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2006年8月24日

GaInNAs(ガリウム・インジウム・窒素・砒素)半導体レーザの
40ギガビット/秒動作に成功

直接変調方式で低消費電力、高速動作の小型送信器が可能に

  日立製作所中央研究所(所長:福永 泰/以下、日立)は、このたび、ビル内や構内に設置されているルータ(データ転送装置)や伝送装置の間をつなぐIP(インターネット・プロトコル)光通信ネットワーク向けに、GaInNAs(ガリウム・インジウム・窒素・砒素)を活性層に用いた半導体レーザ素子を試作し、外部変調器を用いない直接変調方式で40ギガビット/秒の高速動作に成功しました。今回、GaInNAsに適した新しい結晶成長技術を確立したことにより、光通信に用いられる長波長帯(1.29マイクロメートル)での発振において、低しきい電流(4.4ミリアンペア)での40ギガビット/秒の動作を実現しました。これにより、直接変調方式の半導体レーザ送信器を用いた高速かつ低消費電力の光送信モジュールの実現が可能となります。
  本研究は、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)からの委託研究の一環として実施されたものです。

  近年のIT技術の発達とともに、ビル内や構内に設置されたルータや伝送装置が処理するデータ量は急速に増加し、装置間を高速かつ大容量の光ネットワークで接続する“装置間光接続”が採用され始めています。装置間光接続では、高速で低消費電力の安価な光通信モジュールが求められており、そのキーデバイスであるレーザ送信器も高速かつ低消費電力性能を持ち、小型化されることが期待されています。現在の40ギガビット/秒動作のレーザ送信器では、レーザ素子の外部に高速の光信号を生成するための光変調器を取り付けた外部変調方式が使われていますが、光変調器が必要であることから、部品点数が多く低消費電力・小型化には限界がありました。このため、装置間光接続のさらなる普及に向け、外部変調器を用いず、レーザ素子の直接変調で高速動作が可能な、半導体レーザ送信器の開発が求められています。
  日立は、1995年に温度特性ならびに高速性能に優れた半導体レーザ素子向けの新材料、GaInNAsを提案し、現在、世界中でこの材料を用いた研究開発が進められています。GaInNAsは、量子井戸*1への電子の閉じ込め効果が強く、直接変調方式において高速動作を実現する理想的な特性を持ち合わせているものの*2、高品質な結晶の作製が難しく、10ギガビット/秒の動作しか実現されていませんでした。
  このような背景のもと、今回、日立では、GaInNAsに適した新しい結晶成長技術を開発し、これを活性層に用いた半導体レーザ素子を試作し、直接変調方式で40ギガビット/秒の高速動作に成功しました。
  今回開発したGaInNAs半導体レーザ素子の特徴は以下の通りです。

Al(アルミニウム)フリー分子線エピタキシー技術*3

  • レーザ素子では光の一部を素子内に閉じ込めるクラッド層を形成する必要があり、従来のGaInNAs半導体レーザではAlを含むAlGaAs(アルミニウム・ガリウム・砒素)が用いられていました。しかし、これまでの研究で、Al材料がGaInNAsの結晶特性に悪影響を及ぼすことが指摘されました。そこで、新たにAl材料を使用しないAlフリー分子線エピタキシー技術を確立し、高品質なGaInNAs結晶の作製が可能となったことから、光通信波長帯の1.29マイクロメートルでの発振が実現できました。

逆メサ型リッジ構造の採用による高速化としきい電流の低減化

  • 超高速動作を実現するために半導体レーザ構造の最適化を行ないました。GaInNAsに適した量子井戸構造の最適化と、活性層に効率良く電流注入を行い発光の高効率化を実現できる“逆メサ型リッジ構造”*4を適用し、従来構造に比べて約2倍の高速化と低いしきい電流(4.4ミリアンペア)での室温連続発振を可能にし、低消費電力化を実現しました。

  今回試作した半導体レーザ素子を用いて動作実験を行ったところ、5℃での直接変調による40ギガビット/秒の超高速信号動作を光通信波長帯の1.29マイクロメートルで確認しました。GaInNAs半導体レーザ素子で、直接変調による40ギガビット/秒動作を確認したのは、本実験が初めてです。
  開発した半導体レーザ素子は超高速での直接変調が可能であり、光送信モジュールの小型化、低消費電力化、低コスト化に道を拓くキー技術といえます。次世代大容量ルータや伝送装置の光送信モジュールのレーザ素子として期待されます。

  本技術は、8月29日から滋賀県草津市で開催される第67回応用物理学会学術講演会で発表します。また、9月4日に東京都で開催される分子線エピタキシー国際会議(International Conference on Molecular Beam Epitaxy 2006)、および9月24日にフランス・カンヌで開催される欧州光通信国際会議(European Conference on Optical Communication 2006)でも発表します。

本文注記

*1
量子井戸:ナノメートル(1メートルの10億分の1)単位の薄膜の井戸層を他の材料の層で挟み込んだ活性層の構造の一種です。電子は薄い井戸層に閉じ込められてレーザの特性が向上します。
*2
GaInNAs:高速特性に優れているものの、長波長化が困難なGaInAsに窒素(N)を少量添加したもので、GaInAsの高速特性を引き継ぎ、長波長化も可能となる材料です。しかも、量子井戸への電子の閉じ込め効果も強くなるため、温度特性に優れた半導体レーザを作製することが可能となります。
*3
分子線エピタキシー技術:薄膜結晶を基板上に成長させる技術です。超高真空中で材料を熱などで分子に変換してから基板に供給します。
*4
逆メサ型リッジ構造:電流の注入部分が逆台形の形になっている半導体レーザ構造の一種です。この逆メサ構造により効率良く電流注入が実現できるため、高速化が可能となります。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 : 042-327-7777(ダイヤルイン)

以上

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