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武田志津武田志津

武田志津

日立製作所 研究開発グループ

2019 JAPAN
すべての人に
再生医療を

iPS細胞の自動培養装置の開発

すべての人に再生医療をすべての人に再生医療を

実験室から臨床をめざして

難病の治療に大きな効果が期待されている再生医療。その鍵を握るのが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)である。iPS細胞はまるで受精卵のように、心臓、脳、目といった身体のあらゆる臓器や組織を創る細胞になれる能力をもち、幅広い医療に役立てることができる。その研究は近年飛躍的に進み、臨床応用へのカウントダウンはもう始まっている。しかし、この発明を実際に医療の現場で活用するには、大きなハードルが立ちはだかっている。それは、iPS細胞の培養には膨大な手間とコストがかかることである。

細胞というのはとてもデリケートで、常に37℃の環境で継続的に栄養を与えて、老廃物を除去しなければ、あっという間に弱ってしまう。もし雑菌が1つでも混入すればiPS細胞は使いものにならなくなるため、培養作業は無菌管理されたクリーンルームで行い、作業衣、マスク、グローブは毎回使い捨てる。クリーンルームの維持と運営には多大なコストがかかってしまうのだ。また、再生医療には一度に大量のiPS細胞が必要になる。例えば、パーキンソン病の治療一回に使われるiPS細胞は500万個。複数の患者のための量の細胞培養を手作業で行うには、大勢の熟練技術者の手と大規模なクリーンルームがないと賄えない。

このようにiPS細胞による治療は、厳格な品質管理と、先端の施設・設備が前提となるため、実際の治療においては1億円程度の費用がかかることも。こうした課題を改善するために、2015年日立製作所研究開発グループ基礎研究センタ日立神戸ラボの研究チームは、京都大学iPS細胞研究所と大日本住友製薬との協創体制を組み、iPS細胞からの医療用細胞製造のコストを100分の1に削減可能な「自動培養」への挑戦を開始した。

実験室から臨床をめざして

困難に立ち向かった研究チームの
“開拓者精神”

社外の再生医療分野のトッププレイヤーとの協創により、日立神戸ラボの研究チームが取り組んだテーマ。それは、従来の手作業による開放空間での細胞培養という考え方を一新する、〈閉鎖系自動培養装置〉の開発であった。「わかりやすく言えば、iPS細胞を空気中の菌から守ることができる完全閉鎖空間で、誰が作業しても品質が変わらない自動培養を行う装置のことです」。プロジェクトのリーダーである日立製作所・武田志津は、この〈閉鎖系自動培養装置〉の開発に捧げた17年におよぶ研究開発の日々について語り始めた。

「まず、無菌性の管理という基盤を作るだけで10年かかりました。まったく成果の出ない試行錯誤の期間が長く続いて、もう無理かな、と思うことは何度もありましたね」。そこに追い討ちをかけたのが、2008年のリーマンショックだった。多くの企業が研究開発費を絞り込む中、日立も大型投資を一時凍結せざるを得なかったのだ。武田は、医療の未来に賭ける想いを胸に、研究開発費の確保に奔走した。

2011年には、東日本大震災が発生。強い揺れによって、対照実験として手作業で進めていた開放系の培養容器の培養液がこぼれてiPS細胞の培養は台無しに。その一方で、閉鎖系の自動培養容器のiPS細胞はまったく無事であった。震災においても、従来の開放系の培養に対する〈閉鎖系自動培養装置〉の優位性が証明されたのだ。「iPS細胞の培養というのは移植手術の日から逆算して行うため、培養の遅れはそのまま手術の遅れにつながります。災害など様々なトラブルを想定して装置を開発することの重要さを、改めて痛感した震災でした」と武田は言う。

困難はそれだけではなかった。自動培養がやっと軌道に乗り始めた頃、iPS細胞が増えなくなる原因不明の事態も発生した。先も見えない中、研究チームは数ヵ月にわたり原因究明にあたった。考え得るすべての可能性を片っ端からつぶし、それでも分からないまたその先に、思いもよらぬ原因が見つかったときには、心の底から安堵したと言う。

まさに、道無き道を模索するゆえの試練の数々だった。これらを一つひとつ乗り越えることができたのは、日立神戸ラボ・研究チームの仲間たちの未知の領域へ挑戦する意欲、すなわち開拓者精神のおかげだと武田は振り返る。「まだ成果を出せるかどうかすらわからなかった時期に、やり続ける価値があると皆が信じてくれました。医療にイノベーションを起こせると、信じ抜いてくれました。だからこそ、長い時間をかけて、少しずつカタチにしていくことができたのです」。プロジェクト成功までには幾多の困難があったが、その克服の原動力には「日立創業の精神」(和・誠・開拓者精神)があった、とチームメンバーは口を揃える。協創を推進する中で、武田のチームは常に正直であること(誠)、協調的であること(和)にこだわった。それが、協創パートナーからの信頼につながり、共に“開拓者精神”を発揮することを可能にしたのだ。

困難に立ち向かった研究チームの“開拓者精神”

オープンにしたからこそ実現できた未来

「2年前に日立の研究チームが、埼玉の鳩山から、我が社の研究室がある神戸へ引っ越して来られたとき、これは相当な覚悟だなと思いました」。協創パートナーである大日本住友製薬の木村徹氏は、同じ実験室で、他社の研究員どうしが垣根なしに共同開発するのは稀なことだと説明する。「本当に、隠し事をしようがない環境です(笑)。お互い信頼し合っているからこそ、すべてをオープンにして、本気の議論ができたのです。このチームならいける、と確信しましたね」。

基礎研究と臨床の見地から研究開発をサポートする京都大学iPS細胞研究所・煖エ淳教授も、共同研究というのは、全員が誠実さをもって、強みも弱みもすべてオープンにしなければ成功しないと断言する。「日立は、いいデータだけでなく失敗のデータまで、すべてをオープンにしてくれました。うまくいっていない所に、皆が異なる知恵を出し合って改良していくのが、やっぱり一番の近道ですから」。

長年のオープンイノベーションの末、ついに2017年〈閉鎖系自動培養装置〉の製品化に成功した。それでも武田は「品質の良い細胞を作ること自体が、最終目標ではありません」とキッパリ言い切る。「なぜ自動化するのか?それは多くの患者さんを治すためです。iPS細胞の培養を自動化することで、品質のよい細胞を量産し、それによって根治の難しい病気を治し、患者さんがハッピーになるためです。私たちは医者ではありませんが、患者さんの幸せに貢献することができる。それこそが真の目標なのです」。

ノーベル賞の山中伸弥教授が発明したiPS細胞は、再生医療を大きく前進させた。そして今、武田をはじめとする日立神戸ラボ・研究チームは、その再生医療の普及に向けての確かな一歩を刻んだ。「開発を始めた17年前には、できるかどうかすら分かりませんでした。そんな夢のような話が、頑張ればできるというレベルまで近づくと、その夢はいつしか具体的な目標に変わるのだと実体験しました」。

しかし、夢の医療が現実に近づいたとはいえ、本当の普及はまだまだ先の話だと武田は言う。「確かに、自動培養装置が使われ始めましたが、再生医療が普及し当たり前になるのは、50年後くらいかもしれません。その頃、もう私は生きてはいませんが」。もしも、この世にタイムマシンが存在したら、彼女は未来をのぞいてみたいと思うのだろうか。「のぞいてみたい気持ちはあります。でも、見なくても大丈夫です。なぜなら、私には信頼する後輩たちがいますから。次の世代にしっかりと引き継ぐことで、心は、未来へ残ると思うので」。ふと一瞬、タイムマシンの向こうへ思いを馳せた武田のまなざしは、またすぐに、目の前の使命を見つめ直した。

オープンにしたからこそ実現できた未来
※本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援によって行われた。

日立グループ・アイデンティティとは

日立グループが社会において果たすべき使命 企業理念 優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する ミッションを実現するために日立グループが大切にしていく価値 日立創業の精神 和・誠・開拓者精神 これからの日立グループのあるべき姿 日立グループ・ビジョン 日立は、社会が直面する課題にイノベーションで応えます。優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、活気あふれる世界をめざします

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