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みどるなオフィスづくり プロジェクトが生まれ、育ちやすい仕事場のデザイン 文:西村 佳哲

人々がなにかを「する」とき、それを「可能にする」工夫や働きについて考えてみたい。

たとえば人が仕事をする空間であり、その仕事が生まれる場でもあるオフィス空間はいま、どのように形づくられているのか?

プロジェクトを可能にする環境

 つくれば売れていたものがこれまで通りには売れなくなって、差異化競争や価格競争の果てに、労働時間だけが増えてゆくような状況が増えているとしたら、その只中で「これをいつまでつづけられるだろう」と、途方に暮れてしまう人も少なくないのではないかと思う。自分たちはまだしも次の世代、 またその次の世代は、一体どんな仕事をして、暮らしてゆくのか? 生きている時間が、ただの消耗戦になってしまってはつまらない。なら、新しい営みや仕事の可能性を見出したいし、その仕込みをしてゆきたい。

 可能性の模索、あらかじめ成果が保証されてはいない“にもかかわらず”投じられる試みは「プロジェクト」と呼ばれる。pro(前方に)+ ject(投げる)という言葉のつくりのとおり、これは投機的な活動を指す言葉だ。

 会社のルーティンワークのすべてがプロジェクトに替わるわけではないにせよ、それが必要とされてきているのは間違いないとして、ではその「プロジェクト」が生まれやすく育ちやすい環境、その実現を可能にするオフィスはどんなものだろう?

 「空間以前に組織設計や、マネージメントの再検討の方が大切だ」と言う人がいるかもしれない。その通りだと思うけれど、新しい楽器が新しい音楽を生み出すこともある。

 まずは、わたしたち日本人が抱えているオフィスの「あたり前」から一度離れてみてはどうかなと考え、海外のオフィスの調査実績において量・質ともに国内一と言われる岸本章弘さんに誌上レクチャーを依頼した。この小さな講義で語られる話や登場するオフィスの実例を、みなさんはどう思われますか?

人は流動する

「これはBBCのスコットランド。」

みどるなオフィスづくり

「大きな階段状のテラスの下にはスタジオが埋まっています。 スタジオには大小がある。奥から大きさ順に並べて、両側をオフィス棟で挟んでいるわけです。

 実際に行ってみると、働いている人たちが、ほとんどエレベーターを使っていないのが面白かった。みんなこの階段で移動していて、自転車で会社に来た人もそのまま肩に担いで三階くらいまで登っていて(笑)。

 これくらい広くて、そこかしこでいろいろなことが行われていて、歩く経路も見えていると、やっぱり自然に歩きますね。

 で、歩いているといろいろな人に出会うわけです。通路が広くて通行の邪魔にならないから、立ち話をしたり。腰を下ろしたり。大きなテーブルがあって会議も出来て。小さなビーンバッグ(ソファー)も置いてあったりして。」

みどるなオフィスづくり

──郵便ポストが見える。

「屋外というか、公園的な雰囲気をかもし出していますよね。朝早い時間に新聞を読んでいる人もいた。階段の一番上にはカフェテリアがある。放送局だから24時間体制で営業していて、みんな毎日そこへ上がってゆくんです。

 テラスには「the playground」という名前が付いていて、パブリックな公園のように位置づけられていました。」

みどるなオフィスづくり

「こう書かれていたら「仕事以外のことをやっていいんだ」と思いますよね。両側のオフィスを見ると、通路のところどころにミーティングスポットがあり、窓に面した通常のデスクスペースが奥に広がっています。」

みどるなオフィスづくり

──人が歩き回ることもそうだし、自席以外の場所に居ることを良しとしている感じですね。

「そうですよね。「席外し」という言葉はいつになったら死語になるのかなと思うんだけど、日本の会社では「とにかくお前この席を外すな」とか「あいつはどこへ行った?」といった上司の声がまだよく聞こえますよね。」

──プロジェクトワークが増えれば、離席率は自然に上がりますよね。

「部門間を越えて働きますからね。異なる会社間でパートナーシップが組まれることもあるわけだし。

 もちろんすべての仕事がプロジェクトになるわけはなくて、従来のルーティンワークで稼ぎながら、併行してプロジェクトを模索してゆくわけです。それが発展して、事業になり、運用が軌道に乗ってゆく中で新しい利益も生み出されてゆく。

 プロジェクトを育てたプロフェッショナルたちは手がけていた事業をそのまま継続するとは限らなくて、また別の新しい素材やアイデアを探して動いてゆく人も多い。彼らは組織の既存の枠組みにはとらわれずに、課題意識やその共有を軸にこれまで離れた場所にあったリソースをうまく組み合わせてゆく。その中で新しいテーマが像を結び、また新しいプロジェクトが編成される。」

(──人が動きやすく出会いやすい空間は、それを助けるということか。)

「その種の人たちは、オフィスの外でも中でも流動する。彼らが働く空間は組織の形で考えていると間に合わない。環境や道具を、みずから選択出来る仕組みが要ると思います。

 だけど従来のオフィス・プランニングは、彼らではなくルーティンワークに就いている流動しない人たちのためにつくられている。家具メーカーのデータブックを見ると、国内で最近一年間につくられたオフィスのほぼ9割が、いまだに対向島型レイアウトです。数名分の机が向かい合って並んでいてその端に課長席がある。「ひな壇」と呼ばれているんですけど、その向こうに部長席があって。国内のオフィスの約半分が、ひな壇・対向島型でつくられている。

 組織図をパタンと倒して、その通りに机を並べているわけです。機能でなく組織が配置されている。だからワークスタイルのまったく異なる課長と、その隣の事務の女性と、その隣の営業の人が、同じ大きさの同じ机を使っている。仕事の内容が違うのに全員同じ道具というのは機能的ではないですよね。

 中間管理職の役割も通信技術の展開に応じて変わってきた。程度の差こそあれ、旧来のピラミッド型に比べたら企業組織はよりフラットになってきている。でもそうした実態と、オフィスづくりのありようが噛み合っていないんですよね。」

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