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みどるなオフィスづくり プロジェクトが生まれ、育ちやすい仕事場のデザイン 文:西村 佳哲

影響を与える触媒

「ここはTBWAシャイアットデイというアメリカの広告代理店。500人がひとつ屋根の下にいる大きな倉庫を改装したオフィスで、その中に建築物を組んで、一つの街のような空間が構成されています。

みどるなオフィスづくり

 この会社の組織文化はフラットで、ここに移る前は全員が同じサイズのキュービクル(パーティションで区切られたワークブース)でした。でもここに来て、「メインストリート」と呼ばれる中央のブロックだけ3階建ての個室形式にした。そこに入っているのは全員クリエイティブ・ディレクターです。つまり「自分たちがもっとも重要視するのはクリエイティビティである」というメッセージングを社員に対して空間的に行っているのだと言う。ロールモデルを出来るだけ可視化することで「なるほどああすればいいんだ」「あの人をめざせばいいんだな」ということを伝えている。

 あと屋上看板みたいなところを使って、優れた成果を公開している。「こういうものを私たちは評価するんだよ」と。オフィス空間をメディアとして使っているわけです。」

みどるなオフィスづくり

──社外に向けたメッセージングにおいても強く機能しそう。

「そうですよね。企業にはこれからプロフェッショナリティの高い人材が要ると言われているけれど、実際には専門職の労働力市場はどんどん小さくなっている。企業と求職者が直接つながるチャンネルが無数に出来て、ハイエンドな人を獲得する競争は激化しています。

 でもそういう人材がいないと企業は生き残ってゆけない。英語では競争でなく「war for talent」と言っている。戦争だと。「ここで働きたい」と思わせることが出来るかどうかは、重要な話になってゆくでしょうね。」

──能力の高い人はなによりも「能力を発揮したい」はずだから、少なくともそれが難しそうな環境には敏感でしょうね。冒頭の「組織図がそのまま配置されている」ような会社は、「うちは形式的な会社です」と言っているようなものと思うし。

「オフィスは「意思を伝えるメディア」なんですよね。アイデンティティを表明するし、人材の選別も助ける。実際、デザインやつくりを意図的に変えてはっきりした性格付けを施すことで、その会社が必要としている種類の人材を、戦略的に獲得している会社もある。

 オフィスは仕事の内容やプロセスに影響してゆく一種の「触媒」なのだと思います。組織風土や、人間関係についても影響力を持つ。

 しかしやはり大事なのは、オフィスの最適化ではなくて、ビジネスモデルの最適化なんですよ。オフィスづくりは「空間をどう効率化するか」といった話に流れてしまいやすいのだけど、「自分たちの行動をどう変えたいか?」ということの方がむしろ大事なんです。」

──行動変容。

「そっちを考えましょう、という話です。それはプロジェクト・ワークにおいては特に大切な話ですよね。

 先の「触媒」という言葉をあらためて調べてみると、「自発的に進行する方向に反応の速度を増加させる働きを持つ」ものであって、「自発的に起こりえない方向への反応は触媒を用いても進行しない」とあった。これは重要な話だと思います。環境を変えれば生産性が上がるとか、そんな単純な話じゃない。結局は人なんですよね。仕事をするのも生産性を上げるのもアイデアを生み出すのも。

 人がその気にならなかったらいくら空間をつくっても駄目だけれど、人がその気にさえなっていれば、それに合った空間をつくることで必ずその進行を促すことが出来る。オフィスは強い影響力を持っているけれど、そういう間接的なものでしかないと僕は思うんです。」

みどるなオフィスづくり

岸本章弘 Akihiro Kishimoto

1958年兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学大学院 修士課程修了。家具メーカーでオフィス関連の企画・デザインに携わるかたわら、研究情報誌『ECIFFO』の編集長として、無数の先駆的オフィスの視察・調査を行う。
2007年に独立。ワークスケープ・ラボを設立し、ワークプレイスの研究・コンサルティング・著述などの活動を重ねている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学非常勤講師等を歴任。

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