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「メディア・アーティスト」でありたい

RemotePiano
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このパフォーマンスでは、各クライアントからJavaアプレット経由で会場へ音のパターンを送り、会場のピアノにMIDI経由でその音を送るという方法により、多数のクライアントから一台のピアノを演奏するシステムを制作した。このシステムを用い、コンサート中のパフォーマンスとして、ステージ上にいる坂本龍一氏と、インターネット・ライブ中継を見ている多数の視聴者とが共演するという実験を行った(江渡さんのサイトの作品解説より)

 堅いイメージのある独立行政法人の正規の研究員でありながら、その活動のかたわらで「ニコニコ学会β」なる学会の設立を思いつき、実現してしまう。同時に江渡さんは、世界的に評価される「メディア・アーティスト」でもある。産総研の研究員になったいまも、自分は「メディア・アーティスト」であるという意識が強いという。

 そもそも「メディア・アート」「メディア・アーティスト」とは何かをたずねてみた。

 「メディア・アートはようするに「メディアに関するアート」。そのときにつかわれる「メディア」という言葉の意味は、ごく普通にいうと「媒体」ということです。大理石とかピアノとかキャンバスも「メディア」であることには変わりがない。だから、コンピュータをつかってアートをつくる人とか、インタラクティブなアートをつくる人という理解は、僕の観点からすると誤解なんです。コンピュータをつかっていなくても、「メディアのあり方」について問うて、それを作品として昇華させていれば、その人は「メディア・アーティスト」といえる。たとえば郵便だけをつかってアートをつくった人もいる。僕のなかでは、そういう風に「メディアを問い続ける人」=「メディア・アーティスト」なんです」

 研究者であると同時に、「メディア・アーティスト」でもある江渡さんの活動の全体像を理解するには、「ニコニコ学会β」以外の彼の仕事ぶりや、そこにいたる道程を知る必要がある。

 高校2年のときに出会った『EV.Café〜超進化論』という本に、江渡さんは大きな影響を受けたという。村上龍氏と坂本龍一氏がホスト役となり、著名な文化人たちと刺激的な鼎談を行なった本だ。

 「この本のおかげで、映画や現代美術に興味をもつようになったんです。「現代思想」という思想の潮流や、アヴァンギャルドというものの存在を知った。ようするに、世の中には幅広い考え方があると知ったんです。それまでは映画といっても『ドラえもん』とか『寅さん』を観ていたのに、ゴダールなども観るようになりました(笑)」

 この本との出会いは、江渡さんにとって運命的だった。というのも、江渡さんはのちに坂本龍一氏と実際にコラボレーションをすることになるからだ。また、この本に登場する批評家の柄谷行人氏にも大きな影響を与えた建築家クリストファー・アレグザンダーの思想は、のちに『パターン、Wiki、XP〜時を超えた創造の原則』(技術評論社)という江渡さんの著作の大きな柱となる。

 大学進学にあたり、新設された慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の第1期生をめざすが浪人を余儀なくされる。浪人中は現代アートの展覧会を観たりして過ごし、1991年にSFCの2期生として入学。この大学を選んだ理由は、大学の教授陣もさることながら、そのコンピュータ・ネットワーク環境が当時としては群を抜いていたからだという。

 江渡さんは1年のときに「任天堂・電通ゲームセミナー」に参加し、対戦型格闘ゲーム「ジョイメカファイト」の開発にサブプログラマとしてかかわる。のちに発売されたこのゲームは、江渡さんにとって初めて商品化された作品となった。「ニコニコ動画」の開発者である戀塚昭彦氏に強い関心を抱いたのも、彼自身がかつてゲーム・クリエイターだったことがあるからに違いない。 

 学部の3年に進学し、メディア・アーティストとして世界的に活躍していた藤幡正樹氏の研究室に入る。ゼミ生としての作品をつくりつつ、藤幡正樹名義で発表する作品の制作にもタッチしたという。その後は就職せずに大学院に進み、在学中の1995年にはウェブ上のメディア・アートの企画展、InterCommunication '95「on the Web」のディレクターを担当した。

 翌年、Sensoriumというプロジェクトに誘われる。このプロジェクトで江渡さんが制作した「WebHopper」は、ユーザーがアクセスしているウェブサーバーの地理的な位置を世界地図上にリアルタイムにマッピングして視覚化し、「インターネットが世界中につながっている」という事実を可視化した作品である。この作品を含むSensoriumは1997年のアルス・エレクトロニカでグランプリを受賞した。また、江渡さんが坂本龍一氏と岩井俊雄氏による音楽とメディア・アートのパフォーマンス「Music Plays Images×Images Play Music」にメンバーとして参加したのもこの時期のことだった。きわめて若い時期から、江渡さんは「メディア・アーティスト」としての才能を認められていた。