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[画像]日立製作所 フェロー 理学博士 小泉英明
日立製作所 フェロー
理学博士
小泉英明

光を当てて脳の活動を探る「光トポグラフィ」。
病気の診断・治療だけでなく、人間の精神的な活動の研究にも応用され、自然科学や人文学などと融合した「新・人間学」が生まれています。

「脳の地図」を描く技術

[画像]生後2日から5日の新生児の脳の活動
生後2日から5日の新生児の脳の活動
(左)話し言葉を聞かせたとき(中)話し言葉を逆回しで聞かせたとき(右)何も聞かせないとき/ジャック・メレール教授(現在、伊・国際高等研究員)との共同研究

トポグラフィとは地図を描くこと。光トポグラフィは、高次脳機能描画法と呼ばれ、太陽光にも含まれている無害な近赤外線を脳に当て、脳血流の変化を読み取ります。大脳皮質と呼ばれる脳の表面は重要な機能をつかさどっており、言葉を話すときは言語野という場所に新鮮な血液が供給されます。黙っているときは血流も少ないので、光の反射(吸収率)が変わります。
光トポグラフィはこの変化を0.1秒単位で記録し、「考える」「計算する」などの精神活動の動きを明らかにします。
本技術は医療分野の革新だけでなく、脳を科学できることから、幅広い分野での無限の発展性を秘めています。

光トポグラフィの誕生

[画像]考えたただけで鉄道模型を動かすブレインマシンインターフェイス
考えたただけで鉄道模型を動かすブレインマシンインターフェイス

フェロー小泉は、1980年代よりMRI*1 という医療用の測定装置の開発に携わっており、光トポグラフィは、その改良過程で生まれました。まずMRIで脳の形態と機能をより高度に描くために脳血流変化の測定に注目し、それが磁気共鳴血管描画の原理を発見することにつながりました。さらに被験者が気軽に受診できるよう近赤外線を使用した光トポグラフィ装置を開発しました。半導体を使った小型の装置で測定でき、診断も容易にできます。簡易検査は光トポグラフィで、精密検査は分解能の高いMRI装置でという使い分けも有効です。
また、人間の感覚、運動、言語、記憶などをつかさどる脳活動の解析にも応用が可能です。1997年には、てんかん*2の発生場所を見つける方法を確立し、手術を容易にしました。ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者用に開発した意志伝達装置「心語り」などのブレインマシンインターフェイスにも使われています。

*1
MRI
Magnetic Resonance Imaging
磁場と電波を用いて体内を撮影する装置
*2
てんかん
脳の特定の場所が過剰に興奮したときに、痙攣などの症状を起こす脳疾患

診断からより広い脳機能の研究へ

さまざまな脳の働きを見ることができる光トポグラフィの登場は、倫理、宗教、哲学などの人文学分野と脳科学を融合させた、新たな学問や研究を生み出しています。活発に動く赤ちゃんや子どもの脳活動の観察も、小型で装着しやすい光トポグラフィを用いてはじめて可能になりました。
2003年には、イタリアの言語学者との共同研究で“赤ちゃんが生まれてまもなく母語を認識する”ことを明らかにし、世界的な反響を呼びました。*3
未来に向けて、子どもの健やかな心の成長を見守り、豊かな人間性を育む新しい技術や学問の可能性を、光トポグラフィは示しています。

*3
ジャック・メレール教授(現在、伊・国際高等研究員)との共同研究

(2007年7月掲載)
(小泉 英明)