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Human Dreams. Make IT Real.

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21世紀のITに求められるものは―ITは人のハピネスに貢献できるのか

2013年7月26日

コンピューティング技術やセンシング技術の進化を背景に、ITの発展は新たなフェーズへと入っている。情報爆発時代、ビッグデータ時代などと呼ばれる今日、これまでは手段がなく得られなかったデータが取得できるようになり、見過ごされてきたデータや、取得しても使い道がなく捨てられてきたデータを活かすことも可能になった。そうしたビッグデータは、最適に処理し、分析する技術と、新たな気づきを導き出す視点があってこそ、秘められた価値の顕在化と、真の活用が可能となる。そして、ビッグデータの真の活用が可能になったとき、20世紀の合理化に寄与してきたITとは異なる、新たな発展の形が見えてくる。日立の研究でも、ビッグデータの分析によって人間的な幸福の追求と企業利益の向上が結びつくことが明らかになった。こうした新たなIT活用のあり方が、社会イノベーションに貢献していくと期待されている。
21世紀のITに求められるものとは何か。ITは人間的幸福に貢献できるのか。生命と情報との関わりについての深い考察で知られる東京大学 西垣通名誉教授と、人間行動データの解析技術に取り組む日立製作所中央研究所の矢野和男主管研究長が論を交わす。

[写真] 西垣 通

西垣 通
東京大学 名誉教授、 東京経済大学 コミュニケーション学部教授
東京大学工学部計数工学科卒業。
1972年 日立製作所入社。コンピューター・ソフトの研究開発に携わる。
その間、スタンフォード大学で客員研究員。
その後、明治大学などを経て、2000年、東京大学大学院情報学環教授。
2013年定年退官、東京大学名誉教授、東京経済大学コミュニケーション学部教授に就任。
工学博士。専攻は情報学・メディア論。

[写真] 矢野 和男

矢野 和男
1984年日立製作所入社。10年前から先行してビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引。論文被引用件数は2500件超。特許出願350件超。延100万日を超えるデータによる業績向上実績と人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。
現在、(株)日立ハイテクのビッグデータ事業化PJ長を兼任。博士(工学)。IEEE Fellow。日立返仁会 総務理事。東京工業大学大学院連携教授。

ビッグデータの可能性を引き出す三原則

矢野
私は10年あまり前、まだビッグデータという言葉もなかった頃から、実世界の大量データを収集する技術と、収集したデータそのものの価値、そして可能性に注目してきました。「ビジネス顕微鏡」という行動計測システムで人間の行動を100万日にわたって計測し、蓄積した10兆個ものビッグデータから、人間行動データの解析技術の開発に取り組んできました。
西垣
行動データはどのように取得するのですか。
矢野
赤外線センサーと加速度センサーを内蔵した名札型のデバイスで、誰と誰が、いつ、何分間対面したかといったコミュニケーション情報や、身体的な活動をデータとして取得します。
その研究は最初から思い通りにうまくいったわけではありませんが、最近になってさまざまな成果が現れ始め、ビッグデータを効果的に活用するポイントも見えてきました。その一つ目は、ビッグデータを何に使いたいのか、目的を明確にすること。二つ目に、その目的に関係するあらゆるデータを幅広く集めること。三つ目は、集めたデータからどんな価値を生みだすかは、仮説に頼らず、コンピュータに逆推定させること。これが、私が失敗からつかんだ、ビッグデータ活用の三原則です。
西垣
特に三つ目は重要なポイントですね。ビッグデータ活用を並列分散処理の単なるバリエーションととらえてしまうと、処理するデータ量が増えるというだけで、何もイノベーションにつながらない可能性がありますから。
矢野
これまでの情報システムは規定のモデルの中でデータを処理するという仕組みになっているため、最初に仮説を作らなければなりません。でも、ビッグデータ処理では逆に、データからモデルを作り出すという、仮説に基づかない情報処理こそが、真の価値を生み出せると考えています。
西垣
データをして語らしめるということですね。人間の行動データから価値を生み出すには、そのような処理でなければならないでしょう。われわれ現代人は、とかく論理的に表現されたものや、それを抽象化した数式だけが意味のあるデータと捉え、それ以外の部分を切り捨ててしまっています。しかし、実際にわれわれの日常を構成しているのは、そういう上澄みの部分だけでなく、むしろわれわれが意識していない行動や心の動きですよね。