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みどるな幼稚園づくり 狭山ひかり幼稚園の改築工事 文:西村 佳哲

"遊び"を通じて

建物裏手のブロック塀まわりは、あまり心地良くない空間になってしまいやすいものだが、ここでは旧舎解体時に発生したコンクリート殻や残土を金網のカゴでまとめ、隣地の塀にすり寄せながら、気持ちのいい緑地をつくり出している。外構や植栽の設計はランドスケープ・デザイナーの田瀬理夫さんによる。 写真:鳥村鋼一 建物裏手のブロック塀まわりは、あまり心地良くない空間になってしまいやすいものだが、ここでは旧舎解体時に発生したコンクリート殻や残土を金網のカゴでまとめ、隣地の塀にすり寄せながら、気持ちのいい緑地をつくり出している。外構や植栽の設計はランドスケープ・デザイナーの田瀬理夫さんによる。 写真:鳥村鋼一

 安宅さんの話を僕はとても楽しい気分で耳にしていた。その通りなのだとするとこの園の大人たちは、「子どもとはこういうものだ」とか「こうあるべき」といった概念や設計図でなく、子どもたちの日々のありように応じてかかわり方を形づくってきたし、いまも日々更新していることになる。

 その手がかりになる鮮度の高い生きた経験を豊富に生まれやすくすることも園舎が実現しているようにも見える。空間と生活、よくある言い方をすればハードとソフトの、とても幸せな組み合わせが形になっているように思える。

みどるな幼稚園づくり

 園長先生の話も聞いてみたい。東温子さん。創設時の園長・東喜代雄さんの理事長就任をきっかけに、6年前から園長をおつとめになっている。

 理事長(元園長)の中には昔からの信念と言うか、一つの大きな家族の中で子どもたちが生活し成長してゆく、そのための空間を実現したいという想いがずっとあって。新しく建て直すことになったとき彼は安宅さんに、「園舎は一つの箱でいいよ」なんて言っていたんです(笑)。「子どもはその中でどこへ行ってもいい。自由に遊んで、自分の居場所をどこにでも見つけられるようにしたいんだ」と。

 けど先生たちから、「いやいや。やっぱり年齢に合った集まり方や、話し方、接し方がある」「みんなで一つの家族のようにすごしたいけれど、小さなまとまりで静かに話を聞いたり、いろんなときがあっていいと思うので個別の空間も欲しい」「子どもたちの『私はここに所属しています』という意識も大切にしたい」、といった意見が出てきた。

「ただ園内の子どもたちの行き来は、もっとスムーズに出来るといいね」って。実際この園舎になってからは、年少の人たちも年長の人たちも、年齢の壁を越えて園の中を自由に行き来しています。安宅さんの遊び心は、イタリアの街並みのように教室を貫いている道のような空間を考えたことですよね。出来てみて本当に面白い。子どもたちは最初にこの建物に入ったとき、まだなにもなかったのにものすごく遊んだんです。隅々まで使って。「建築だけで遊べるってすごいな!」と思いました。

 私たちの仕事は、子どもがすくすくと伸びてゆくのを、その傍らで手伝うことです。こちらの主導ではなく。そしてどんどん忘れ去られる存在なのだと自覚しています。

 経験させたいことは大人としていっぱいありますけど、子ども自身が気づいて、主体的にかかわってゆく過程をサポートするんですね。"遊び"を通じて。

 他人とのかかわりを深めることも、生きる力を得てゆくことも、遊びを通じて学んで、掴んでゆく。「工作の時間を始めますよー」とか「運動の時間ですよ」「歌う時間ですよ」という具合に区切るのではなくて、すべて"遊び"の中に散りばめてゆく。新しいこの園舎は、それがとてもやりやすい空間になっている。

 でも活発に動いてゆくだけでなく静まりたいときだって人にはあるし、そういうときを持てる人でもあって欲しい。人の話をよく聞けるとか、興味をもったことについて心を落ち着けて「どうしてかな?」と考えたり。先生から投げかけられた言葉を、自分の気持ちを感じながら受けとめる時間も経験して欲しい。

 そういう意味でも、区切れる空間も必要でした。ちゃんと両立しているし、いろんな質の場所を備えていて、すごいと思う。先生たちと「私たち、ちゃんと使いこなせているかな?」ってよく話しているんです(笑)。