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みどるな書店経営 大阪の三軒の本屋さんを訪ねて 文:西村 佳哲

本人が「する」のではなく、ほかの人がすることを「可能にする」仕事において、大事なことはなんだろう?
たとえば人がなにかを探しに来る場所の一つに"書店"があるが、その現場ではいま、どんなことが考えられているのか?

いま本屋さんは

柳々堂
スタンダードブックストア
ジュンク堂書店・難波店

 最近は、本の話が交わされるとすぐ電子書籍の話題に至り、「これから出版業はどうなるのか?」と不安げな言葉が語られることも多いが、隣接しつつ少し異なる位相にあるのが「これからの書店業」をめぐる話だろう。

 アメリカで二番目に大きな書店チェーンだったボーダーズは2011年に倒産。最大手のバーンズ・アンド・ ノーブルも、今後10年内に約1/3の店舗を閉じる方針を発表した。

 日本でも書店業は決して「いけている」商売ではない。「本屋を始めてみたい」と語る若者に、「悪いことは言わないから考え直した方がいい」と真剣に説得する大人を何度か見かけてきた。経済成長期に問題なく営まれていた商売の数々が次第にあたり前には成り立たなくなり、近年いよいよ厳しさを増しているのだとして、ここで大事なのはこれから始める若者たちの商いが、これまでのそれと同じとは限らないことだと思う。むしろ違う可能性の方が高いし、古い物差しを次の世代に押しつけたところで変革期の社会は先に進まない。書店業についても然り。ではいまその現場には、どんな模索や喜びがあるのか?

 書店には、なんらかの課題や期待をたずさえた人々が来る。まだ意識化されていない潜在的な欲求も含めて。そして、本や雑誌の形をした手がかりを見つけてゆく。 

 この視点で見ると、書店に限らずあらゆる仕事がなんらかの中間支援(みどるな仕事)を行っていることになるのだけど実際そうだろう。たとえば書店で言えば、本を並べているようで、実はそれらを介して別のものを売っているのだと思う。それはなんだろう? といった関心を抱いて、三軒の書店を訪ねてみた。取材地に大阪を選んだ理由は、業態や規模のちがう面白い本屋さんの姿が、たまたま見えていたからだ。

柳々堂の松村智子さん
「人を好きで、面白がれることが大事ですよね」

柳々堂
柳々堂
本は一般書からも選んで入れています。建築の本が目当てで来てくださった方も、意外に旅行書とかほかのジャンルに目に留まるものがあったりするんですよ。(松村)

 柳々堂は靭公園の北側、京町堀の一角にある。一見ごく普通の街中の本屋さんだが、約10坪の小さな店内には1.5万冊に及ぶ建築関連の本が並ぶその筋では有名な専門店。開店は8時半だが、店主の松村智子さんは朝6時前にはお店に来ているという。

 松村 うちは配達がメインの本屋で、定期購読をしていただいているお客さまに毎日、本や雑誌を届けています。梱包をほどいて検品して納品書を付けて。10時頃までに最初の配達へ。運搬用の自転車は3台あって、あとカブ(50cc)が1台とわたし用のママチャリが1台。お昼頃までにみんな一度戻って来て。午後に二度目の配達に出て、夕方までに戻ってくる。

 配達の相手先は建築設計事務所さんが中心です。大手ゼネコンの設計部から個人のアトリエまでいろいろ。小さなデザイン事務所さんにも行くし、服装屋さん、カフェ、レストラン、ヘアサロン。ご近所のありとあらゆるところにお届けしています。週刊誌を毎週一冊ずつとってくれている人もいるし、本当にさまざまですよね。

 新規の配達先にどう出会ってゆくかというと、たとえば自転車で走っていて工事中のお店があったら「オーナーさんですか?」と話しかけてみる。「近くの本屋ですけど、なんのお店が出来るんですか?」というところから始めて、「うち配達もしているし、お店にも本を置いてますから良かったら見に来てください」と声をかけておいて。開店したらいろんな本を持っていったり、口コミでご紹介いただくこともある。登録先はたぶん4,000件くらいあって、実際に動いているのはその半分から3,000くらい。新大阪や通天閣のすぐ近くまで配達しています。

─小さな事務所やお店なら「まいど」と入ってゆきやすいだろうけど、企業のオフィスにも同じように入ってゆくんですか?

松村 昔は一人ひとりのお座席までお持ちしていたんですけど、最近はどこもセキュリティが厳しくて。受付まで出て来ていただいている配達先もあります。でもある設計事務所さんではスタッフの方々が、「柳々堂を中に入れへんかったら不便でしゃあない。あそこだけはパスにしたれ!」と声を上げてくださって、昔どおりお席までうかがえるようになって。それは嬉しかったですね。

─配達は便利だろうけど、このお店も素敵ですね。

松村 棚づくり、楽しんでます。たとえばお友達になった陶芸家さんのご本と並べてちょっと作品も置いてみたり。お客さんに「これなあに?」と聞いてもらえると、そこからまた会話が生まれるし作家さんも紹介できる。本を売るだけじゃなくて、いろんな情報を発信できたら面白い。人と人が顔を合わせて喋ったりアピールするというのは、本当にすごい力がありますよね。

 いい本が入って、「お席まで行けたらあの人にこれを薦められたのに!」と思うこともあるけれど、そんなときはTwitterやメールのような飛び道具も使う。でも本当は何気なくご注文の本と一緒に持っていって、「これ欲しかってーん!」とか「うわ。いいやーん!」と言われたい。そういうのは、もうめっちゃ嬉しいんですよね。

 見計らいって言うんですけど、気に入っていただけそうなものを何冊かお持ちして、少しお預けすることもあります。たとえば「バリ島の雰囲気の玄関をつくるんだけど、なんかない?」とご相談いただいて、関連しそうな本を見繕ってお持ちする。うちは在庫が多いわけではないので苦心して持ってゆくんですが。

─図書館の司書さんのよう。

松村 「建築の本のコンシェルジェ」と言ってくださる人もいるんですけど。聞き込んでゆくと「じゃあこういうのはどうですか?」とアドバイス差し上げられることが多々あるので、会話は出来るだけ交わしたい。

 うちが売っているモノは本です。けど、「ちょっと眠たなったから来たわ」と仕事中に来る人もいる。他にお客さんがいなかったらお茶出してあげたりします。自分が大切にしたいのは本をお届けすることもそうだけど、やっぱり、あと人間関係ですよね。そこが良くなかったら柳々堂は成り立ってゆかないわけだし。駅の売店でも買えるようなものをわざわざうちに買いに来てくださる方がいるというのは、本当に有り難いことだと思う。

 でもたとえ買ってもらえなくても、お会い出来てなにか「面白い!」と思ってくれはったら、この本屋はOKなんですよ。それがいいんじゃないですか(笑)。いまこの仕事は決して儲かるものではないし、経済的なところでは絶対に良くはない。だからこそ、お客さんも私たちも互いに面白がるというのが、いまの本屋さんのあり方なんじゃないかなと思います。

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