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2010年12月24日
株式会社日立製作所
日立ヨーロッパ社

半導体材料に注入した電子のスピン流の制御・観測に成功

電流と同様にスピン流を制御するスピントロニクスに道を拓く

  株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明)の欧州における研究開発拠点である日立ヨーロッパ社日立ケンブリッジ研究所(以下、日立)をはじめとする国際研究チーム*1は、ガリウムヒ素系の半導体材料を用いて、電子がもつ磁石の性質であるスピンの流れ(スピン流)を電流と同様に制御・観測することに成功しました。本技術は、20世紀の産業を発展させた電子の電荷の流れ(電流)を利用するエレクトロニクス技術に対して、電子が持つもう一つの性質であるスピンを利用するスピントロニクス*2技術に道を拓く成果です。将来の社会インフラにおける大幅な省電力化・高機能化や量子コンピュータをはじめとする科学の新たな発展に貢献することが期待されます。
  本成果は、2010年12月24日発行の米国Science誌に掲載される予定です。

  1940年代にトランジスタが発明されて以来、エレクトロニクス産業の発展に貢献してきた電子デバイスは、電子の物理的性質である電荷の流れ(電流)を利用してきました。電子には、電荷とともに、スピンと呼ばれる磁石の性質があります。電子がもつスピンの性質を利用するスピントロニクスを用いることにより、電子デバイスの大幅な低電力化や、電気・磁気融合デバイスなど、従来の電子デバイスでは実現できなかった機能をもつデバイスの開発が期待できます。電子のスピン流を電気的に制御・観測する理論は、約20年前に提案されていますが、その実証には、スピン流の注入、制御、観測など、スピントロニクスに必須の基礎現象を作り出す必要があります。しかし、現在に至るまで、スピン流を電流と同様に人工的に制御・観測した事例はありませんでした。

  このような背景から、日立をはじめとする国際研究チームは、スピントロニクスの実用化に向けて、まず2005年に磁性材料を用いずにガリウムヒ素系半導体で、-269℃の極低温において上向き・下向きスピン*3の観測(スピンホール効果*4の観測)に成功しました。2009年には、同じくガリウムヒ素系半導体で、-53℃において数マイクロメートルの距離を移動するスピン流を観測(スピンインジェクションホール効果*5を観測)しています。そして今回、ガリウムヒ素系半導体に注入したスピン流の上向き・下向きを電圧で制御できる素子を開発し、オン・オフ動作を観測することに成功しました。実験では、光の円偏光*6を利用して半導体にスピンを注入していますが、今後、強磁性体材料においてスピンを注入する技術が開発できれば、1990年にSupriyo DattaとBiswajit A.Dasが理論予測したスピントロニクスデバイスが実現できます。また、光の偏光を制御・観測できる固体デバイスを開発したことは、光の偏光角という情報を加えた大容量情報通信システムを実現する可能性や、生体・高分子材料の特性を光の偏光で分析する新たな検査システムなどの開発につながる成果です。

開発したスピン流制御素子の概要

  開発した素子は、pn接合*7を有する平面型フォトダイオードとホールバー*8を形成したn型チャネルから構成されています。ダイオードに光をあて、光起電力効果*9で生じる光励起電子により、スピンが素子に注入されます。入射する光はスピン偏極電子を生成するために円偏光を用います。注入されたスピンは、歳差運動をしながらスピン流となって移動します(スピンインジェクションホール効果)。この時にn型チャネルの上にp型の電極を形成し、電圧を加えると、相対論的量子論効果*10により、ゲート電極におけるスピンの歳差運動が制御されます。これにより、別のホールバーで検出されるスピンの向き、すなわち電圧が制御されることになります。

用語

*1
国際研究チーム : 日立ヨーロッパ社ケンブリッジ研究所、チェコ科学アカデミー、チャールズ大学(‘独)、ケンブリッジ大学(英)、ノッティンガム大学(英)、テキサスA&M大学(米)
*2
スピントロニクス : 電子がもつ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)の双方を利用する技術分野
*3
上向き・下向きスピン : 電子は電荷の自由度のほかに、磁石の性質を有するスピンという自由度を有する。スピンには上向き、下向きの二つの値がある。
*4
スピンホール効果 : スピン軌道相互作用を有する物質中に電流を流したとき、電流路の両端に上向きスピンを有する電子と、下向きスピンを有する電子が分離して蓄積する現象。2004年に日立ケンブリッジを中心とした研究チームと、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のチームが独立に、世界で始めて観測した。
*5
スピンインジェクションホール効果 : 右左の円偏光を用いて半導体中に励起した上向き/下向きスピンを、スピンホール効果で検出する方法。
*6
偏光 : 光は電磁場(電場や磁場の総称)を伝搬する波であるが、偏光している光とは、電場および磁場が特定の方向にしか振動していない光のことである。本実験では円偏光を用いている。ここで、円偏光とは、電磁波の振動が伝播に伴って円を描くもので、回転方向によって、右円偏光と左円偏光があり、偏光角度とは回転の角度である。
*7
pn接合 : 電流は電荷の移動によって生じるが、電荷を運ぶキャリアが正孔(ホール)である半導体をp型、自由電子である半導体をn型という。pn接合は半導体中でp型とn型が接している部分をいう。
*8
ホールバー : ホール効果(今回はスピンホール効果)を測定するためのデバイス
*9
光起電力効果 : 半導体のpn接合などに、光を入射すると光によって伝導電子が励起され、電流が流れる現象
*10
  相対論的量子効果 : ここではスピン・軌道相互作用のこと。相対論的量子効果を使うと、磁場が加わっていない状態でも、電場に対して垂直に動いている電子には、電場以外に磁場が混じっているように見える現象が導き出される。これにスピンが影響を受け、スピンの向きによって進行方向が曲げられる。これが、スピン軌道相互作用であり、今回のデバイスの鍵を担っている。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発本部 研究情報統括センタ [担当 : 内田]
〒100-8220 東京都千代田区丸の内一丁目6番1号
電話 03-4235-9515 (直通)

以上

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