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みどるな会社をつくる パタゴニア日本支社の“働くプロセスづくり” 文:西村 佳哲

会社は、社員の夢を実現するための場ではないし、与えられた仕事を、ただこなすための場でもないと思う。

その場を経営者はどのように考え、運営しているのか?

あるアウトドアウェア・メーカーの日本支社長に就いて5年目をむかえる人物の話をきいた。

みどるな会社をつくる

会社と個人

みどるな会社をつくる

 「会社」は不思議なところだと思う。まず、誰のものなのかよくわからない。始めた本人ではない人々が集まり、めいめいの力を発揮して動かしている。多様な人を含む器のようで、人格のようでもある。この社会における人の居場所の一つであり、目的を達成する媒体としても機能する。

 パタゴニアという、世界的なアウトドアウェア・ブランドがある。この会社は良質な製品づくりと同時に、環境問題への活発な取り組みでも知られる。

 たとえば、毎年売上げの1%を、草の根的な環境保護団体に寄付している。社員には年間就業時間のうち最大8週間を環境保護のボランティアに費やすことを奨励しており、それらは勤務内として扱われる。南米・チリで新しい国立公園の創設に着手していて、過放牧の進んでいた広大な平原に持続可能な放牧スタイルを取り戻す事業を試みている、などなど。取り組みは無数にあり、環境問題をめぐる彼らの動きは一般的な企業のCSR活動の度合いを大きく超えている。

 本業の変革にも手を抜かない。たとえば現代の綿花栽培には大量の農薬が使われ、環境にも従事する人々にも多大な負荷を与えているのだが、その状況を認識したパタゴニア社は1994年から、18ヶ月間で全ての綿製品をオーガニック・コットンに切り替える社内プロジェクトを実行した。これは当然コスト増を伴うし、サプライチェーンの抜本的な再構築を要する。達成出来なかったときには、コットンを使った製品づくりから撤退するつもりで実施にあたったとか。本業とはまた別のメセナや社会貢献でなく、実業そのものの中で、当事者として出来る活動の実現を大切にしている。

 こうした企業姿勢に対する共感だけが理由ではないと思われるが、パタゴニア社の求人倍率は、パート・アルバイトで約5倍、日本支社の正社員が約30倍と高い。その人たちはこの「会社」に、なにを求めているのだろう? そして会社は彼らになにを期待しているのか? 双方の願いはうまく噛み合っているんだろうか。いるとしたら、それはどのように行われているのか?

 日本支社は鎌倉・鶴岡八幡宮の参道沿いにある。支社長を任されて5年目になる辻井隆行さんに、彼が自分たちの「会社」をどのように捉え・運営しているのか、お話をうかがった。

みどるな会社をつくるパタゴニアの国内1 号店は、25 年前、東京・目白の住宅街の入口に開店。現在日本支社のオフィスは、鎌倉・鶴岡八幡宮の参道沿いにある直営店の上にある。

ビジネスのあり方を変える

みどるな会社をつくる パタゴニアの前身はシュイナード・イクイップメント社。ロッククライミングに用いる「ピトン」という用具を工房でつくり、国立公園の地面に並べて売るところからビジネスを始めた。追ってこのピトンは、岩肌を傷つけない「チョック」に転換される。

辻井 パタゴニアを創業したイヴォン・シュイナードは、クライマーでありサーファーでもあり、自然の中ですごす時間を長く持って生きてきた人です。彼とその仲間たちが抱いた「自分たちが欲しい高品質の登山用品をつくってみよう」というアイデアが、この会社の出発点でした。

 追ってウェアも手がけるようになりますが、クライミングで世界各地のフィールドを訪ね歩いているうちに、自然の状態の変化を知るようになり、次第に環境問題に関心を寄せていきます。モノづくりの過程で社会が環境に与えている影響の大きさがわかってきて、それを自覚したからには出来る限りの責任をとる形でビジネスをしてゆこうと。経済的な成果を出しながらそうした課題に取り組んでゆけることを、自ら示す。アウトドアウェアのビジネスを使って、最終的には環境問題を解決してゆきたい。

 何世代かかるかはわかりません。僕たちが生きている間に解決されることはないだろうと思っています。

(─だからなおのこと一個人のライフスパンを越えてゆける「会社」という形態に意義がある、ということか)

辻井 ただ解決はすぐに出来なくても、責任はいまこの場でとってゆけるものじゃないですか。何世代も先を視野に置くからこそ、いまとるべき責任も明確になる。すぐに出来ることも結構あると思うんです。たとえば消費者なら、「どんな選択基準に沿ってお金を使うか」という責任のとり方も出来る。

─製造者としてのパタゴニアだけでなく、カスタマー(顧客)と一緒に取り組んでゆけることとして、先の責任を捉えているんですね。

辻井 そうですね。「僕たちはこういう努力をするので、お客様もぜひ関心を持って一緒に取り組んでいって欲しい」というスタンスですね。パタゴニアは18ヶ月毎に環境キャンペーンを行っていて、この秋から始めるテーマは「レスポンシブル・エコノミー」です。森林伐採にせよ、遺伝子組み換え食品の問題にせよ、もし根本的な原因が経済活動にあるのなら、経済活動のあり方そのものを変革しなければならない。

─ビジネスを通じて、環境とどうかかわってゆけるか。

辻井 それと人ですよね。パタゴニアの製品づくりは現在世界100ヶ所の工場で行われているのですが、そこで従事している人たちの生活に対する責任もある。アパレル業界の常識からは外れているけれど、わたしたちは発注先の工場リストをすべて公開しています。そこで働く人たちが、それぞれの国でちゃんと家族を養っていけるとか、子どもが学校に通えるとか、小さい子のいるお母さんも働ける環境を用意出来ることを含んで取引を整えている。

 「そんなことをすると、コストがかかって大変では?」「うまく行きませんよね?」と言われたとき、「いやそうでもないんですよ」と示せることがこの会社が当事者としてビジネスの中にいる大きな理由であり、強みにもなっていると思います。

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