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みどるなオフィスづくり プロジェクトが生まれ、育ちやすい仕事場のデザイン 文:西村 佳哲

組織でなく機能を配置すること

「これはグラクソ・スミスクラインという巨大製薬企業のオフィスです。

みどるなオフィスづくり

 収益源だった医薬品の特許が切れ始めていて、でも新しい開発にはどうしても時間とコストがかかる。そこで、歯磨き剤や禁煙補助剤などのコンシューマ・ヘルスケア製品に力を入れているけれど、その分野は市場の変化も競争もすごく激しいので、いかに早く商品開発を進められるかが重要なテーマになります。

 そこで、商品企画や研究開発、販売、プロモーションといったワークフローの上流から下流に点在するメンバーが一緒に働けるようにしようと。部門にある自席とは別に、商品ブランドごとに集まって仕事を進めてゆける場所をつくっていて「イノベーションハブ」と呼んでいました。」

みどるなオフィスづくり

「ここに来ると、同じブランドを担当する別の職種の人たちがいて、フローに沿って順番に働くのではなく一緒に動いてゆく状況が出来る。フリーアドレス(※)のように使える「キッチンテーブル」と呼び合っている大きな机があって、周囲の壁や棚にはさまざまな資料が出来るだけ表に見える形で並んでいます。あらゆる商品、あらゆる情報が見える中で、関係するみんなが、クロスファンクションのチームになって働いていました。」

※フリーアドレス…オープンデスクを共有して働く、個々のワーカーが自席を持たない形式。コストダウンと同時に、働き方やコミュニケーションの改革に効果を持つ。

──人材の採り方がそもそも日本とは違うんでしょうね。ひな壇・対向島型の国内のオフィスには、新卒で入った社員が「ああやればいいんだな」とルールや不文律を自席にいながら学びやすい構造がある。新入社員が毎年一定量入ってくる組織には、学習効果の高いレイアウトですよね。

「もちろん教育は大事ですよ。僕も新人が入ってきたら少なくとも半年、長いと一年間は必ず自分の隣に座らせていました。その人がどんな人間かということも知りたいしね。

 でも、ひな壇・対向島型レイアウトである必要はない。ある会社は全員フリーアドレス制に移行したけれど、新入社員は固定席にしています。人がよく通る中央のところに若葉マークの付いたテーブルがあって、そこに座っていると「あ、君が今度入った○○君か」という具合にみんなが声をかけてゆく。フリーアドレスと言っても、いっさい固定席にしてはいけないわけではなくて、「より柔軟に出来る」というところが重要なんです。

 少なくとも、組織図をそのまま反映させる必要はない。「組織でなく機能を配置しよう」ということです。」

「これはボーイング社のワシントン州レントン市の工場です。」

みどるなオフィスづくり

「機体の組み立て工場で、広い敷地の離れたところにオフィスがあったけれど、トヨタの「かんばん方式」みたいなやり方で組み立てラインの再整備をしたら結構スペースが空いた。で、大きな格納庫の中に小さなオフィス棟をつくって、デスクワークのエンジニアを全員そこに移したんです。

 それまで工場でトラブルが発生すると一旦ラインを止めて電話やメールでやり取りしたり、エンジニアの到着を待っていたけれど、ほぼ同じ場所にいるのですぐ取りかかれるようになった。

みどるなオフィスづくり

 お互いの働いている様子もよく見えるようになった。「まだ電気がついているから、あいつも頑張っているんだな」とか。離れた現場と現場をつなぎ直すやり方ですね。」

──こういう機能の再配置には、全社的な視野が要りますね。

「社内だけでなく社外も含めてね。いままでは会社の中だけで働いていたのが、ホテルの一室なども含めて「そのすべてがオフィスだよ」という感じになってきていると思う。自前のオフィススペースは相対的に減って、その中にいる人も全員が社員とは限らないような。」

人が集う。仕事が見える

「でもそうなると特定の空間での滞在時間が減る。人と人の関係でいえば、時間・空間・体験を共有する機会が減ってきている。

 米ヤフーのCEOに就任したマリッサ・メイヤーは最近、社員の在宅勤務を禁止にしました。「時代に逆行している」とアメリカでちょっと物議をかもした。でも逆行しようがなんだろうが下り坂にある会社を建て直さないといけないわけで、彼女はおそらくものすごい危機感を持って取り組んでいる。そこには「情報を共有する」「同じ経験を持つ」ことがすごく重要だ、という経営判断があるのだと思います。」

「これはブルームバーグのオフィス。彼らのオフィスは世界中どこでも必ずオフィスのど真ん中にフリースナック、フリードリンクのコーナーを設けています。」

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「たとえばビルの3フロアを借りたら、中階段の工事をして真ん中のフロアにつくる。よりたくさんの人が集まるように。組織もそこを使うことを奨励している。金融情報を提供している人たちは朝が早くて、オフィスに来るとまずここで朝食を食べながら情報交換をして、そこから一日が始まる。フードはアメリカだとシリアルの種類がすごい。日本ではカップラーメンになるんですけど。

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 「コミュニケーションの活性化」という話自体は、もう何十年も前から言われてきた。ネットワーク技術の進展で状況はずいぶん様変わりしました。だけど、口頭で交わされるオーラル・コミュニケーションは減ってきている。一方『ワークシフト』のような本が結構売れていて、「人がする仕事はどんどん無くなってゆく」という危機感を煽る話を耳にするけれど、自分の手元にある仕事はまったく減らない。採用数が減っているので。いままでの75%の人員で1.2倍の仕事をやらければならないみたいなね。本当に「処理に追われている」という感じがする。そういう声を聞くんですよね。

 そんな流れの中で、業務上のコミュニケーションではなく、もっと社会的なレベルのもの。仲間同士のつながりのような、カルチャーにかかわるような部分に再び焦点が当たってきている気がします。仕事が終わったあとの飲み屋でのコミュニケーションであるとか、若い人たちは「なくていいじゃん」と思っていた事。実際に会って言葉を交わし合うことについて。「やっぱりメールだけじゃ駄目だ」みたいな体感もあり、人と人との繋がりを求め直している傾向があると思う。」

──「たばこ部屋のコミュニケーションがいい」という声もよく聞きますね。

「それはそれで認めるけど、そこに集まっている人って社員の何割なんでしょうね。極めて少数派で、だからこそ親密にもなるのだと思う。そこに入った瞬間に隣の部門の部長も平社員も結構フラットな関係になるんでしょう。「そのたばこに代わるものは?」という質問を受けたことがあるんですが、もっとも広がりをもって使えるのは飲食だと思います。絶対に。」

(──滞留時間も長いから、偶発的な出会い、情報交換も生まれやすいだろう。食べているときは人の関係もフラットになるし。なるほど。)

「これはジェノバにある、レンゾ・ピアノという建築家のオフィス。海に降りてゆく山の斜面に建てられた建物で、階段状だからこんなことが出来る。」

みどるなオフィスづくり

──壁がたっぷりある。

「そう。全体がこんなに見渡せるのに、しっかり壁がある。そこは書棚になっていたり、あるいは進行中のいろいろなプロジェクトのサマリーがA4サイズにまとめられていて、互いに見れるようになっている。

みどるなオフィスづくり

 仕事の可視化は大事ですよね。このオフィス全体に言えることだけれど、移動してゆくと他のプロジェクトの様子が見えて、さらに興味を膨らませてゆける。デジタルデータには、アクセスしない限り見えないというデメリットがある。「何気なく目に付く」というのはすごくいいし、実空間の良さだと思う。」

みどるなオフィスづくり

「仕事の質は、分業型の情報処理から「協働型の課題解決」へ。そして「知識の創造」へ確実に変化している。それは「PCがあればどこでも仕事が出来る」という話じゃない。いま明らかに必要なのは情報共有であり、対話であり、創造的な協働の実現ですよね。そのための空間をどう用意してゆくか。」