日立製作所 中央研究所(所長:西野 壽一、以下日立)と、国立循環器病センター(総長:北村 惣一郎、以下循環器病センター)は共同で、慢性的なめまい感に関連する脳内神経活動の状態観察に、世界で初めて成功しました。この観察手法は、脳磁計*1)を用いて脳内で発生する微弱な磁場を測定し、これを脳内神経活動に対応する電流分布像として画像化する技術の開発により実現されました。
本成果は、これまで定量診断が困難であった慢性めまい感の検査法として期待されるとともに、めまい感を誘発する脳内神経活動の発生メカニズムを解明する道を拓く技術となるものです。
めまいはその起こり方や持続期間により、「突発性一過性めまい」と症状が何ヶ月も何年も続く「慢性持続性めまい(以下、慢性めまい感)」に大別されます。突発性一過性めまいは、主に末梢感覚器の変調が原因となることが分かっています。これに対して、慢性めまい感は、末梢感覚器の検査や脳の形態検査では要因が認められないことが多く、患者の自覚症状と、めまいの2次的作用として生じる歩行時のふらつきなどから診断が行われているのが現状です。このため、慢性めまい感の原因を明らかにし、めまい感の度合いを定量的に診断することができる検査法の確立が望まれていました。
今回、日立と循環器病センターは共同で、脳内に発生する磁場を測定する"脳磁計"を用いて、慢性めまい感の発症と脳内神経活動の関連の解明に取り組みました。この結果、世界で初めて、慢性めまい感に関連する脳内神経活動の可視化に成功するとともに、慢性めまい感の度合いを定量化する方法を考案しました。開発技術は、以下の通りです。
(1) |
脳内に広がる神経活動の画像化技術:脳磁計で測定した磁場から電流値を求め、測定面上の電流の大きさと方向の分布を矢印で表現する"電流アローマップ法*2)"という画像化技術を開発しました。この画像化技術により、脳内に広がる神経活動の様子がはじめて観察可能となりました。 |
(2) |
めまい度の定量化手法:めまい感に特徴的な観察結果として、うずまき状の電流分布像が得られました。そこで、回転方向成分の電流量の積和を計算し、測定結果を定量化する方法を考案しました。うずの度合いが高いほど、大きな数値で表現されます。 |
循環器病センターでは、画像化技術(1)を慢性めまい感の検査に適用し、慢性めまい感に特徴的な神経活動を見出しました。一方の耳から1kHzの弱い信号音を聞かせた時に被験者の側頭部を計測したところ、健常者では脳内の聴覚野と呼ばれる部位のうち1箇所に電流分布が認められたのに対し、めまい感を持つ患者では脳内に広がったうずまき状の電流分布となることを初めて発見しました*3)。さらに、定量化手法(2)を用い、慢性めまい感を持つ方と、めまい感を持たない方との間に有意な差があることが明らかになりました*4)。
今回の成果により、慢性めまい感が脳神経活動に関与していることがはじめて明らかとなりました。また、開発した観察技術を用いることで、めまい感の検査ならびに定量診断が可能となることが示されました。今後、めまい感を誘発させる脳内での発生メカニズムの解明や、めまい感の定量診断に道を拓くものと期待されます。本成果の詳細は、Brain Research誌に掲載される予定です。
なお、本研究は、『厚生科学研究費補助金 21世紀型医療開拓推進研究事業 (痴呆・骨折分野)』によって行われたものです。
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■脚注 |
(注1) |
脳磁計:脳内の神経活動にともなって発生する微弱な磁場を、高感度の磁気センサーである超電導磁束量子干渉素子(SQUID)で検出する装置です。現在普及している主な脳磁計では、脳内興奮個所を1つと仮定して興奮部位を同定することを目的としています。この手法で、てんかん患者のてんかん発生部位(てんかん焦点)の推定が可能なため、焦点部位推定の有効な検査機器として病院でも多く使用されています。
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(注2) |
電流アローマップ法:測定された脳内の神経活動に伴う電気活動によって生じた磁場から、測定面に投影した活動電流を表現する手法です。本手法は、実際の脳内活動電流分布に比べ多少歪みを持ちますが、ほぼ正確に捉えることができます。また、測定後15〜30分程度で画像化が可能です。
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(注3) |
めまいの原因が聴覚等の末梢神経の変調によるとの説に基づき、弱い音の信号を聞かせて、脳内神経活動の状態を観察する国立循環器病センタが提案した慢性めまいの検査手法。
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(注4) |
めまい感を持たない11人の電流量の積和は約1.59±0.46であるのに対して、めまい感を持つ患者27人の場合には3.53±1.34となり、二つのグループで統計処理に有意な差が得られました。
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