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みどるな書店経営 大阪の三軒の本屋さんを訪ねて 文:西村 佳哲

スタンダードブックストアの中川和彦さん
「街にないと困る場所を提供したい」

スタンダードブックストア
スタンダードブックストア
若いお客さんから「自分たちの好みの本がある」と言われます。もっと大きな店にもあるはずだけど、たぶん彼らはそこでは見つけられないんですね。ピンポイントで探すのではなくて、フラッと来て「なんかないかな…」というときに見つけてゆくんだと思います。(中川)

 スタンダードブックストアは西心斎橋、御堂筋の大通りから少し入ったビルの2フロアーを使った、やや大きめの本屋さん。アメリカ村という場所柄もあって若いお客さんが多い。中川和彦さんが、弟さんと二人で6年前に始めたお店だ。

中川 うちは本と雑貨を一緒に並べている。広いカフェがあってご購入前の本も持ち込んでいただける。そんな店です。自分たちが「いいな」「売りたい」と思ったものを置くのが基本で、ベストセラーだからという理由では仕入れない。余所の店ではあまり目立たなくても、うちに置かれていたら買ってくださる方がいるん違うかな?というものを扱っている感じです。つくっている人の意思が感じられるものが好きですね。

 最初、僕らはあるデパートのテナントとして親父が始めた本屋さんをやっていました。本は利幅が少ないです。お客さんはすごく来るし月に1億円くらい売り上げていたけど、百貨店的にはあまり重視されない感じがあって、次第に売り場も奥に移され、面積も縮んで。

 でもそこで「書籍売り場動かすなや!」とか反対運動もなにもなくてね。ちょっと「なんやろな?」と思ったんです。「自分たちがやっていたことは、大して支持されていないのかな?」と。

 毎日とんでもない量の荷物を開けて、朝2時間で品出しして。手間はかかるしすごい体力勝負です。十数年前にPOSレジが入って「データを見ればアルバイトでも大丈夫です」と言われたけど、そんなんあり得ない。アホでは本屋は出来ません。ちゃんとした人間雇って経営しようと思ったら、たぶんもうこの商売は無理だと思う。ほとんどの本屋がそう考えていると思いますよ。

 だから粗利を変えてゆかないと。僕らが雑貨を扱ったりカフェを付けているのは、「本だけの勝負はもう出来ないし、耐えられない」という意思表示ですよね。

 で、「もっと支持されることをしたい」と思った。日本の本屋はどこも同じような感じで、スチールの什器があって蛍光灯でブワーッと明るくて。「本が好きだけど本屋は好きじゃない」というヤツはようけおるんちゃうかなと思っていました。もっと違う居心地のある空間をつくれたらなと。本はこれからも扱うと思うけど、別に本屋じゃなくてもいい気もする。

─カフェが広いですよね。

中川 大きすぎますよね(笑)。オープン前に図面を広げて打合せしていたとき、取引先の担当者が「こんなもんちゃいます?」って柱と柱の間に鉛筆で一本の線を引いて。ようわからんまま出来てしまったけど、この広さがあって出来ていることがいろいろあります。

 ここには、購入前の本も持ち込んでもらっていいんです。「読んでしまったら誰も買わないやん!」と散々言われたけど、そういう人はカフェで読めなくたって買いませんよ。最初から買う気ないのだから。人によっては、手元に置いて何度も読み返したい本もあるだろうし、高い本やったらじっくり検討したいやろなと。実際「全部読んだ」と言いながら買うてく人はいます。10冊くらい積んでガーッと読んで、そのうち3冊くらい買うてくれたりね。

 そういう空間は、街に必要やと思うんです。

─どういう空間が?

中川 そうですね。なんの用もないのにフラッと行ける空間が。それには本屋さんは最適やなと思う。だってなにも買わなくてもずっとおれるでしょ?「いらっしゃいませ」とか「この本はいかがですか?」と声をかけられることもなく、なにも買わずに出てゆくときにもまったく罪の意識ないですよね。だからこそ不特定多数の人が来てくれて、他に比べたら買上率は低いかもしれないけど母数でカバー出来るというビジネスモデルだと思うんです。

 会社に行ったり、学校に行ったり、どこかへ遊びに行った帰りにも立ち寄ってなんかホッと出来るところ。解放される、とまで言うと大層か。でも、人が自分自身を取り戻せるような場所を街に提供してみたくて、この店をやっている気がする。

 ある写真家のひとは、海外の街に着いたらまず本屋かカフェに行くと言ってました。その街の人々の様子や雰囲気がなんとなくわかるんだと。本屋さんがそういう場所の一つだとしたら、街からなくなってしまったら困りますよね。

─ある種のパブリック・スペースとして書店を捉えているんですね。

中川 もちろん商売として成立しないと、それも出来なくなるんですけど。万が一なにかの事情で僕らがいなくなってしまうようなことがあっても、理想ですけど、ここに来てくれていた人たちが「なくなると困る」「どうにか存続させたい」と思ってくれる。街にとってそういうものをやらなあかんのかなって、よう思うんです。