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経済産業省 情報処理振興課 課長補佐 石川 浩 氏 Hiroshi Ishikawa

今や企業のビジネスは、ITを抜きにしては成り立たたない。これほどまでに重要性が高まったITだが、戦略をきちんと設定し、効果やリスクを評価しながら運用するITガバナンスの実践は、まだ十分とは言い難い。これからの企業に求められるITガバナンスへの取り組みについて、経済産業省 情報処理振興課 課長補佐 石川 浩 氏にインタビューした。

ITILは情報システムの信頼性向上に有効

石川 浩 氏の写真
石川 浩 氏
Hiroshi Ishikawa
経済産業省
情報処理振興課
課長補佐

「経済産業省がITガバナンスに関して、本格的に力を入れて取り組み始めたのは、2005年秋のことです。東京証券取引所で何回かのシステム障害事故が発生し、これが社会的な問題として取り上げられたことが契機でした」(石川氏)

2006年1月、当時の二階俊博経済産業大臣から「情報システムの信頼性向上のための政策をまとめるべし」という指示があったという。経済産業省では、それに基づきSIやソフトウェアについての政策課題を検討するために有識者を集めた産業構造審議会情報サービスソフトウェア小委員会に対して、緊急に情報システムの信頼性向上のための政策取りまとめを依頼した。そして、2006年前半にまとめられたのが、「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」だ。

情報システムの信頼性を向上させるには、さまざまなレベルの対策があり得るが、ガイドラインでは特に、経営レベルで認識すべき事項に着目していると石川氏は語る。そしてもう1つ、力を入れて取り組んだのが、保守・運用段階におけるリスクマネジメントの重要性だった。

「ガイドラインをまとめるに当たっては、多くのベンダーやユーザー企業にインタビューを実施し、信頼性についてどういう問題が起きているのかをアンケートやヒアリングによって抽出しました。その結果、情報システムの信頼性に直接かかってくるのは、システムの運用段階であることが分かりました」

その結果をもとに、ガイドラインでは経営層の責務として、保守・運用の重要性の認識、ライフサイクルによってリスクマネジメントを行わなければならないといった部分が明記されている。さらに、未然防止と事後対策の両方に取り組むことも書かれている。

ただし、ガイドラインは包括的なものであり、具体的にどのような方法で実施するかという詳細な手順については書かれていない。その代わりに、参考にすべき基準の1つとしてガイドラインに明記されているのが、ITILなのだ。

「経済産業省では、情報システムの信頼性向上という社会的な課題を解決するためにITガバナンスを強化しなければならず、そのツールの1つとしてITILが非常に有効だと考えています」(石川氏)

確実に高まりつつあるITILへの関心

先に述べた産業構造審議会では、情報システムの信頼性向上だけでなく、日本全体でITをどのように活用していくか、ソフトウェアあるいは情報サービス産業をより良くするための課題もまとめている。それが2006年9月に公表した、通称「情報サービス・ソフトウェア産業維新」だ。

「実はこの中でも、ITIL、およびITILを基にしたISO/IEC20000を活用しながら、ITガバナンスの強化、あるいはITの“見える化”を進めていくことが示されています。ISO/IEC20000については、2007年4月からITサービスマネージメントシステムという形で、JPDEC(日本情報処理開発協会)が適合性の評価を開始しています。このように、情報サービス産業の競争力強化、業界の課題解決のためにも、ITILが非常に有効であると考えています」(石川氏)

経済産業省ではこうした取り組みを日々行っているが、実際、ITILはどれだけ利用されているのだろうか。その動向について、経済産業省では日本情報システムユーザー協会へ委託し、ユーザー企業の調査を実施している(図)。

図■ITILの導入状況

2007年に行ったITILの導入状況の調査によると、一部のプロセスを導入した企業は5%程度。まだまだこれからという水準だが、2006年の調査と比較してみると3%から5%へと上昇している。また、全面的に導入している企業は少なく約1%というレベルだが、これも伸長の傾向にある。

「ちなみに、業種別では、信頼性に直接関係してくる金融やインフラ系の業界で活用が進んでいます。ITILに対する関心は確実に高まってきております」(石川氏)

日本はITILの導入が遅れていると言われているが、その理由はITILそのものを直接、日本の企業が導入することが難しいからだと石川氏は分析する。日本企業には独自のITがあるので、ITILの中身を咀嚼する必要があるという点で、導入に時間がかかっていると推測される。

それに加え、情報システムの運用の重要性が、特に経営層に認識されていないこともITILの導入が遅れている理由でもある。

「残念ながら、情報システムの運用が業務の継続性に密接に関わっていることを認識している経営層はまだまだ少ないのが実状です。そのために、経済産業省ではガイドライン策定を中心とした活動によって経営層に訴えかけています。さらに、ITの重要性を経営層に認識してもらうために「IT経営協議会」を立ち上げる予定です。これは、2008年7月の発足を検討しているもので、企業の経営層を集めてITをいかに経営の中で使っていくかを検討し、情報発信していくものです」(石川氏)

ITILの理解とITガバナンスの実現を促進

また、経済産業省ではユーザー/ベンダー間のモデル取引・契約書の作成に、2年間ほど取り組んでいる。その中でも運用についてのモデル取引・契約書をまとめる活動を進めてきた。しかし、運用は開発などに比べて千差万別であり、したがって決まった標準的なプロセスは実は存在しない。そのために、網羅的なモデル取引・契約書を作成することは難しい状況だ。

「ユーザーごとに異なる運用は、ユーザーがITILをどう使うかという点と密接に関わっています。運用に関しては、何か決まった標準的なプロセスがあってそれを守っていけば大丈夫ということではありません。ITILは、ベストプラクティスがあり、それに対する考え方を理解するためのものです。その考え方をもとに、専門家と相談しながら自社に最適な運用体制を構築していくことが大切なのです」(石川氏)

グローバルスタンダードであるITILを理解し、日本のビジネス慣行に適合する形で、より多くのユーザー企業がITガバナンスの実現に取り組むことが求められている。

石川氏の所属は2008年6月当時のもの。