日立グループは、創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を実現すべく、研究開発に積極的に取り組んできました。研究開発を核とする継続的なイノベーションは、日立の持続可能な発展の原動力となっています。
日立グループでは、2010〜2012年度に研究開発投資、総額1.2兆円の約60%に当たる6,700億円を社会イノベーション事業に重点的に投資し、同事業を軸にグローバル市場における成長を図るべく、研究開発を加速させています。2011年4月には、研究開発体制を25年ぶりに刷新し、海外4極の研究開発人員を増員して現地主導の研究を拡大するとともに、国内8研究所を3研究所に再編しました。新体制のもとで、社会イノベーション事業をグローバルに支える技術開発を加速させ、研究開発の効率向上を図っています。また、研究開発本部内に、日立グループ全体の技術戦略を統括し、事業戦略と連動した中長期の技術開発計画を策定する「技術戦略室」を新設しました。
日立グループの研究開発費は、売上高の約4%に相当する額を維持しています。研究開発の投資効率については、営業利益を研究開発費で割ったROI*1を1以上にすることを目標としています。また、世界最大の学会である米国電気学会(IEEE: The Institute of Electrical andElectronics Engineers)において採択された論文件数をもってグループのグローバルな研究開発の水準と活性度を示す指標としています。2011年度は41件の論文が採択され、世界のエレクトロニクス業界で3位、国内で1位となっています。
日立製作所の研究開発体制は、技術戦略室、中央研究所、日立研究所、横浜研究所、デザイン本部、5つの海外研究拠点から成ります。技術戦略室は、コーポレート研究所と事業部門を結びつけ注力事業の拡大を加速するために、日立グループの中長期における技術開発計画を立案し、グループ横断の戦略プロジェクトを提案することによって、日立グループ経営方針達成のための技術戦略を策定します。
海外研究拠点の研究開発人員は2011年度は約150人ですが、これを2012年度に倍増します。また、海外拠点における研究開発人員の現地化率を90%以上、博士人財を30%以上とすることを目標に現地化を徹底し、現地の政府、企業、研究機関と連携を深めながら地域のニーズに根ざした現地主導型の研究開発を追求します。また、研究開発のテーマは、世界5極の拠点を中心に各地で推進する社会イノベーション事業に注力します。
日立製作所の研究開発体制

日立製作所では、研究開発費のうち、70%をカンパニーやグループ会社の依頼に基づく依頼研究・先行研究に、残りの30%を本社資金による先端・基盤研究に投じています。依頼研究・先行研究は主力事業の拡大・成長を目的に3〜5年内の実用化をめざしており、先端・基盤研究は技術中長期計画に基づき、将来の主力事業となる革新的技術の創出をめざしています。

日立インドR&Dセンタ
日立では、高い経済成長を続けるインドにおいて、現地のニーズに即した効率的な事業拡大を進めるため、グループのインドにおける初の研究開発拠点として、インド共和国(以下、インド)カルナーカタ州バンガロールに「日立インドR&Dセンタ(HIL)」を開設しました。
同センタでは、グループ各社のインド進出・事業拡大を支えるために、研究者自らが現地の市場ニーズをとらえ、既存製品の改善や機能追加のための技術開発を行うテクノロジーマーケティング研究(市場指向技術開発)や、インドの市場ニーズに即した新事業開拓を支える地域研究を進めます。また、インドの大学や企業と連携しながら、効率的に現地主導型の先端技術開発に努めます。開設時の研究人員は約10人でしたが、これをインドの人財を中心に2015年度までに倍以上に拡大し、インドにおける事業拡大と新事業開拓に貢献していきます。

日立(中国)研究開発有限公司(HCR&D)
副総経理兼経営企画部長
陳楊秋(Chen Yangqiu)
日立では“事業のグローバル化”を全社的な経営戦略のキーワードとしつつ、海外の研究拠点の人員を拡充し、現地のニーズに基づく研究開発を進めています。そのなかでHCR&Dには、中国における日立グループの研究開発拠点として、中国独自のニーズを発掘し、そのニーズに即した技術の研究開発が期待されていると思います。2011年度に中国政府が発表した「第12次5カ年計画」には、都市化の推進、重点地域の振興、戦略的な新興産業の開発促進などが明記されています。この計画により、電力・交通・水環境などの都市インフラの整備、先進情報産業などの情報化技術の応用、医療・健康などの分野における研究・技術のニーズの拡大が見込まれ、日立にとっても今後の大きな事業チャンスにつながっていくと考えています。
HCR&Dでは、研究開発人財の育成や清華大学をはじめとする中国の大学との連携、中国における日立グループの技術連携の強化などを進めながら、特許や論文、製品・システムの開発など中国発の研究成果を数多く生み出すことによって、日立の中国事業の拡大に貢献するとともに、中国の技術的発展にも寄与していきたいと考えています。

IEEEマイルストーン贈呈式
日立では、世界最大の国際学会IEEEにおいて、賞を獲得するよう努めるとともに、日立が注力する事業領域における新たな賞の設立を、同学会に働きかけています。
2012年1月には、世界に先駆けて「電界放出形走査電子顕微鏡」を実用化した功績に対して、「IEEEマイルストーン」の認定を受けました。IEEEマイルストーンは、電気・電子・情報・通信の分野において達成されたイノベーションのなかで、開発から25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をしたと認定される歴史的偉業を表彰する制度として、1983年に創設されました。
また3月に日立がスポンサーを務める“Innovation inSocial Infrastructure(社会イノベーション賞)”がIEEEに新設されました。本賞を通じて、今後10年、20年にわたり、世界の社会イノベーション事業領域における技術革新、産業化の促進に貢献したいと考えています。
日立製作所では、科学技術分野で世界的に認められる貢献をした社員や、当社の技術水準を世界に認知せしめる顕著な業績を挙げた社員に報いるため、1999年6月に日立フェロー制度を導入しました。フェローは取締役会によって任命され、処遇は専門職制度における最上位の役員待遇職位となります。また、フェローは研究テーマ選択の自由が保障され、研究費および社外研究活動の支援を受けることができます。
日立は、今後も先端技術への挑戦を通じ、未来に新しい息吹を吹き込んでいきたいと考えています。
日立製作所フェロー(2012年6月現在)

神原秀記 博士
専門分野:DNAシーケンサー

小泉英明 博士
専門分野:光トポグラフィ
日立では、二酸化炭素回収機能付石炭ガス化複合発電(以下、CCS*1−IGCC*2)による窒素酸化物(以下、NOx)の排出量を低減し、かつ高濃度の水素を含む燃料を安定的に燃焼させる技術を研究しています。このたび、本技術を用いた試作燃焼器で石炭からエネルギーを取り出す際に発生する二酸化炭素を削減する場合に課題となっていた、NOxの発生量を環境規制値*3以下に抑える見通しが立ちました。本技術は、2008年度から参画している独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ゼロエミッション石炭火力技術開発プロジェクト」において開発しているものです。
日立では今後も火力発電をはじめとするエネルギー分野の研究開発を通じて、資源を有効活用した環境負荷の低い、高効率な発電技術を普及することによって、地球環境の保全に貢献していきます。

生産量の「見える化」システム
ビジネスのグローバル化を背景に世界規模で生産拠点や物流が拡大するなか、東日本大震災やタイ洪水など予期せぬ災害によって、サプライチェーンが寸断してしまうケースが増えています。日立では、部品の入荷不足や装置の故障といったトラブルが発生した際に、生産工程で将来生じる生産量の変動を、統計モデルを用いて高い精度で予測する生産管理技術を開発しました。予測したデータに基づき、迅速に適正な挽回策を講じることによって、納期の遅延や歩留りの低下を防ぎます。
生産量の変動を予測する際には、このアウトプットを誰でも直感的に理解できるように「見える化」するカラーマップを考案しました。例えば、装置が故障すると、過去の生産実績からそれが後工程にどのような影響をもたらすかを、生産変動が大きい「赤」から中程度の「黄」に、さらに影響がほとんどない「青」へと“雨だれ”式に表示します。これにより、トラブル発生時に、5日後にはこの工程にこれだけの影響が出る、1週間後にはこれだけの数量しか生産できないといった高精度な予測をすることが可能となりました。