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みどるな幼稚園づくり 狭山ひかり幼稚園の改築工事 文:西村 佳哲

「ここにいていい」という感覚

この日、年長クラスは通路の壁を出して部屋にして、来週出かける新潟でのお泊まり(雪遊び)に向けためいめいの荷物の確認をしていた。年中・年少の子どもたちはこの部屋の外で、「年長さんたち、なにかしてる、なにかしてる」と気がかり。 この日、年長クラスは通路の壁を出して部屋にして、来週出かける新潟でのお泊まり(雪遊び)に向けためいめいの荷物の確認をしていた。年中・年少の子どもたちはこの部屋の外で、「年長さんたち、なにかしてる、なにかしてる」と気がかり。

──ここでの時間と空間を通じて、子どもたちに、どんな人間になって欲しいと思っていますか?

 理事長は昔からよく「踏んでも蹴っても死なない子」と言っていましたけれど、いまそれを言うと大批判を受けるのであまり言えませんよね(笑)。身体だけでなく心も含めそれぐらいたくましい人間に育って欲しいんです。ハンディキャップのある人もそうでない人も、この世に生を受けたからには、みな同じく大事な存在として、その生をまっとう出来るようであって欲しい。存分に自分らしさを出して、どんなことにもチャレンジしてゆける。どんなところでも生きてゆける。よく考えて、見て、聞いて、行動してゆける。

 やっぱり「自分で考えて、行動出来る人」というのがめざすところですね。

──「自分で考えて行動出来る」ように育ってゆくには?

 「愛されている」という感覚を、ここで実感して欲しいんです。それは子どもたちにとっていちばんの安定感だし、生きる力になってゆくので。「私は必要とされている」「みんなに愛されている」という経験があることは、小学校に進んでも、大人になっても本人の力になるんですね。

 それが心の片隅にあって、自分を肯定出来る感覚が育まれていれば、将来なにかでつまづいたときも、「でも自分は愛されてきた人間だ」ということをちょっとでも思い出せれば、そこからまた立ち上がれると思う。まだ見えない未来のことだけど、いまここでかかわっていることが、遠い先につながってゆくんじゃないかと思って。

──その肯定感覚を、この建築はどう可能にしていると思いますか?

 まず第一に安全であることですよね。園の中にはどうしても死角が生じてしまう。たとえばトイレだとか。扉に挟んでしまったら、小さな子どもの指は折れてしまいかねません。安全面で気になるところを私たちの方からいっぱい挙げて、安宅さんはその一つひとつに全部図面を書いて解消してくれて。出来上がりにすごく満足しています。

離れたところにいても安心して一緒にすごしていられる。子どもたちも自分の選んだ場所で、自由に遊んでいられる。

──そんな器になっている。

 肯定感は人と人のかかわりの中で育まれてゆく側面が多いものだけれど、やっぱりこの園には助けられていると思います。

 緑が多いので、真夏日でも涼しい風が通ってゆくんですよ。縁側に一緒にいるような気持ちでゆったりすごせる。とても穏やかで、たおやかな時間をもてているなあと思う。木を中心に自然の素材が多いし、あまり機械化もされていない。そういう空間の方が、子どもたちにとっても居心地がいいんじゃないでしょうか。「居心地がいい」ということは、「自分がここにいていい」ということですよね。

子どもの見え方

旧園舎では大工仕事が得意なお父さんが床を直したり、みなで網戸を張ったりペンキを塗るなど、建物に素人が手を入れてゆける感じがとても良かったとのこと(安宅さん談)。新園舎でも、お父さんやお母さんが集まり、丸一日かけて木製のテラスやデッキにヤスリをかけ、みんなで塗料を塗り直した。

旧園舎では大工仕事が得意なお父さんが床を直したり、みなで網戸を張ったりペンキを塗るなど、建物に素人が手を入れてゆける感じがとても良かったとのこと(安宅さん談)。新園舎でも、お父さんやお母さんが集まり、丸一日かけて木製のテラスやデッキにヤスリをかけ、みんなで塗料を塗り直した。 旧園舎では大工仕事が得意なお父さんが床を直したり、みなで網戸を張ったりペンキを塗るなど、建物に素人が手を入れてゆける感じがとても良かったとのこと(安宅さん談)。新園舎でも、お父さんやお母さんが集まり、丸一日かけて木製のテラスやデッキにヤスリをかけ、みんなで塗料を塗り直した。

 設計当時、安宅さんは幼稚園建築の名手として評判の人物というわけではなかった。キャリアもそう長くないし、実施物件の数もまだあまりなかっただろう。

 そんな安宅さんに設計を依頼した園長先生たちの判断はとてもいいと思う。保育施設の専門家ではないかもしれないが、この園の良さは体験的に熟知している。それは企画書のページをいくら増やしても、どれだけ会議や話し合いを重ねたところで到底共有しきれない厚みをもっている。客観性ばかりが、デザインや設計時に必要なものではないだろう。価値を共有している身近な人物の選択によって、この園が蓄積してきた価値をさらに重ねてゆくことが可能になっているし、園全体がオーガニック(有機的)になっていると思えた。

 仕事の質はその対象に向けられた、つくり手の眼差しの質によって決まる。相手がどんな存在として見えているかということ。園長の東さんはインタビューの最中、年少や年長の子どもたちのことをしばしば「小さな人」「大きな人」という言葉で語っていた。子どもであると同時に「人」として、実際に見て・感じているのではないかと思う。

 設計者の安宅さんは、子どもたちをどんな存在として見ているか?

安宅 子どもは「子ども」という状態にある存在であって、大人とはまた違う能力をその時期にもっているわけだから、なにかが足りない存在ではないと思います。

 だからデザインも、いわゆる子どものためのものにはしない。子どもっぽい色使いやキャラクターをあしらうとか、大人の想像力の中で子どもたちに奉仕するようなデザインはしない。

「ちゃんとしたもの」を見せたいと思いました。きちんと形づくられた空間性やディティールや環境を小さな頃に見て育つことで、感覚に残るものが、デザインやモノづくりの仕事にはつかなくても、彼らが大人になった頃なにかの足がかりになるんじゃないか。それが幼稚園という空間を通じて、僕が子どもたちに提供出来るものなんじゃないかなと思って。

 園庭につながる開口部の空間も、子どもたちにとって普段はあまり目にしない感じがあると思う。けっこうカッコイイんですよ(笑)。

安宅研太郎 Ataka Kentaro

1974年、埼玉県生まれ。アタカケンタロウ建築計画事務所 代表。東京藝術大学美術学部建築科卒、同大学大学院修了。非常勤助手を経て2003年に事務所を設立 。主な仕事に「ハスハウス」(2009)、「シャノアール研修センター」(2010)など。「狭山ひかり幼稚園」(2011)は、2013年度の日本建築学会作品選奨を受賞している。

東 温子 Higashi Atsuko

1953 年、北海道・襟裳生まれ。狭山ひかり幼稚園 園長。いくつかの幼稚園で保育士・教師として働いたのち、元園長の東喜代雄氏と出会い現在に至る。狭山ひかり幼稚園の園児は、6クラス・123名。職員は理事長・園長を含め20名で、正職員はクリスチャン。心身ともに健康で、豊かな心と自主的精神に充ちた逞しい野生人を育てること。ともに育ちあう教育(共・協・響育)を大切にしている。

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