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企業情報CSRへの取り組み

西水美恵子 シンクタンク・ソフィアバンク シニア・パートナー 元世界銀行副総裁 荒木由季子 日立製作所 CSR・環境戦略本部長

2013年10月、日立製作所本社にて元世界銀行副総裁の西水美恵子氏とCSR・環境戦略本部長 荒木由季子による対談を実施しました。グローバル市場を舞台に社会課題の解決に貢献することをめざす日立にとって「社会イノベーション事業とはどうあるべきか」についてお話を伺いました。

西水美恵子氏の写真
撮影:鈴木慶子

西水美恵子(にしみず・みえこ)氏

1970年、米国・ガルチャー大学(経済学)卒業。1975年ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程(経済学)卒業。同年、プリンストン大学経済学部兼ウッドロー・ウィルソン・スクールの助教授に就任。1980年、世界銀行入行。1997年、南アジア地域副総裁就任。2003年、世界銀行退職。現在、世界を舞台に執筆、講演、アドバイザー活動を続けている。2007年よりシンクタンク・ソフィアバンク シニア・パートナー。

社会が求めるイノベーションとは?

荒木

私ども日立グループは、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げております。これは創業以来100年あまりにわたって脈々と受け継いできた精神で、事業を通じての社会貢献が日立という企業のアイデンティティであると考えています。今年(2013年)4月に新しく策定した、日立グループのあるべき姿を示す「日立グループ・ビジョン」では、「社会が直面する課題にイノベーションで応えます。優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、活気あふれる世界をめざします」と、もう少し踏み込んで表現していますが、こうした理念やビジョンをまさに具現化するのが、現在、注力している「社会イノベーション事業」です。
西水さんは、世界銀行で開発途上国の持続的な発展と社会の変革を支えていく投資活動に取り組んでこられました。日立の社会イノベーション事業は、「ITで高度化された、安全・安心な社会インフラをグローバルに提供していく」事業と表現していますが、これは単に社会インフラをつくって終わりというものではなく、その上にある人びとの生活、社会のあり方を考え、変えていくことで、社会への貢献をめざす事業です。そうした意味で、西水さんの取り組んでこられたお仕事とも共通する部分があるのではないでしょうか。

西水

社会イノベーション事業の例としては、具体的にどういうものをお考えですか。

荒木

例えば、増え続けるエネルギー需要に対応して電力の安定供給を支える発電技術やスマートグリッド、効率的な水利用を支援する上下水道、海水淡水化などの水処理システム、新興国の都市化に伴う交通渋滞を解消する公共交通や鉄道システムなどが挙げられます。医療や検査にかかわる装置やシステム、病気予防の支援といったヘルスケア分野、昇降機、建設機械、そして情報・通信と、日立グループの事業領域全般にわたるさまざまな事業を通して社会に貢献できると考えています。

西水

日立の技術で社会に直結した貢献をしていく、さまざまな社会的課題を解決していくのが社会イノベーション事業ということですね。予算がつかなくなるとやめるような、本物でない社会貢献やCSR(企業の社会的責任)ではなくて、事業として成り立って長続きして、社会のためにも、日立のためにもなり続ける企業活動なのですね。

荒木

そうです。イノベーションというのは、日立自身が技術的なイノベーションを創出して優れたソリューションを提供するというだけでなく、そのことを通じて社会をイノベートしていく、ライフスタイルや社会制度のような部分まで革新していくという意味もあると考えています。それによって、これまで以上に安心、安全、快適、便利といった社会的価値を生み出していくことをめざしています。

西水

日立の先端技術を適用するとなると、事業の対象となるのは先進国が中心になるのでしょうか。本当の意味でのグローバル企業をめざすのであれば、「お客様は人類」という考え方が大切になると思います。その人類70数億人の過半数は開発途上国に暮らす人びとです。今後の人口成長率が高いのも開発途上国で、世界経済に占める存在感もどんどん大きくなっていくでしょう。そうした開発途上国の構造的な問題の一つは、今ある技術を社会変革のために十分に使いきる才能をもつ人が少ないことです。大多数の国々は、先進国と比べれば基礎的な部分から遅れていますから、最先端の技術ではなく、既存技術の提供と過去のノウハウの共有といったところから始めなければならないのです。例えば、携帯電話が公衆電話として活躍しているとか、携帯電話で情報共有が可能になったことによって、それまで仲買人に不当に買いたたかれていた米を適正な価格で売れるようになり、農家の収入が大幅に増えたとかいった例があるのですが、そういうことは、日立のビジネスにはならないし、最先端技術を駆使して社会的課題を解決するという日立の社会イノベーション事業とはあまりかかわりがない問題かもしれません。

荒木

確かに民間企業ですから、基本的にはビジネスを成立させないといけないのは当然だと思います。ただ、ビジネスのスパンをどれぐらいと見るかが重要で、途上国のビジネスも、最初はあまり利益を生まないかもしれませんが、長期的な視点で見れば、将来のビジネス基盤をつくるという意味で、日立のイノベーション事業の対象になってくると思います。
日立はものごとを長く続けるのが得意な会社で、例えば40年以上にわたってアジアの学生に奨学金を出したり、日本に招いて、あるいは現地での人財育成なども行ったりしてきました。そのような形で人を育ててきたことが、さまざまなビジネスの基盤になっています。今後、新たに事業を展開する国でも、まず人財へ投資することが、やがてビジネスにつながっていく可能性があるのではないかと思っています。

西水

なにごとも人づくりが基本ですものね。私の海外での経験からいうと、日本の教育レベルの高さは世界でもまれに見るほどで、日本人ならできて当たり前だと思っていることが、世界で見ればすごいことなのです。そのことを、もっと多くの企業、特にグローバル企業をめざす方々には知っていただきたいですね。そうすれば、これから真剣にビジネスをしていく国の教育レベル向上へ投資しようとお考えになるのではないでしょうか。特に、日立のように、何らかの形で技術力が問われるモノやサービスを提供する企業は、技術面での人材投資に重点を置かれることが重要になるはずです。

ビジョニングの発想で事業戦略を考える

荒木

そのほかに社会イノベーション事業に期待されることはおありですか。

西水

もちろん、社会をより良く変えていく投資は積極的に行っていただきたいのですけれど、お話を伺っていて、社会イノベーション事業は、対象となる範囲があまりにも広すぎるのではないかということが気になりました。日立のテクノロジーの応用性は無限でしょうから、注力するポイントを戦略的に絞らなければ、持続性や、事業としてのメリットが低下しますよね。絞った範囲が最初に例示された分野なのかもしれませんが、その中でもいろいろなことができてしまうと思います。

世界銀行の事業である経済開発・社会開発も、非常に幅が広いのです。インフラから教育、医療と何でもあり。だからこそ、あまり広がりすぎると、どんなにいい仕事をしていても、英語でいう"Shoot oneself in the foot"つまり自分の首を絞めるようなことになりかねません。ですから日立の場合も、何でもできる、ではなく戦略的に進めていかれたほうがいいのではないかと思うのです。

荒木

確かに日立は非常に幅広い技術をもっていますし、人財もたいへん豊富ですから、そちら側から考えると何でもありになってしまいますね。ただ、逆に社会的課題の側から見れば、おのずと焦点が絞られてくるのではないかとも思います。

西水

それでもやはり、幅が広すぎてきりがないのです。根本的に問われるのは、日立自身が50年後、100年後の日立グループのビジョンをはっきりもっているかどうか。それが、社会イノベーション事業の戦略、どこに注力するかというポイントにつながると思います。
そのビジョンというのは、経営トップが考えるビジョンではないのですよ。日立グループ全体の何十万人が一緒になって議論して考えて、ラフな形でもいいから、50年後、100年後の日立グループはこうありたいという絵を描く。そして、自分たちがそこに立ったと想定して、今の日立がそこへたどり着くにはどうするべきなのかを考える。そうしたビジョニングの発想、未来のあるべき姿からさかのぼって思いを形にしていくという発想をしないと、社会をどう変えていくのかは見えてこないし、事業としても遠回りをしてしまう可能性があると思います。
50年、100年って、日立にしてみれば長い時間ではありませんよね。未来をはっきり見据えて経営している会社は100年単位でものを考えているものですし、社会インフラということを考えれば長期的視点は必ず必要です。

荒木

本日はたくさんの気づきをいただきました。どうもありがとうございました。