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企業情報CSRへの取り組み

[写真]公立小学校の1年生に本を読み聞かせる日立アメリカ社の社員

日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ
ユビキタスシステム事業部事業部長付 小澤邦昭

日本では約7,000人のALS*1患者が病と闘っています。
私がALSを知ったのは先輩社員の発病でした。お見舞いに行って話しかけても、筆談や喋るための筋肉が動かせず、返事をもらえませんでした。高齢者や初心者にも使いやすい情報機器の開発に携わっていた関係で、直ちにALS患者用の意志伝達装置の開発に取り組み、1997年に眉の上げ下げなどのわずかな動きをセンサーで読み取ってパソコンで文章を作成する意志伝達装置「伝の心」*2を開発、(株)日立ケーイーシステムズで製品化し、2006年3月末時点で累計3,300台を出荷しました。「会話ができることで生きる意欲が蘇った」など患者と家族の声が励みでした。

「画像」「心語り」の脳血流のデータ
「心語り」の脳血流のデータ。「はい」(左)と「いいえ」(右)で血流が変わる。血流量を正確に測る光源、額に密着するセンサーの開発、血流量に加え振動数を分析することで精度を向上。

*1
ALS
Amyotrophic Lateral Sclerosis
筋萎縮性側索硬化症。脊髄の運動神経が侵されて全身の筋肉が動かなくなる進行性の難病。
*2
伝の心
北里大学東病院と共同研究し、日立ケーイーシステムズで製品化。脊髄損傷や脳血管障がいの後遺症のある人を支援する意志伝達装置。

患者と家族の生きる希望のために

「心語り」の開発のきっかけは、1999年に、身体を全く動かせなくなったALS患者のご家族から「自分の介護が良いかどうか、『はい』『いいえ』だけでも答えてくれれば」という電話をいただいたことです。一切の運動機能を失った患者にどんな対話方法があるのか。思いついたのは日立が開発した光トポグラフィ*3による脳血流の研究でした。研究チームを訪ねて「安静時」と暗算などの「活動時」の脳血流の変化を確かめ、試作機を作ってもらい患者に「はいの場合は、暗算をしてください」とお願いしましたが、当初はなかなか正答率があがらなくて苦労しました。
正答率を高めるために、鹿児島大学教授、元日立製作所研究者、試作機依頼先のエクセル・オブ・メカトロニクス(株)(以下エクセル)、日本ALS協会の協力を得ながら取り組みました。鹿児島大学の学生が歌で脳血液量が増えることに気づき、これが大きなヒントとなりました。試作を重ねた結果、正答率を80%に高めることができ、2005年12月に「心語り」と命名し、エクセルから製品化しました。
反響は大きく、国内だけでなく米国やノルウェー、ペルーからも問い合わせがあり、これまでに13台(米国試用3台含む)を患者に届けました。

*3
光トポグラフィ
近赤外線を身体に当てて透過・反射してくる光から血流を読み取り、脳活動状態を地勢図のようにマッピングする技術。

世界の患者へ

コミュニケーションは「命の源」と言われています。障がい者・高齢者など「誰もが情報に接することのできる環境づくり」を実現することは、大きな意義があります。日立は、手話アニメーションソフト「Mimehand(マイムハンド)」や、高齢者とPC初心者向けソフトウエア「心友」なども製品化しています。今後これらを普及させるために、日立グループ内に支援の輪をもっと広めていきたいと考えています。「心語り」については、さらに正答率を高め、測定時間を短縮して、対象ユーザー(ALS、脳血管障害等)が50万人とも言われる米国をはじめ、世界のALS患者などに届けたいと思っています。

この研究の一部は、(財)ニューメディア開発協会からの委託研究の成果です。

(2006年7月掲載)
(小澤邦昭)