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みどるな書店経営 大阪の三軒の本屋さんを訪ねて 文:西村 佳哲

ジュンク堂・難波店の福嶋 聡さん
「ネットにいなくて書店にいるのは、本ではなく人です」

ジュンク堂書店・難波店
ジュンク堂書店・難波店
お店が広ければ広いほど、棚の本の並べ方はオーソドックスにしておく必要があるんです。訊かれても店員がわからないようでは困るでしょう。新しい店をオープンするときは、10年以上の選書経験があり出版社の評価も得ているスタッフに任せていて、結果的にどの店舗の本棚も大体同じような並び具合になる。(福嶋)

 最後にお話をうかがった福嶋聡さんは、京都大学を卒業して1982年に入社。神戸店、京都店、仙台店の店長、池袋本店の副店長、大阪本店の店長を経て、今は難波店で店長を務めている。『書店人のしごと』『書店人のこころ』(三一書房)『劇場としての書店』(新評論)『希望の書店論』(人文書院)などの著作でも知られる人物だ。

福嶋 ジュンク堂は規模の大きな書店です。新刊や話題書も並べますけどそれよりも大事にしているのは、出来るだけたくさん本を揃えること。各地で店を開きながら実感してきたのは、地方にもいろいろな専門書を必要とされている方がいるということです。だからジュンク堂の看板で店を出すなら十分な専門書が並べられる面積を用意して、一人か二人でやっているような小さな出版社の本もきちんと揃えてゆく。

 ザックリ言えばAmazonがやっていることをリアルに先にやってきたというか。モノが相手なのでリストのようには網羅しきれないけど、「あそこに行けばなんでも揃う」というのを目標にしてきました。

─これだけお店が広くて冊数も多いと、把握しつづけるだけで大仕事ですね。

福嶋 専門書はどうしたって読者のほうがプロなんです。作家のファンの人も私たち以上に著者の書いたものを読み込んでいることが多い。彼らの後を出来るだけ離されないように追走するぐらいが関の山で。

 それには実際に読むのが一番です。かつての有名な書店員は大抵そうしていた。けどその方法ですべてはカバー出来ないので、少しでも油断すると読者との距離が開いてしまう。すると、だんだん読者の方も「Amazonでいいわ」となる。僕らはそこをなんとかしなきゃいけない。店が広いだけじゃ駄目だし、揃っているだけではもう駄目なんですよね。

 よく池袋店に中学生が体験学習に来ていて、先生から言われているのか知らんけど必ず「どんな資格があればこの仕事が出来ますか?」と訊かれるんです。僕の答えははっきりしていて、「なんの資格もいらない」「必要なのは好奇心だ」と。「好奇心があればこんなに面白い仕事はないし、なかったらこんなにキツイ仕事はない。お客さんからなにを訊かれるかわからないし、毎年七万点もの本が出ているわけだし」「知らないことを訊かれたときに『学者でもないのに、なんでそんなことまで知っておかないかんの』と思うか、『あ!これでまた新しいことを少しでもかじれる』と喜ぶか。後者だったら面白いし、前者だったらものすごくキツイ仕事だよ」と言います。

 これからもこの商売をつづけるには、いろんなことを面白がれる人を雇うしかないと思う。

 僕は本屋を「劇場」だと言っているんです。それは著者のトークショーや非日常のイベントがあるということではなくて、お店に来ているお客さんたちが主役の劇場なんですよ。たとえば今の時期やったら、赤本を買ってゆく若い人は当然今年中に受験する。だからセンター試験の次の日にワッと来るわけやし、人生のある岐路に立っている彼らの姿は、僕にはすごくドラマチックに感じられる。そっちの方がよっぽど面白いんですね。赤ちゃんの名付け辞典を買う人は、自分か近い人に子どもができたに決まっている。お葬式の本を買う人はどなたかを亡くされたんでしょう。読者は絶対に何かを背負って書店に来ている。

 具体的にどうしろというのはないんですが、なんらかの転機を求めて来るそれぞれの気持ちに共振出来る場であれば、と思います。それに応えるのは品揃えや棚並びもあるだろうけど、少なくとも僕らがその場にいる≠アとで応えてゆけるんじゃないか。ネットにいなくて書店にいるのは、本じゃなくてスタッフですから。

 なにかを共有しながら、販売が出来たらいいなと思うんです。人生の象徴的な場面に介在しているのなら、僕らがやらなきゃならないのはおそらく「聞く」ことでしょう。どんなかかわりにせよ、通常業務の中ではイレギュラーな形になりますからルーティンで仕事をしたがる人たちは嫌がります。でも人が本を求めて、しかもそれを買いに本屋まで来てくれることが稀有になってきているのだから、やっぱりそこに応えないと。そこで迷惑がっていたら、どうしたってジリ貧かなぁという気はするんです。

 ここまで言うとみんな反発するんだけど、機械みたいな働き方しか出来ない人にはこの仕事は向いていないと思う。アルバイトの人にも「あなたがレジの向こう側にいるときにどうしてもらったら嬉しいか、ということだけを考えていればまず間違いない」と言うんです。たとえば雨の日に何冊も買ってゆく方がいたら「明日着で良ければお送り出来ますよ」と、どんどん提案してみるといい。「車だから大丈夫」とか「すぐ必要なので持って帰ります」という返事があるかもしれんけど、悪い気持ちはせんでしょう。こっちもなんの損もない。むしろ回り回って、何か返ってくるんじゃないかな。

 「その人のためになんとかしよう」というところが伝わってゆけばお客さんになってくれますから。そんなの昔の商売ではあたり前のことだったのにね。システム化されてゆく中でどんどんなくなってゆくというか。古い言い方かもしれないけど、やっぱり「気持ち」だと思う。

柳々堂

大阪市西区京町堀1丁目12─3
営業時間:平日8時30分〜19時 土曜8時30分〜15時
定休日:日曜・祝日

建築専門書店。主要建築誌のバックナンバーは3年分常備。建築・デザインに限らず、関連する一般書籍も丁寧に選び在庫。内容をよく把握していて、目的を伝えるといろいろな本を棚から選んでくれる。建築設計会社を中心に大阪のさまざまな事務所・店舗へ、毎日、本や雑誌を配達している。

スタンダードブックストア・心斎橋店

大阪市中央区西心斎橋2丁目2─12 1F・BF
営業時間:11時〜22時半
定休日:なし

心斎橋アメリカ村にある書店。本だけでなく雑貨や文具・衣類も豊富に並ぶ。カフェには購入前の本を持ち込んで読むことが出来、席数は96席と極端に大きい。ウェブサイトには「本屋ですがベストセラーはおいてません」のタイトルコピー。梅田・茶屋町に姉妹店がある。

ジュンク堂書店・難波店

大阪市浪速区湊町1丁目2─3マルイト難波ビル3F
営業時間:10時〜21時
定休日:第3水曜日(月によって無し)

神戸に本社を置く大手書店チェーン。大半の店舗が大型書店の基準といわれる500坪を超える、1,000坪以上の面積を持つ。広い空間を活かした満遍ない品揃えが特徴。購書のために椅子や机を配置する店舗も。他の書店に与えた影響が大きい。難波店のオープンは2009年

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