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Hitachi

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2008年5月30日
株式会社日立製作所
国立大学法人東北大学電気通信研究所

スピン注入RAMの高集積化に向けたデバイス設計手法を開発

微細化の壁となる磁性体の熱ゆらぎの克服へ道を拓く

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)と、国立大学法人東北大学電気通信研究所(所長:矢野 雅文/以下、東北大)大野 英男教授は共同で、このたび、高速・低電力・高集積・不揮発など複数の特長を備えた次世代のメモリ「ユニバーサルメモリ」として期待される、スピン注入RAM(Spin Transfer Torque Random Access Memory/以下、SPRAM)の高集積化に向けた設計手法を開発しました。SPRAMは磁性体を用いて記憶と読み出しを行う(スピン注入磁化反転*1方式)原理のため、素子の微細化が進むと、HDD(ハードディスク装置)でも問題となっている「熱揺らぎ」現象が顕著となり、磁化反転が起きなくなることが懸念されていました。今回、日立と東北大では、熱揺らぎの発生に影響を与えるSPRAM特有の設計指標を見出し、これを用いて熱揺らぎを抑制するデバイス設計手法を考案しました。あわせて設計手法の効果を検証するために試作メモリ素子を作成し、基本動作の確認に成功しました。本成果は、次世代ユニバーサルメモリとして期待されるSPRAMのギガビットクラスの高集積化実現に向けて大きく前進させる技術です。なお、本研究は、文部科学省「高機能・超低消費電力スピンデバイス・ストレージ基盤技術の開発」プロジェクト(プロジェクトリーダ:大野 英男教授)にて、実施されたものです。

  近年、高速・低電力動作が可能で高集積性に優れて、かつ、不揮発という、従来の各種メモリの長所をあわせ持った次世代メモリ「ユニバーサルメモリ」の候補として、SPRAMが注目されています。SPRAMは、多層膜で構成されるトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Resistance/以下、TMR)素子*2に電流を流し、電子のスピンの作用によって強磁性膜を磁化反転させ、磁化の向きによる電気抵抗値の変化を利用して、データの記録と読み出しを行うメモリです。日立と東北大は、世界ではじめて2メガビットSPRAMの試作に成功したことを、2007年2月に発表しています。
  このSPRAMが不揮発性メモリとして必要な、10年間にわたる読み出し動作や記録保持を保つためには、微細化によって顕著にあらわれる熱ゆらぎに対抗して「0」と「1」の記録状態を実現することが必要です。このためには、実際のメモリの動作を考慮しながら、熱揺らぎ耐性の大きさを示す指標を的確に定める必要があります。しかし、従来、この指標設定についての手法が得られておらず、大容量化に必要な材料や構造を持つメモリ素子の正しい設計ができませんでした。

  今回、日立と東北大では、熱揺らぎの発生に影響を与えるSPRAM特有の設計指標を見出し、これを用いて熱揺らぎを抑制するデバイス設計手法を考案するとともに、設計手法の効果を検証するために試作メモリ素子を作成し、基本動作の確認に成功しました。
  今回開発した技術の特長は、以下の通りです。

1. 微細化の壁となる熱揺らぎを克服する大容量SPRAMチップ設計技術

  大容量SPRAMチップ設計の基本パラメータは、「読出しビット幅、リテンション時間、書き換え電流値、読出し電流値」です。これらのパラメータを用いて、SPRAM特有の熱ゆらぎの影響を示す指標を見出し、熱ゆらぎの影響を最小化する設計手法を開発しました。

2. 高い熱揺らぎ耐性が得られるTMR素子の試作

  素子特性の評価のために、既存のSRAM(Static Random Access Memory)と互換動作をする仕様のSPRAMを設計し、その指針に基づいて、はじめて熱揺らぎ耐性を設計指標に取り入れたTMR素子の試作に成功しました。試作したTMR素子は、高いFe含有率のCoFeB(コバルト・鉄・ボロン)を積層厚膜構造で、メモリの「0」「1」の記録状態に対応する抵抗の分布が良好であることを確認しました。これにより、SRAM互換動作のSPRAMチップに必要な熱揺らぎ耐性実現のめどを得ました。

  半導体メモリでは、多数のメモリセルすべてが高い熱揺らぎ耐性を持つ必要があります。今回の成果は、実際のメモリの動作を考慮した大容量SPRAMに必要な熱揺らぎ耐性の設計手法を明らかにし、この要求に応えられるTMR素子構造を実現したものです。微細化、低電力化に優位なスピン注入磁化反転RAMの 重要な基本技術を確立したものであり、今後のギガビット級ユニバーサルメモリの実現に道を拓くものと期待されます。

  なお、本内容は、2008年5月19日からフランス/プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール/オピオで開催された「不揮発性半導体メモリワークショップ(NVSMW:23rd IEEE Nonvolatile Semiconductor Memory Workshop、ICMTD:3rd International Conference on Memory Technology and Designと合同開催)」にて発表しました。

*1
電気的磁化反転方式とも呼ばれる。通常、磁石(磁化)の反転(磁石のN極とS極の向きを反転すること)は、外部から磁界を印加することにより起こるが、スピン注入磁化反転方式による反転は1996年米国の理論研究者により提唱された磁化反転現象であり、電流を素子に流すことにより磁石の反転が起きる。TMR素子の2つの強磁性膜の磁石(磁化)の方向が反平行のとき、電流をTMR素子の上から下(正方向)へ流すと、上側の強磁性膜の磁石(磁化)の配列は平行状態へスイッチする。電流方向を逆(下から上)にすると、平行から反平行の状態へスイッチがおき、電気的に磁化反転する。強磁性膜を流れる電子のスピンの向きをある向きにそろえ、スピンの向きの揃った電流(ある向きに磁化した電流)として書込みを行う技術。
*2
トンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto-Resistance)素子は強磁性膜/絶縁膜/強磁性膜の三層構造で形成される。磁石である2つの強磁性膜の磁石の向きが平行の状態と、反平行の状態で素子を流れる電流の電気抵抗が大きく変化する現象をトンネル磁気抵抗効果と呼び、平行状態の電気抵抗値に対する上記の電気抵抗の変化量の比(%)を磁気抵抗比と呼ぶ。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ケ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

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