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数理的発想法2 コミュニティが〈アーカイブ〉をアップデートする 渡邉英徳 文・仲俣暁生

アーカイブから、「多元的デジタル・アーカイブズ」へ

レコード・コンティニュアム(記録連続体)モデル
レコード・コンティニュアム(記録連続体)モデル
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 〈アーカイブ〉という概念をアップデートする上で鍵をにぎるのが、「多元的なデジタル・アーカイブズ」という考え方だ。その成立条件として、以下の3つが挙げられると渡邉さんはいう。

① デジタル・アーカイブ群の統合
② 1を包含するコミュニティの形成
③ 1と2を統合するユーザーインターフェイス

 この考え方にたどり着くヒントは、オーストラリアの2人の学者、フランク・アップワードとスー・マケミッシュが1996年に提唱した「レコード・コンティニュアム(記録連続体)モデル」から得たという。渡邉さんは「ナガサキ・アーカイブ」の参加メンバーと共同で、「事象の多面的・総合的な理解を促す多元的デジタルアーカイブズ」(日本バーチャルリアリティ学会誌Vol.16,No.2, 2011)という学会論文を書いており、この図はそこでも引用されている。

 図のいちばん下(次元4)にある「アーカイブズ」とは、次元3にある複数の「アーカイブ」を横断し、個々のアーカイブの証拠付けをしたり、それらに興味をもつ人々のコミュニティのことだ。東日本大震災アーカイブなどで、渡邉さんがコミュニティとの連携を強く意識したのは、そうした実践を通して〈アーカイブ〉という概念を「アップデート」するためだったといえるだろう。

 「これまでのデジタル・アーカイブは、個人の記録がユニットになって組織になるという、次元3のところでとどまっていた。コミュニティとかかわることで、多元的デジタルアーカイブズは次元4、つまり、より普遍的なものになれる。デジタルアーカイブがもつ社会的な価値も、そのことでかわっていくはずです」

 「多元的デジタル・アーカイブズ」のためのプラットフォームとして、渡邉さんはGoogle Earthが現時点では最適だと考える。

 「Google Earthは現状のところ手に入る、もっとも質のいい仮想空間なんですよ。そこで何かコンテンツをつくっているというより、もう一つの地球の上で空間を設計している。ようするに、地球あそび、なんです(笑)」

 私たちの生活のなかにいつの間にか定着したグーグルの技術は、便利であると同時に、あまりにも巨大で手の届かないところにあるように感じる。

渡邉英徳さん

 最後に、渡邉さんにとってそんなグーグルとは、どういう存在なのかをたずねてみた。

 

 「う〜ん、親切な人たちだな、と思います(笑)。仮想地球を無償で公開してくれて、こちらはそれをありがたく使わせていただいている。僕のやってることとグーグルとが似ているとしたら、資料を全部、他人が集めてくるというところ。ただし、グーグルのデジタル・アーカイブは、人々からコンテンツを投稿してもらうだけなのに対して、僕らは地元の高校生たちとコミュニティを作りながら、アーカイブづくりを進めていった。

 被災地に地道に足を運び、どういうアーカイブにしましょう、という話を対面でやらないと、データベースだけつくっても力がない。結局、いいものにならないんです。もしグーグルがいま悩んでいることがあるとしたら、案外、ネット上のユーザー以外、誰も自分たちのことを相手にしていない、ということかもしれません」

 ご自身の肩書きをあえて名づけるとしたら、という問いに、一瞬ためらったのちに渡邉さんは「情報アーキテクト」と答えてくれた。ITを手法としながらも、彼の仕事は技術にすべてを委ねるのではなく、「手作業」の余韻を残している。前回に取材した江渡浩一郎さんと同様、渡邉さんにもアーティストとしての一面がある。技術と人とを結びつけるためには、もしかすると個人技としての、「アート」の力が必要なのかもしれない。

渡邉英徳 Watanabe Hidenori

情報アーキテクト/首都大学東京准教授

1974年大分県生まれ。1996年東京理科大学理工学部建築学科卒業( 卒業設計賞受賞)、1998年同大学院修了。2000年より早川書房『S-Fマガジン』の装画+イラストを担当する。また、2001年にゲーム制作会社フォトン設立。インターネット上の音楽コミュニティゲーム「リズムフォレスト」(2003年)の制作のほか、インターネットを介してロボットが人間の動きを再現するコミュニケーションシステム「NEtROBOtProject」(2004年)、桜の写真を世界中からGoogle Maps 上に投稿してもらう「桜前線さくらマッピング」(2006年)、3D仮想空間での建築プロジェクト「Archidemo」(2007年)などを手がけている。2005年よりデジタルハリウッド大学客員教授。2008年より首都大学東京システムデザイン学部准教授。2010年より同大学院システムデザイン研究科准教授。情報デザイン、ネットワークデザイン、Webアートを研究。最近の主な活動に、「ヒロシマ・アーカイブ」「東日本大震災アーカイブ」(2011年)、「ナガサキ・アーカイブ」(2010年)、「ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト」(2009年)など。沖縄県「沖縄平和学習アーカイブ」(2012年)では総合監修を担当。

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