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クラウドコンピューティングが普及する現代、企業のITシステムはこれまでとは異なる課題に直面している。仮想環境と物理環境の混在、それにともなうマルチプラットフォームの増加など、運用管理業務の複雑化だ。しかし、障害対応は手作業に頼らざるを得ず、また作業のクオリティや効率も、対応者によってバラつきが生まれてしまうなど、管理面での負荷増が顕在化している。このような状況でIT部門がめざすべき運用管理効率化の姿とは何か。アイ・ティー・アールのシニア・アナリスト金谷敏尊氏が解説する。

運用管理への取り組みが二極化

金谷敏尊 氏の写真
株式会社アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
金谷敏尊 氏

 日本の企業が厳しい経営環境下にあることは多くの人が認識していると思います。そのような状況において、企業では高いIT効果を創出するため、IT運用管理の効率化と低コスト化へ向けて、さまざまな取り組みを行っています。

 しかし、企業全般を見渡したとき、ITの運用管理は成熟の過程にあると同時に、二極化している現状があります。運用管理効率化を実施し、効果が上がっている約3割の企業では、実績ある運用管理ツールを導入したり、ITILなどを活用したオペレーションプロセスの整備・標準化を図ったりなど、高い成熟度の追求とレベルの維持に力を注いでいます。

 一方、それ以外の多くの企業は、運用管理の効率性や生産性を高めたいとは望みつつ、日々のシステム障害やバックログへの対応に追われ、改善の機会を見つけるのが難しくなっています。また、経営層や事業部門からのリクエストにも十分に対応できず、板挟みの状況に置かれている企業も少なくないでしょう。

 このように運用管理の二極化が進む中、これからのIT部門には未成熟なシステム運用管理業務から脱却し、確固たる運用設計を確立することと、オペレーションだけにとどまらない、経営に寄与する「ITマネジメント」という視点からのサービス管理体制の強化が求められています。では、どのように改善を進めていけばよいか、具体的に考えてみましょう。

IT環境の棚卸しとツールによる自動化が基本要件に

 現在のIT環境は、仮想化技術の導入によるマルチプラットフォーム化やマルチベンダー化でシステム内容が一段と高度化・複雑化しています。これにともない、各サーバやソフトウェアの運用管理ツールも複数が立ち並び、管理負荷とコストを増大させる要因になっています。

 IT運用管理の改善をめざす多くの企業に勧めたいのは、まず自社が保有するIT環境を棚卸しし、管理対象を可視化できるIT資産管理ツール、物理/仮想環境をシームレスに監視できる統合管理ツールを導入することです。これらを基盤に、障害検知やジョブ運用のモニタリングと自動化などを定常的に行っていく環境を整備することが、今後の改善指標を明確化し、コスト低減も図る上での最低限の要件となります。

 運用管理の効率化や自動化に向けた環境拡充を図っていくには、費用対効果について経営層の納得が得られるかどうかも重要な課題です。最も効果が出やすいのは、ビジネスに悪影響を与える頻発性の高いインシデント、例えばシステムダウンや情報漏えいの恐れがある問題への根本的な対応策を、手作業から自動化へ移行することです。ビジネスへのインパクトや緊急度の高いものから、ITILでいう「既知のエラー」として識別し、FAQやサービスデスクに展開することで、経営層や業務部門にも、その導入メリットを広く理解してもらうことが可能となるからです。

属人的業務化から脱却し手順化・定型化・自動化へと移行

 もちろん、現状の技術では、運用業務のすべてを自動化できるわけではありません。東日本大震災以降、課題として浮上しているディザスタリカバリを例に考えてみましょう。

 仮想リソースプールから仮想マシン(VM)を遠隔地の環境に移動させる場合、インフラとしてのVM 移設そのものは簡単です。しかし、上位アプリケーションやサーバ構成もインテリジェントに解析し、不整合が起きないように自動移設するのは簡単ではありません。このようなケースではどうしても人による判断と作業が発生します。

 この場合に注意すべきことは、作業手順や判断から、できるだけ属人性を排除することです。担当者のスキルの高低により、対応の遅れやトラブルにつながる可能性もあるだけに、基本的な作業手順や判断はIT部門全体でルール化、共有化していく必要があります。これは人にしかできない対応に限らず、業務全体の高度化を図る上でも欠かせないステージと言えます。

 運用業務を属人的な状況から脱却させるには、「手順化」「定型化」「自動化」という段階を経て進化する必要があると私は考えています(図1)。手順化とは、業務の手続きやルールをガイドラインもしくは規定として定めることを指します。また、定型化とは、ITマネジメントに求められる具体的な分類・体系化のためのフレームワークや管理様式(テンプレート)を標準化し、情報の一元化と共有を促進することを言います。ここまでの段階で、ある程度高い汎用性を持つオペレーションが実現できれば、その実行をツールやシステムに委ねる「自動化」へとスムーズに移行できるでしょう。

 そのためにもIT部門には、ITILなどを参照したユーザー視点でのサービス定義や運用業務の標準化に向けた継続的な努力が求められます。自社内だけでの改善は困難だと思うなら、運用管理業務を熟知した外部ベンダーや専用ツールの力を借りるのも方法の一つです。

図1 企業のITシステムにおける属人化から自動化へのステップ

さらなる付加価値を提供するITマネジメントを指向

 ITオペレーションの効率化や自動化で一定の適用効果を生み出した後は、経営層やユーザー層にさらなる付加価値を提供するためIT マネジメントめざしていくことになります(図2)。成熟度の高い運用管理を実現しているIT部門では、ここでもITサービスの最適管理をビジネス視点から行うため、CMDB(構成管理DB)やBSM(BusinessService Management)といったツールとテンプレートを活用しながら、ITの経営価値を向上させるための取り組みを進めています。このフェーズに達するためには、まず定常業務の自動化を進め、経営への寄与といったIT部門が本来担うべき業務に専念できる環境を作ることが必要になります。

 また昨今では、クラウドサービスへの対応についても、IT部門のスタンスに大きな変化が起きています。例えば、企業内でプライベートクラウドを運営する際には、サービスレベルや課金体系を整備し、ユーザーにサービスカタログを提供するといった社内サービスプロバイダーとしての役割を受け持つ流れが本格化しています。欧米企業のIT部門は、すでにこうした流れを先取りしていますが、今後は日本でも圧倒的なコストメリットや利便性を持つパブリッククラウドのサービスと拮抗できるかどうかがIT部門に課せられた新たな課題となっていくでしょう。

図2 ITオペレーションとITマネジメントの関係