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株式会社ノークリサーチ

「基幹業務システム=ERP(統合基幹業務システム)パッケージ」へのシフトは中堅企業に確実に進んできている。その市場規模も2006年度で524億円に達し、2007年度以降も拡大が見込まれている。
着々と普及が進んでいるERPは、次のステップとして「コラボレーション系/フロント系ソリューションとの連携」を考える時期を迎えつつある。 グループウェアなどのコラボレーション系ソリューションあるいはSFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)などのフロント系ソリューションが、ERPとデータ連携することが求められるようになる。 あるいは、それらコラボレーション系/フロント系ソリューションがSaaS(Software as a Service)形式のソフトウェアである場合もあるだろう。 あくまでERPは今後もしばらくパッケージソフトが主流であるが、その周辺ソリューションにSaaSが混在しハイブリッドな関係を構築することになる。それが2008年度以降の現実的な「ERPのセカンドステージ」として注目されているのである。

こういった動向は、「2007年中堅・中小企業向けERP市場の実態と展望調査」でのERPベンダへのヒアリングから明らかとなった。(定量データは今後観測予定)弊社は概ねこの動向に賛同する意向でありその根拠は以下で何点か指摘することとしたい。 まずは中堅企業ERP市場の全体像を明らかにした上で、中堅企業における基幹業務システムの今後を占いたい。

成熟に向かう中堅企業ERP市場、新たな動きあり

中堅企業市場では、製造業を中心に景気が回復傾向にあり、残存しているレガシーシステムのサーバリプレースやサーバ統合に合わせてERPの導入が進んでいる。 またブレードサーバや運用管理などのITシステムの統合、集中管理機運が高まっており、ERP以外でも中堅企業市場の活性化は目立ち、市場全体を牽引しているといえる。

2006年度の中堅企業ERP市場規模は約520億円に達している。 年商別ERP市場規模は、中堅企業Hクラス(年商300億〜500億円)は約155億円、中堅企業Mクラス(年商100億〜300億円)では約197億円、中堅企業Lクラス(年商50億〜100億円)では約171億円となっている。特に中堅企業LMクラス(年商50億〜300億円)の2クラスが3年間で約50%増と飛躍的に成長している。

図表1.2006年度クラス別ERP市場規模(対2003年度)

2006年度のモジュール別市場規模と構成率は、財務会計が約269億円で37.8%、販売管理が約195億円で27.4%、人事給与が約145億円で20.4%、生産管理が約102億円で14.3%となっている。 全業種共通業務である財務会計モジュールからの導入というのがERP導入手法の一つのセオリーであり、それが市場規模に直接反映されている。

しかし2006年度になり、生産管理が前年比150%以上の伸びとなっており、構成比も約4ポイント増加した。財務会計を始め、販売管理、人事給与モジュールも金額は堅調に伸びているが、構成率はそれぞれ約1ポイント減となっている。 財務会計のような全業種共通業務のパッケージ化が落ち着きを見せ、もともとパッケージ化が遅れており手組みシステムが主流であった生産管理が、ここにきてパッケージ化の流れに乗り出した。 これは中堅企業ERPパッケージ市場がますます成熟してきていることの表れであると言えるだろう。

図表2.2006年度モジュール構成率(対2005年度)

中堅企業ERPはまだまだパッケージモデルが主流

中堅企業での基幹業務システムにおいては、「手組みシステムからERPパッケージへの移行」という流れが「ようやく」定着したところである。そうした最中SaaS型ERPは「敢えて選んで使うものではない」のである。ここで詳細(詳細は「2007年中堅・中小企業向けERP市場の実態と展望レポート」に譲る)を述べる余裕はないが、同調査の対象であるERPベンダ29社の内、ERPのSaaS提供、「パッケージからサービス化」へのビジネスモデル転換を具体的に進めているベンダはほぼ皆無であった。

その理由は前回(第8回)SaaS普及障壁の一つとして取り上げた内容にも関わってくる。パッケージで確立されつつあるERPビジネスを変えられないベンダ側の事情によるものがほとんどである。ユーザ側の基幹業務情報を外部保管することの不安感なども指摘されているが、それはあくまでSaaS化阻害要因のひとつにすぎない。ERPのSaaS専業ベンダであれば、パッケージとSaaSによるコンフリクトは生じないだろう。つまりビジネスモデルの転換がない分、ERPのSaaS提供に集中できるという意味で。しかし実際にはそのようなサービスの実例は存在しないのでここでは問題にならない。

これには「中堅企業(それも規模が小さくなればなるほど)は販売店やSI企業に基幹業務システムの構築を委ねる傾向が強い」という導入姿勢も大きく関わってくる。つまりユーザ企業にとっては「導入後のサービス/サポート」こそが重要となるため、セキュリティ上の安全性や運用・保守などが担保されるのであれば、システムの設置場所が「社内」だろうが「社外」だろうが、利用形態が「パッケージ」だろうが「SaaS」だろうが、それは「どちらでも良い」ことになってしまう。
したがって、現段階では提案する側がERPをSaaS化しないため実現性はほとんどない。あるいはそもそも「パッケージ対SaaS」という構図を想定すること自体見当違いなのかもしれない。

今後のERP市場、コラボ系/フロント系ソリューションとの連携に注目

では今後中堅企業ERP市場はどういう方向に進むことが予想されるか。
ERPはパッケージソフトが引き続き主流であることに疑いない。一方で考えられるのは、グループウェアなどのコラボレーション系ソリューションあるいはSFAやCRMなどのフロント系ソリューションとERPとのデータ連携である。これらコラボレーション系/フロント系ソリューションにSaaSモデルが採用される場合も十分に考えられる。
そこで「基幹系=ERPパッケージ、コラボレーション系/フロント系ソリューション=SaaS」というハイブリッドな関係構築が今後現実的な「ERPのセカンドステージ」として注目されている。

中堅企業におけるコラボレーション系/フロント系ソリューションの導入率を見てみる。
グループウェアは中堅企業Hクラスで約9割、Lクラスでも6割強の導入率である。一方SFA、CRMなどのフロント系ソリューション(=いわゆる戦略系IT)の導入率は、現在でも10%前後と低い。
しかし、それらに対する関心度だけは徐々に上がってきており、それぞれに対して30%近い関心が表れている。要するに「使いたいけれど、使えない」理由がそこにあるわけである。

図表3.ERP・グループウェア・SFA・CRM導入状況

一番大きいのはフロント系ソリューションに対する投資優先度の相対的な低さである。経営に役立つようなITというとまずはインフラの構築から入り、セキュリティを完備し、財務会計や人事給与など基幹業務(大部分は単体業務システムであり、中堅企業の20%から40%はERP)、グループウェアなど情報系という流れで導入されてきている。広くは経営戦略にかかわる部分をCRMやSFAなどによってIT化しようという意識は潜在化されたままであった。決定的なのは、中堅企業においてはITによってコアコンピタンスを強化、差別化しようという意識がないことである。

フロント系ソリューションについては「なくても困らないが、あればその機能を享受出来ることは想像できる、しかし優先度が低くなる、よってそこは従来通りアナログなマンパワーに頼る」という論理がずっと働いてきた。それがSaaSの登場によって「すぐに使える」「安く使える」「システム運用、保守に手間がかからない」など否定的な要素が排除されることになる。すると試験的な利用というのも可能となる。(裏を返せば、効果が上がらなければキャンセルすることも可能ということ)

こういった事情を考えるとSaaSを通してCRMやSFAが中堅企業に今後普及していく可能性は十分考えられる。それもSaaSは既存システムとの連携が可能であるため、既存のERPと組み合わせた包括的なシステム構築が可能となる。

しかし、こういったパッケージ型ERPとSaaS型フロント系ソリューションとのハイブリッド環境が見られるのは、同じ中堅企業においてもERP導入率の最も高いHクラスを中心としたものであり、そもそも現段階では、中堅企業全体でもERP導入率が40%を越すクラスがないのが実情である。

したがって相変わらず残存するオフコン等のレガシーシステム、非ERP型の単体業務システムからのリプレースが目下の課題であることに変わりはない。
内部統制・コンプライアンスはもはや言葉の独り歩きをやめ、現実的な取り組み課題になっている。その実際的な対応策としてERPが果たす役割について、ベンダ、ユーザ企業双方が完全に共通認識となるに至るまでにはまだ時間を要するかもしれない。

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