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 おじさんもVer.3だからねえというささやき声がきこえはじめたのはいつ頃のことだったでしょう。しかたがないねえ、と声は続くのでした。せめてVer.4はないとね、時代はもう5になるところなんだから。いやいやもう6が来るんだっていうぞ。俺たちだってうかうかしていられないさ。ため息がひとつ、ふたつときこえました。

 おじさんは今日も小柄なからだをゆすりながら、システムをうろうろしています。おなかはでっぷり、髪の毛はちょっぴり、靴はすっかりすりきれています。白いシャツに黒い腕抜きをしていますが、もうずいぶんと長いこと、おじさんが事務仕事をしているところを見かけた人はいないのでした。他の人がやったほうが早いからです。今のおじさんの仕事は自分の仕事を探すことなのでした。

 あ、あの机の上にお茶の呑み残しが。おじさんがとことこ歩いていく間に、新入社員の若いのが、目にも留まらぬ早業でさっと茶碗を片づけてしまうのでした。おじさんは、もうこんなことしなくていいんだよ、とその若いのは言うのです。

 会議のお知らせを見かけても、会議室につく頃にはもう終わってしまっていたりします。お知らせを見かける前に終わっていることも多いのです。そのうち貼り紙自体をやめてしまおうという話です。そうしたらどうやってお知らせを見れば良いのだろうと、おじさんは首をかしげるのでした。

 あの人は誰だろう、という目で見られることも増えてきました。

 若い世代とは握手の仕方や挨拶の言葉さえも違うのです。なんだか小鳥の群れを眺めているような気分になります。たまには肩に止まってくるやつもいるのですが、鳥を肩に止まらせるのはちょっと仕事とは言えないようです。

 えー。わたしは、とおじさんはシステムの夜の側で、ひとりで話していることがあります。わたしは……のあとが続きません。とにかくVer.3.12です。もう長いことアップデートされていません。仕事は……と、こちらもあとが続きません。何かをすることです。昔は何かをやっていました。あっちのものをこっちに入れたり、そっちのものをどこかにやったりするのです。昔はそんな仕事がそこらじゅうにあったのです。

「そういえば最近さ」とシステム食堂で若者が言います。
「おじさん見かけなくない」
「おじさんって」と別の若者が聞き返します。
「そのへんをいっつも歩いてた」
「え、知らないな」
「いたんだけどな。でも、ほら、俺たちってVer.12なわけじゃん。12ってことは1も2も、3だっていたってことだと思うんだよね」
 聞き手の若者は目をみはり、
「お前頭いいな」
 と言いました。
「あのおじさんは、そういうものだったんじゃないかなって今思った」
 聞き手の若者はさらに目を大きくしてから、「いや、それはないっしょー」と言って席を立ちました。昼食の時間が終わったのです。

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中間小説の隠しテーマを探せ!―この小説のお題はなんでしょう?

この中間小説は、実は事前に設定されたある「お題」に基づいて書かれています。
お題は毎回かならず変わります。
お題は毎回かならず「る」で終わる動詞です。
たとえば、第7回『みどらみどりみどれみどろ』のお題は「見破る」。
第6回『ユア・アイズ・オンリー・オン・ミー』のお題は「見守る」。

さて、ここで問題です。

今回の『**な草をあなたに』に設定されたお題は何でしょうか?
いつものように、「〜〜る」で終わる動詞です。

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