という世界でも初めての照射法を完成させる必要がありました。

このプロジェクトはまず、従来法による粒子線治療を3室から開始し、それにスポットスキャニング照射治療室1室を加えるものでした。スポットスキャニング照射治療が加われば、より精度が高く、患者さんへの負担を極力減らした治療が実現できると期待がありました。しかし、実用化にはさまざまな課題があり、約2年間、毎月日本と米国を往復しながら現地調整、議論を重ねた苦しい時期もありました。そのとき病院で目にしたのが、小児がんの治療を受ける子どもの写真や寄せ書きです。この子たちが日立の粒子線治療システムで治療を受けることで未来が拓ける、これからの長い人生にも関わる技術なのだという思いが、現場の気持ちの支えになっていました。

シンクロトロン(加速器)によって、粒子を光の約70%のスピードに加速して治療室に送り出す。
※詳細はこちらへ

これからめざすのは照射精度のさらなる向上に加えて、小型化・低価格化、操作性の改善などハードの部分を向上させること。さらにソフトの面では、さまざまな病院と協力して過去の治療データを活用することなどにより、患者さん一人ひとりに最適な照射方法を容易に選択できるシステムの実現をサポートすることです。これらによってさまざまな施設が粒子線治療を導入しやすくなり、患者さんにもより安心していただけるようになると思います。

私たちは、日立が培ってきた技術と、データの活用、そして世界中の病院との協創によって、がん治療のイノベーションに貢献していきたいと考えています。