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数理的発想法9 バーコードリーダーが「本」と「図書館」をオープンにする 文:仲俣暁生

いつの時代も、創造性の核には個人の「発想」があった。
「発想」をかたちにするには技術のたすけが必要だが、
情報通信技術の発展は、そのプロセスを大きく変えた。
「発想」にはじめから、技術がビルトインされるようになったのだ。
そうした発想のあり方を、かりに「数理的発想法」と名づけてみた。

今回ご登場いただく河村奨さん、地藏真作さんのお二人は「リブライズ」という、
ウェブをつかった図書貸出システムを開発しているプログラマーのチームだ。
このシステムがユニークなのは、貸借時にバーコードリーダーを利用すること。
日本中、いや海外も含め大小さまざまな図書室がこの仕組みでできており、
コワーキング・スペース、カフェ、パン屋さん、大学とその運営母体も多種多様だ。
「リブライズ」はいかにして誕生したのか。
今回のキーワードは〈オープンソース〉である――。

 東京・下北沢の住宅地に、マンションのガレージを改装した「下北沢オープンソースCafe」というコワーキング・スペースがある。その名のとおり、オープンソースという理念に共感して活動するプログラマーたちが集う場所だ。このカフェをつくった河村奨さんの本業はデザイナーとプログラマー。さらにここでは「マスター」として、このコワーキング・スペースを切り盛りしている。

スマートフォンの画面が貸出カードになる。
スマートフォンの画面が
"貸出カード"になる。

 2011年3月、東日本大震災が起きる直前にカフェはオープンした。同じ年の夏には、隣のスペースに小さな「図書室」を追加した。この「図書室」では、実際に本を借りることができる。貸し借りの仕組みはFacebook のアカウントとバーコードリーダー。借りたい本を書棚から選び出し、スマートフォンに表示されたアプリを「貸出カード」の代わりにして、それぞれのバーコードを「ピッ」とスキャンすれば貸出完了。この仕組みが「リブライズ」である。

 このリブライズという仕組みを使って本が借りられる場所は、「下北沢オープンソースCafe」だけではない。日本の北から南まで、コワーキングスペース、パン屋さん、カフェ、大学の研究室など600カ所以上のさまざまな場所で、本の貸出システムとして採用されている。

 「すべての本棚を図書館に」というキャッチフレーズそのままに、小さな本棚ひとつ分でも1000冊を超える大量の蔵書でも、たちどころに貸し借り可能な図書館として使うことができるのがリブライズの魅力だ。正式リリースから2年足らずのうちに、登録冊数も18万冊を超えた(2014年7月24日現在で18万3636冊)。2013年には、「セミパブリックな蔵書を貸し借りする関係をつなげて本によるコミュニティを形成している点が秀逸である」との理由で、グッドデザイン賞(「個人のためのサービス・システム」部門)も受賞している。

 二人のプログラマーはなぜ「図書館」に興味を抱いたのだろう。リブライズの共同開発者である河村奨さんと地藏真作さんにお話を伺うことにした。

勉強会の「あの雰囲気」をもとめて

 2010年、同じ世田谷区内にPAX Coworking という東京で初めてのコワーキング・スペースができた。この場所で行われたコワーキングの体験イベントに参加し、コワーキングという仕事の仕方やそのための場所の存在を知ったことが、それまで基本的に一人で仕事をしていた河村さんにとって大きな刺激となったという。

河村「私自身、オープンソース系の勉強会を2年間ほど毎月やっていて、会場探しなど運営側の作業でとても苦労していたんです。ところがPAX Coworking に行ってみたら、人が三々五々集まってまた散っていくという、勉強会が「始まる前」と「終わったあと」の自分が好きなあの雰囲気そのままだった。こういう常設の場所があれば、イベントがないときでもそういう時間を生み出せることを知り、大いに衝撃を受けました」

コワーキング・スペースは1 日1000 円で使い放題。
コワーキング・スペースは1 日1000 円で使い放題。

 親族が所有し、河村さんが管理を任されていたマンションの駐車場が、たまたまずっと空いていた。そこで、この場所をコワーキング・スペースに改装することに決め、2011年3月に「下北沢オープンソースCafe」をオープンした。カフェのコンセプトは文字どおり「オープンソース」である。

河村「オープンソースの活動をしているプログラマーの拠りどころは、基本的にオンラインなんです。街でプログラマー同士がすれ違ってもお互いに気づかないし、普通のカフェに行ってもなかなかプログラマーには会えないので、そこに行けば自分と同じ関心をもつ人に会えるような場所がほしかった。世界中に一つぐらいは、そういうリアルな場所があってもいいんじゃないか、って。でも店を開いたときは、正直ホントに人が集まるのか、自信はありませんでした」

 同じ年の夏、空いていた隣のガレージを改装して「図書室」も作った。

河村「カフェと図書室のどちらもコワーキング・スペースなんです。静かなところと騒がしいところの両方がほしかった。お客さんの話をきいていると、静かでないと仕事ができないという人もいれば、騒がしくないと仕事ができないという人もいる。私自身も両方なので、どちらにも行けるようにしたかったんです」

 図書室の蔵書は、河村さんが自分の本を200冊ぐらい運び込むところからはじまった。

河村「あとはこのカフェを利用しにくる人に、本をもってきてほしい、と募集をかけました。1冊ずつもってきてくれるケースもあれば、段ボールでどっさり送ってくれるケースもあり、『いままさに、奥さんに捨てられそうになっていた』と言って送ってくる人もいました」

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