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ホーム > uVALUEの世界 > 最新のテクノロジーが難病患者のコミュニケーションを支える

小澤とともに開発研究に取り組む同センタの木戸邦彦(後ろ)。

数多くの患者さん、専門家との出会いに支えられて

 こうして1996年に試作機が完成した。頭部やあご、あるいはまぶたなどのわずかな動きで入力できるようにして、パソコン画面に表示した五十音表からひらがなを選択し、漢字などに変換して文章をつくるというものだった。さっそく、試作機を日本ALS協会の方、患者さん、医師など、多くの関係者のもとに持って行き、評価していただき、意見をうかがった。
 その時のリハビリテーションエンジニアの一人からのアドバイスに、小澤は虚をつかれた思いがした。それまで、いかに文章を書けるようにするかということだけを考えてきたが、そのリハビリテーションエンジニアはこう言った。「ALSの患者さんにとって、文章を書くことは生活の一部に過ぎない。テレビやビデオを見たり、離れた場所にいる介護の方に連絡を取ったり、人を呼んだりすることも不可欠だ」
 そこで、(1)装置に付属するリモコンでテレビやビデオのオン・オフとチャンネル選択操作、(2)ポケベル送信(当時はまだ携帯電話は現在のように普及していなかった)、(3)近くの人をブザー音などで呼ぶ機能という3つの機能を組み込むことにした。
 多くの関係者の方とのコミュニケーションを通じて、患者さんにとって本当に便利に使えるコミュニケーションツールとなる装置がつくりあげられていったのである。こうして1997年に「企画:日立製作所、製造:日立京葉エンジニアリング(現日立ケーイーシステムズ)」の意思伝達装置が製品化された。製品名は『伝の心(でんのしん)』。小澤の提案した名前だった。

「必要な機能は何か」を患者さんから学ぶ日々

 しかし、製品化は、『伝の心』の開発にとってゴールではなかった。製品が多くの患者さんに使っていただけるようになり、小澤のもとへもいろいろな反響が届けられた。その多くは患者さんの喜びの声だった。進行性の疾患で、運動能力がしだいに失われていくため、患者さんは、「今までできていたことができなくなる」という体験を重ねていた。しかし、『伝の心』によって、もはやできないとあきらめていたことも、できるようになった。「患者さんが、再び自分でテレビをつけ、自分でチャンネルを選択して、大好きな相撲を見ることができた時、患者さんは涙をこぼして喜んだ」とある作業療法士の方からの報告があった。救急車で緊急入院した患者さんと看護師さんのコミュニケーションに役立ったというお手紙もいただいた。
 だが、こんな要望もあった。「寝ている姿勢でパソコン画面を見るので、鏡を使っているが、その場合、文字が反転するので読みにくい。鏡文字を表示して欲しい」。また、ある時、「日が照っているとテレビのチャンネルの選択ができなくなる」という問い合わせもあった。患者さんのもとに行ってみると、直射日光の当たる場所で、LEDを使ったリモコンの信号が太陽の強い日差しにかき消されていることが分かった。いずれにしても、小澤にとっては想像だにしていなかった要望や問題であった。患者さんの現場を知らなければと改めて痛感した。

インターネットで広がるコミュニケーションの世界

 小澤は、以前にも増して、患者さんを訪ねるようになった。そこから、読書のためのページめくり機、家庭用テレビゲーム機、家の中の様子が見られるリモコンビデオカメラなどを『伝の心』のリモコンで操作できるようにした。やがて1990年代も終わりに近づくと、インターネットが爆発的ともいえるスピードで普及していった。これに対応して、2000年にはホームページ閲覧やメール機能が『伝の心』の標準機能に取り入れられた。その開発にも患者さんにご協力いただいた。
 インターネットと『伝の心』の組み合わせによって、患者さんは遠く離れた海外とでもコミュニケーションできるようになった。患者さんの中には、「いままでは一人だけの世界で退屈していたが、いまでは、毎日頻繁にメールのやりとりをするようになって、一人になる時間が欲しいくらいになった」という方もいるほどになった。それほど患者さんの日常世界を大きく広げることになったのである。患者さんの中には、『伝の心』を使ってエッセーを書き、出版された方もいる。患者さんのコミュニケーションの領域が着実に広がってきた。

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