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環境への取り組み

Hitachi

「命の輝きを伝える旭山動物園の園長」坂東 元さん 日本最北にありながら、国内外から多くの人々が集まる旭山動物園。園長の坂東元さんに動物たちのこと、動物園の環境への取り組みについて、お話を伺いました。

(2011年11月掲載)

動物たちの「命」と向き合うために―。獣医になることを決意

旭山動物園の人気のもととなった、動物の生き生きとした表情が見られる「行動展示」。この展示の考案者である園長の坂東さんは、1986年、獣医として旭山動物園に入園しました。今の自分があるのは、子どもの頃、生きものと暮らした体験の影響が大きいといいます。

子どもの頃から、いろいろな生きものたちがそばにいて、僕の日常は驚きに満ちていました。

坂東さん子どもの頃は、父の転勤に伴って各地を転々とし、小学校だけで4回転校しました。新しい環境になかなかなじめなくて、昆虫やザリガニ、ヤモリなどいろんな生きものが遊び相手でしたね。中学から高校にかけては、セキセイインコを家のなかで放し飼いにしていました。20羽くらいが家の中をバタバタ飛び、靴箱やタンスのすき間に巣を作っていたんですよ。

複数羽いると、鳥は鳥同士でいるほうがいいので人間にあまり近づかなくなるんです。ところがある時、僕が食事をしていると、一羽がぴゅーっと飛んできて肩に止まったことがありました。何度も来るので「あれ?」とは思ったのですが、さして気に留めなかった。そうしたら翌朝、その鳥が死んでいて…。ショックでしたね。きっと体調の異変を感じて訴えにきていたに違いない、それなのに気づいてやれなかったと思うと悔しくてたまりませんでした。

それからしばらくして、セキセイインコのヒナが次々に死んでしまったことがありました。小鳥を診てくれる病院が見つからず、苦しんでいるヒナを持って押しかけても門前払いされてしまい…。どうして「命」にちゃんと向き合ってくれないんだろう、と憤ったものの、結局何の手だてもなく最後の一羽も僕の手の中で死なせてしまいました。それが決定的な出来事でしたね。それなら「自分がやるしかない!」と獣医になる決意を固めたんです。

ペットや家畜とも違う動物園の動物たち

いろいろな生きものとの体験を通して、獣医をめざすことにした坂東さん。大学を卒業したのち、いったんは酪農専門の獣医になろうとしますが、希望者が多く断念。そこへ舞い込んだのが旭山動物園の獣医の仕事でした。

野生動物に出会って、「なんだ、こいつらは!」と彼らの生き方に圧倒されましたね。

坂東さんどちらかというと僕は、動物園に対して肯定的ではなかったんですよ。どうして動物をおりに閉じ込めるんだろう、つまらないなと思っていました。

ところが旭山動物園に就職し、動物たちに直接かかわるようになって、たちまち見方が一変しましたね。動物園にいる動物は、飼育下で生まれても「野生」の感覚で生きているんですよ。長い時をかけて飼いやすく改良されたペットや家畜とは全然違うものなんです。

坂東さん僕が一番驚かされたのは、野生動物たちの生き方です。野生動物は本来、「食べる」「食べられる」という食物連鎖の関係にあるものが、空間を共有して生きています。たとえば同じ木に昆虫と小鳥とフクロウが一緒に生活している。彼らにとって違う種に触れられるときは食べられるとき、つまり「死ぬ」ときです。だから異なる種で仲よくなることは決してないんですよ。それは動物園の動物も同じです。彼らは人間の存在を認めるけれど、決して依存しないし、なれ合うことはしない。

それと、僕が衝撃を受けたのは彼らが死ぬときでした。潔いくらいに淡々と、自分の身に起きたことを受け入れて死んでいく。交通事故にあって運び込まれたシカは、元気なときと同じきれいな目のまま最期を迎えるんですよ。それが僕にはとても不思議で…。

動物の本質的な部分というか、そのシンプルな生き方、頑とした「尊厳」みたいなものに触れて、本当に圧倒されましたね。

動物の素晴らしさを自分たちの言葉で伝えたい!

動物園の動物たちに接し、その生き方に感動した坂東さん。
この気持ちをお客さんにも伝えたい、そんな思いが旭山動物園の現在の姿へとつながっていきます。

僕らは動物たちとお客さんのかけ橋。彼らのありのままの姿から、素晴らしさを知ってほしいんです。

坂東さん僕が就職したとき、旭山動物園は、あと何年もつかわからないと言われているような経営状態でした。開園当初の昭和40年代なら、おりのなかにライオンがいるだけでみんな「すごい!」って驚いたのでしょうが、年を経て施設も老朽化し、飽きられてしまっていたんですね。「臭い」「狭い」「珍しいのはいないの?」と、お客さんに言われ続けていました。

だけど、動物の命に直接かかわり、見続けている現場の人間にとっては、動物に飽きるなんてことは絶対にあり得ないんですよ。だって、本当に彼らは素晴らしいんだから!「面白くない」と言われるなら、それは動物のせいではなくて僕ら動物園のせいなんです。それなら自分たちの言葉で動物のすごさを伝えよう、と始まったのがワンポイントガイドでした。

エサを食べるペンギンの写真
もぐもぐタイムのようす

坂東さんワンポイントガイドを始めた当時、旭山動物園の飼育員は10名程度でした。みんな動物に関してはプロでも、人前で話すのが苦手な人ばかり。暗記した内容を話すだけで精いっぱいなので、ただでさえ少ないお客さんの足を止めさせるのは一苦労でしたね。お客さん2、3人を飼育員が取り囲んでしまったこともありますよ(笑)。とにかく動物に関心を持ってもらいたい一心でした。

その後も、飼育員の手作り看板やもぐもぐタイム*など、動物を知ってもらうための工夫をいろいろやっていますが、うちには絶対にずれてはいけない軸があります。それは、「動物を擬人化しない」「自分の勝手な価値観で伝えない」「動物の尊厳を傷つけない」こと。お客さんの興味をひくために、動物に芸をさせるようなことは、旭山動物園では一切やりません。ありのままの姿を見てもらいたいと思っています。

逆にいえば、軸から外れなければ表現方法は自由なんですよ。飼育員それぞれが命と真剣に向き合うなかで感じたことを一生懸命伝えればいい。そしたらきっと誰かが共感してくれる。僕らと同じスタンスで生きものを見てもらえるようになれば、動物に対して「つまらない」なんていう感覚は絶対になくなっていくはずです。

*
もぐもぐタイム:動物たちがエサを食べる姿を公開している時間。それぞれの特徴的な行動や習性が観察できる。
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