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環境への取り組み

Hitachi

「生きものの視点から環境問題を訴える生物フォトジャーナリスト」藤原 幸一さん 世界をめぐり、精力的に取材活動を行っている藤原さんに、生きものを通して見た地球環境についてお話を伺いました。

(2012年3月掲載)

サンゴ礁のメカニズムが知りたい!毎日海に潜っていた学生時代

南極、アフリカ、南米、熱帯アジア…。世界をめぐり、地球環境問題をテーマに取材を行っている藤原さん。その活動の裏には、探究心あふれる研究者としての顔があります。

藤原さん秋田で過ごした子どものころ、家の周りには、わくわくするような自然がたくさんあって、遊ぶ材料に事欠きませんでしたね。学校から帰ると犬を連れていつも走り回っていました。近所に小さな山があって、ちょっと掘るとわき水は出るし、縄文土器や貝の化石もたくさん採れるんですよ。幼年期の豊かな自然体験は今の仕事に大いに影響していると思います。

高校から大学に進学するときは、「化学」を学ぼうかと考えていたのですが、研究室にこもるより外に出たい!と生物学を選びました。そして、さらに海洋生態学を学ぶためにオーストラリアの州立大学へ。世界最大のサンゴ礁、グレート・バリア・リーフにある研究所で4年間、サンゴ礁の研究にいそしみました。

グレート・バリア・リーフを初めて見たときは「キレイ!」を通り越して「メカニズムを知りたい!」と思いました。

世界最大のサンゴ礁、グレート・バリア・リーフの写真 ©FUJIWARA Koichi
世界最大のサンゴ礁、グレート・バリア・リーフ

藤原さんグレート・バリア・リーフを初めて目にした時は本当に驚きましたねぇ。だって、ジェット機で飛べども飛べどもサンゴ礁なんですよ。日本列島でいえば、ちょうど北海道から九州くらいまでの距離、2,000kmも続くんです。「こんな巨大なものを、生きものが作っているなんてあり得ない!一体、どんなメカニズムになっているんだ?!」と。「キレイ」っていうのを通り越して、私はすぐ、その理由に関心が向いちゃうんですよね(笑)。

研究所では毎日、海に潜って生きものの生態を写真で記録し、サンゴ礁の組成を調べていました。考えてみると、高校時代に写真部に入って以来、常にカメラとともに行動しています。今の仕事に就いたのは自然な流れかもしれません。

行って、見て、初めて知った美しい風景の裏側

グレート・バリア・リーフでの研究生活を終えた後も、藤原さんの生きものへの興味は尽きません。「知りたい!」と思えば、その場所に飛んで行く。フィールドワークが教えてくれることは大きいとおっしゃいます。

美しい風景の影に隠れた、生きものたちの過酷な状況を、多くの人に知らせなくては!

藤原さん現地に足を運び、自分の目で見ないと「現実」を知ることができない。それを特に痛感したのは、ペンギンのガイドブックを作ったときでした。

ペンギンは、南極やオーストラリア、アフリカなど、世界に全部で18種類いるのですが、学生の頃に見たペンギンの本には写真がなかった。それなら、自分で本を作っちゃえ!と、1990年から10年以上かけて、ペンギンの生息地を訪ね歩きました。そこで初めて知ったのが、ペンギンたちがおかれた過酷な環境です。絵はがきで見るような美しい自然に囲まれたペンギンばかりではない、まったく予想外の現実が待ち受けていたんですよ。

コロニーに戻る道をゴミの山に阻まれる、南極のペンギンの写真 ©FUJIWARA Koichi
コロニーに戻る道をゴミの山に阻まれる、南極のペンギン

藤原さん南極では、温暖化の影響で氷河や永久凍土が溶け、ペンギンのコロニー(繁殖地)が狭められています。その上、世界各国の南極観測基地から出た大量のゴミがペンギンたちの体を傷つけ、命を奪っている。ニュージーランドの森に生息するペンギンは、森がどんどん切り開かれ牧場にされてしまったことで、住みかを失いつつあります。ペンギンたちは、牧場と牧場の間にわずかに残る木立で子育てをしているのですよ。

一方、南大西洋のフォークランド諸島。ここいるペンギンは順調に個体数が増えているのですが、なぜだかわかりますか?この地域で起きた紛争の際、埋められた地雷のおかげなんです。皮肉にも人間が入れない地雷原だから、開発もされず、ペンギンたちのパラダイスとなった。幸い、ペンギンの体重は軽いので、地雷に乗っても爆発しませんからね。

こうした現実を目の当たりにして、あぁ、私たちは物事の表面しか見ていなかったのだな、と痛感しました。ニュージーランドの、羊や牛がいる牧場の風景なんて、一見、とてものどかで豊かな自然が広がっているように見えるでしょう。だけど、ペンギンの目から見たら、なんたる破壊かと。美しい風景の影に隠れた生きものたちの現実を、多くの人たちに知らせなくてはいけない、と強く思いました。

グレート・バリア・リーフがあと20年でなくなる? 海面下で起きている非常事態

藤原さんは、かつて研究していたグレート・バリア・リーフでも、美しく見える海面下で深刻な問題が起きているとおっしゃいます。

今も変わらず、人気の観光地であるグレート・バリア・リーフですが、実際はとても深刻な状態なのです。

藤原さん2000年を過ぎたあたりからでしょうか。サンゴ礁の危機が叫ばれるようになりました。あの巨大なグレート・バリア・リーフも、あと20年でなくなるのではないかといわれています。

まず原因として考えられるのは、地球温暖化です。サンゴの骨格のなかには「褐虫藻」(かっちゅうそう)という藻類が共生していて、サンゴの成長を促しているのですが、海水温が上がると出ていってしまう。骨格だけになったサンゴは白く見えるので「白化現象」といわれる状態になります。これが10日以上も続くと、サンゴは死んでしまうのです。そのほかにも、サンゴの病気が次々に報告されています。

私が研究所にいたころ、このような現象はほとんどありませんでした。温暖化だけではなく、河川から海へ流れ出る汚染水など、さまざまな要因が重なり、サンゴが弱っているのでしょう。かつての健康的なサンゴ礁を知っている私にとって、こうした状況は一層切実な問題に感じられるのです。

白化現象を起こしているサンゴの写真 ©FUJIWARA Koichi
白化現象を起こしているサンゴ

藤原さんサンゴ礁は、面積にすると海全体のわずか0.2%に過ぎません。けれど、とても重要な役割を果たしています。地球上で排出されるCO2の約3分の1は、海が吸収しているのをご存じですか?サンゴ礁は海に溶け込んだCO2を骨格に取り込み、とどめてくれる。だから、サンゴ礁がなくなると、封じ込めていたCO2が大気中に戻され、温暖化がさらに加速する可能性があります。

また、サンゴ礁にはプランクトンがたくさんいて、それを食べる生きものたちが集まってきます。実に、海の生きものの4分の1にあたる種類がサンゴ礁に生息している。「海の熱帯雨林」と形容されるほど豊かな生態系を形成しているのです。そんな生きものたちの住みかがなくなったら…。

多大な影響があることは容易に想像がつきますよね?漁業に打撃を与え、食糧問題などの深刻な事態を引き起こすでしょう。サンゴ礁と聞くと遠いところの話のように思うかもしれませんが、私たち人間にも直接影響する、無視できない大きな問題なのです。

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