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みどるな会社をつくる パタゴニア日本支社の“働くプロセスづくり” 文:西村 佳哲

プロセスの精度を上げる

みどるな会社をつくる
取材者の解釈で描き起こした図。「ミッション」「コアバリュー」は左足と右足のような関係ではないか。ミッションを認識し、コアバリューを確認しながら歩みを進めると、めざすべき場所というか、将来の自分たちの姿が「ビジョン」として見える。そこへむかう路筋の判断が「イニシアチブ」。この全体性の共有を通じて、ばらばらな個人の集まりである組織が、1つの有機体のように動いてゆくことが可能になるのだと思う。


─会社としてそれを実現するために、どんな工夫を?

辻井 日本支社を任された5年前、一番最初に取り組んだのは、みんなが同じ方向をむいていくことでした。パタゴニアはすごくそれが出来ている会社だと思うけれど、僕が就任した頃は百数十名くらいだった組織もストアスタッフも含めれば400名以上に増えていて、そこから生じる難しさはやはりあります。みんなが同じ方向をむいて働ける仕組みやプロセスを導入しなきゃと思い、当時の各部門の責任者等十数名と二泊三日の合宿をして、まず「なぜ日本支社があるんだ?」というところから話し始めました。

 パタゴニアのグローバルな「ミッション」は、"最高の製品をつくり、環境に対する不必要な悪影響を最低限に抑える。そしてビジネスを使って環境危機に警鐘を鳴らし、その解決にむけて実行する"ことです。でも日本では製造を行っていませんから、"最高の製品をつくる"ことには影響力を持ちにくい。パタゴニアが企業として排出する二酸化炭素や使っているエネルギーもおよそ99%は製造過程で生じています。

 でも創業者たちは25年前、商社にブランドを預けるようなことはしないで、敢えて手間暇のかかる日本支社をつくり、人を雇っていった。それは何なのか?

みどるな会社をつくる

 製品へのフィードバックや日本のマーケット分析を越えて出来ることを考えると"ビジネスを使って環境危機に警鐘を鳴らし、その解決にむけて実行する"部分の重みづけが大きくなるよねと。そんな話を交わして。外に発表するようなものではないけれど、自分たちが一番果たさなければならないミッションを、シニア・マネージメントが再共有するところから始めました。

 「ミッション」と同時に大切なものが「コアバリュー」です。それはこの会社の誰もが共通認識として大事にしているべき価値で、パタゴニアには大きく4つあります。

 1つはクオリティー(質)。プレゼンテーションであれ、接客であれ、製品づくりであれ、どんなときにも常にクオリティーを追求し高めてゆく。2つめはインテグリティ(誠実さ)。お客様にも、社員同士でも、ベンダーさんにも、全てのステークホルダーに、ときには自然環境や動物に対しても出来るだけ誠実に対応する。3つめはノット・バウンド・バイ・コンディション。訳すと、前例にとらわれずに目の前の状況にベストを尽くして、生じた結果についてまた考える。そういう思考と行動の持ち方。最後がエンバイロメンタリズム(環境主義)。あらゆることについて環境負荷の低い方法を考えて実践し、環境活動を奨励する。この四つがコアバリューとしてあります。

 「ミッション」とは「自分たちがなぜ存在しているのか(reason for being)」という存在意義で、それを耳や目にすることで、皆が誇りに思えるようなものです。でもそればかり立派でもしょうがない。ミッションの遂行において、「コアバリュー」を体現しながら日々取り組んでゆく。すると何年後にこんな状態が実現するね、と見えてくるのが「ビジョン」。つまり未来の姿。ではどうやってその姿を実現するかという戦略が「イニシアチブ」。

 「ミッション」「コアバリュー」「ビジョン」「イニシアチブ」という用語をまず統一して。それをトップダウンで渡すのではなく、同じ方向に力を合わせてゆけるように、みんなで形づくりたいわけです。

 合宿では、つづけて各部門のミッションに取り組みました。たとえば「日本のマーケティング部門はなぜ存在するのか?」「セールス部門は?」「物流部門は?」。それぞれの存在意義を、その部門の責任者に言語化してもらい、全員で「いやそうじゃないでしょ」「こういうこともしてくれなきゃ困る」という具合にフィードバックし合って。

みどるな会社をつくる
みどるな会社をつくる
撮影当日、鎌倉店前のテーブルで行われていたワークショップの様子。紙には「第6回 Patagonia あるものさがし」と書かれていた。

 パタゴニアのミッション、日本支社のミッション、各部門のミッションを確認してゆくと、「こうなりたい」というビジョンがはっきりしてくる。そして日本支社としてむこう1年間こういうことをやっていこう、というイニシアチブ(戦略)までその場で決定した。この合宿はいまも毎年3月に行っています。自分で会議進行すると「僕がこうしたい」というミーティングになってしまうので、外部のファシリテーターに入ってもらって進めます。

 その実現のために「今年はこういうことに注力します」というイニシアチブを、今度は各部門がつくってゆく。これについてはまずその合宿の中で「来年セールスはこういうことをやるので、マーケティングは新規のお客様に焦点を合わせて欲しいんだよね」「いやこっちはこんなふうに状況を捉えているので、むしろいまのお客様の理解の向上に注力したい」というような議論を重ねて、2〜3のたたき台をつくる。

 それを責任者が各部門に持ち帰って、部門ごとに全員で再検討する。「これはシニア・マネージメントのみんなが想いを交わしてつくったたたき台だけど、現場のみんなから見ると抜けている視点や別の想いもあるかもしれない」と提示して、ここでは別部門のシニア・マネージメントが互いにファシリテートして会議を行っています。

 こうした一部始終を通じて、結果的にパタゴニア日本支社の全員が、自分の現場の仕事の検討過程に参加する。

 各部門のイニシアチブには僕は干渉しません。そこはもう決めてもらう。各部門のシニア・マネージメントとは月に約2回ほど個別に会って、それぞれの目標の到達度や、部門の状態を確認します。パフォーマンス・マネージメントというより、実践の中で何に困っていてどんなサポートが出来るか、ゴールを微調整した方が良いかといったことを話し合う。そんな場を1時間くらい持っておけば、たくさん会議を重ねなくても、めいめいの状況が見えるじゃないですか。そして1年後にまた合宿をして、「どうだった?」と。次の1年にむけて話し合い、各部門でも話し合われて…というプロセスを重ねている。そんなふうにすれば、トップダウンとボトムアップが有機的に融合するかなと思ってつづけているんです。

─つづけてみて、どうですか?

辻井 結局トップダウンになってしまったり、スタッフの話を聞きすぎてまとまらない部門があったり(笑)、試行錯誤はもちろんいろいろあるけれど、精度を上げながら、だんだんうまく動くようになってきています。こうして説明しているけれど誰も教えてはくれなかったから、いまや同志のような関係になった社外のファシリテーターと一緒に、当時は一から考えて。本当に手探りでした。

 最終的なイニシアチブと同時に、プロセス自体がすごく大事なものだと感じています。「自分はそこに参加したんだ」という想いがあることが一番大切だし、その過程を通じて互いの理解も深まるので。こうしたプロセスのあり方を良くしてゆくことが、組織にとって本当は一番の課題だと思う。

遠くに行ける

─働く人にとって、どんな会社でありたいと思いますか?

辻井 やっぱり、誇りに思えるような組織でありたい。どんな角度からでもいいので、本当に胸を張って「こういうところで働いているんです」と語ってもらえる組織でありたいし、同時にその人が成長出来る会社でありたい。

 僕自身がそうなんです。地球についても人についても、他者に貢献出来るかもしれないと思えることが、こんなに楽しいというのを僕はぜんぜん知らなかった。30代くらいまでは「アウトドアスポーツをしたい」とか「シーカヤックでどこへ行きたい」とか「冒険したい」とか、全部自分のことでした。もともと集団行動は苦手で、どちらかというと一人でいるのが楽なタイプだった。でも、誰かの役に立つとか貢献する喜びが人間のDNAにはもともと刻み込まれているんじゃないかと、この歳になってようやく考えるようになった(笑)。人が人のそういう部分を実現出来る組織だといいですよね。

 そして、一人では出来ないことが出来るということ。いま社会が直面している環境問題はとても複雑で、特定の悪者を扱うだけでは解決しない。関係するステークホルダーの数が多く、物事が距離を超えて影響し合っていて、問題の質自体が時間とともに変容してゆく。そういう中で、一人の人間に出来ることには本当に限界があると思う。それは組織としてやるのがいい気がするんですよね。

 あるスタッフがどこかで聞いたと教えてくれたんですが、「一人だと早く行ける、みんなとだと遠くへ行ける」って。ですよね。それが組織としての「会社」の良さだと思います。

辻井隆行 Tsujii Takayuki

1968年、東京生まれ。大学卒業後、日本電装(現デンソー)に入社。95年に早稲田大学大学院社会科学研究科 修士課程へ。修了後、シーカヤック専門店に勤めアウトドアスポーツを本格的に始める。カナダでのカヤック・ガイド業を経て、1999年秋からパートタイムの店舗スタッフとしてパタゴニアに勤務。翌年正社員になり、鎌倉ストア、マーケティング、ホールセール(卸売り)などを経て、2009年から日本支社長をつとめる。

パタゴニアの創業は1972年。本社はアメリカ西海岸・ベンチュラにある。eコマース、卸売り、直営店を通じて事業を営み、年商は約600億円。直営店は世界20ヵ国に約100店舗(日本国内には現在20店舗)。創業者はイヴォン・シュイナード。翻訳されている書籍に『社員をサーフィンに行かせよう』(東洋経済新報社)、『レスポンシブル・カンパニー』(ダイヤモンド社)がある。

http://www.patagonia.com/

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