第5回にご登場いただくのは、日立製作所 情報・通信システム社 産業・流通システム営業統括本部で働く高橋 祥彦さんです。
日立グループ従業員ボランティアによるユニバーサルデザイン出前授業プロジェクトメンバーをはじめ、子どもたちへ向けたさまざまなボランティア活動をされ、またご自身の活動を通して被災地支援にも携わっています。多方面で精力的に活動されている高橋さんにお話をお伺いしました。
インタビュー中の高橋 祥彦さん
高橋さん 自分が父親になってから、それまであまり気にしていなかった子どもを取り巻くさまざまな社会問題に目がいくようになりました。少子化、待機児童、病児保育、貧困、児童虐待、いじめ…、数え上げたらきりがありません。
それと同時に会社生活中心の日々を送る中で、なかなか家族と向き合う時間がとれていないこともあり、今のままの働き方でいいのかと疑問を抱いていました。そんな折、インターネットで検索をしてみると、実にたくさんの働き方をテーマにした勉強会やセミナーがあることを知りました。働き方を見直すために、まずは何か新しいものを取り入れようと、定時後は飲み会に変えて、ワークライフバランスなど興味のあるテーマの勉強会やセミナーへ参加することにしました。
勉強会やセミナーでのたくさんの学びや交流を通じて、それまで自分になかった新しい価値観に触れ、マインドも少しずつ変わっていったように思います。勉強会に参加するために時間の使い方を意識するようになり、効率のよい仕事の進め方を工夫するようになりました。
完璧に朝型になりました。朝早く起きて自分の時間をつくり、その日やるべき仕事の棚卸をしたり、関心のあることについて調べてみたり、本を読んだりして過ごしています。静かな朝をひとりの時間にあてることで、気持ちにもゆとりがもてるようになったと思います。
また、参加した勉強会やセミナーを通して、普段、知り合えない方々と出会うことができました。そこでの出会いが、今の活動につながってきています。父親の子育て支援をしている「ファザーリング・ジャパン」というNPOを知り、その団体が主催する「ファザーリング・スクール」(子育てを楽しむパパを養成する講座)にも通いました。また、同じ年に日立グループユニバーサルデザイン出前授業の従業員ボランティアにも登録しました。
わたしの場合、働き方を変えようと行動した結果、それが自分の生き方を見直す契機になり、またボランティアという活動への関わりにもつながっていったのだと思います。
高橋さん ユニバーサルデザイン出前授業は、「先輩ボランティアに聞く」初回に登場された松村さんと同じ、日立グループの社会貢献活動として日立のものづくりにかかせないユニバーサルデザインの考え方をもとに、思いやりの心を子どもたちに伝える授業を行っています。何かひとつでも子どもたちの心にとまり、それを思いやりのカタチとして行動にうつしてくれたらと思い活動しています。
それからいくつかのNPOの活動にも参加しています。ひとつは、以前、イブニング講座でも講演されたNPO法人ブリッジフォースマイルの活動です。この団体は、児童養護施設で生活する子どもたちの自立支援を行っています。児童養護施設は、さまざまな理由で家族と一緒に生活できない子どもたちが原則高校を卒業するまでの間、生活するところです。そこで暮らす子どもたちのほとんどが、何らかのかたちで虐待を受けていると言われています。そんな子どもたちの中には、社会に巣立ってから道を踏み外してしまったり、やがて親になったときに、自分が受けたのと同じことを自分の子どもにしてしまったり。児童虐待は非常に根深い問題なんです。春に社会に巣立つ高校3年生を対象にしたセミナーを毎年開催しているのですが、先輩社会人としてアドバイスをしたり、子どもたちの心に寄り添うことがわたしの役割だと思っています。
そして、先にお話したNPO法人ファザーリング・ジャパンの活動にも参加しています。この団体は、「父親であることを楽しもう」をコンセプトに、さまざまな視点から父親の子育て支援を行い、笑っている父親を増やすための活動をしています。その中でわたしは、主に自治体や子育て支援施設、商業施設などで、父親向けの子育てセミナーの講師や絵本の読み聞かせイベントを担当し、子育ての楽しさや父親の子育て参画の必要性を伝えています。また、3月11日の東日本大震災以降は、被災地支援も行っています(後述)。それ以外にも、地域活動やPTA活動にも幅広く携わっていますが、これらの活動を通して、いつも思っているのは、子どもたちが生まれた環境や育った環境による制約を受けず、平等に夢や希望をもっていろいろな可能性にチャレンジできる社会になればいいなということです。

左:ユニバーサルデザイン出前授業 右:ファザーリング・ジャパンの活動
高橋さん 東日本大震災が発生して、ファザーリング・ジャパンの仲間たちと、父親の子育て支援をしている自分たちに何ができるのかを話し合いました。被災地では、住むところをなくし、家族をも亡くしてしまった人たちが避難所で肩を寄せ合っていました。とりわけ、それまで家族を支えてきた父親は、出口の見えないトンネルの中で大きな不安を抱え込んでいることを知りました。頼りにしている父親がそのような状態だと、家族もとても不安になってしまいます。そこで、子どもたちの笑顔が、大人たちの明日への希望や一歩を踏み出す勇気につながると信じ、岩手、宮城、福島を中心とした被災地の避難所や仮設住宅、学童、幼稚園、保育所、子育て支援施設を訪問して、絵本の読み聞かせや風船(バルーンアート)を使った遊びなどを通して、子どもたちに笑顔を届ける「絵本キャラバン」を始めました。ある学校の学童では、わたしたちの訪問を心から歓迎してくれ、最後は子どもたちがわたしたちの車が見えなくなるまで、手を振り続けてくれました。また、ある保育所では、震災直後でライフラインも復旧していない中、わたしたちのためにレトルトのカレーライスをお昼に用意してくれました。あのカレーライスの味ともてなしの心は一生忘れません。
被災地を訪ねて感じた津波が残した深い爪あとや肌で感じた空気、現地の方々から直接聞いたことを考えると、震災のことはけして風化させてはいけないと思っています。震災から9ヶ月が経ち、復興に向けて動き出していますが、まだまだ、さまざまな支援が必要です。これからも、継続した活動を通じて、被災地とつながっていきたいと思っています。

被災地で絵本の読み聞かせや風船(バルーンアート)で子どもたちと交流する高橋さん
高橋さん ボランティアは自己満足だと揶揄されることがあります。自己満足と言われれば、そうなのかもしれません。わたしはさまざまなボランティア活動を通じて、知らず知らずのうちに何かとてつもないものを得ているような気がしています。そこにはたくさんの貴重な経験があり、素晴らしい出会いがあります。それらのすべてがかけがえないのない財産になっていると感じています。
それから、ワークライフバランスの意味を説明するとき、仕事と家庭を天秤にかけてバランスをとるような表現を見ることがありますが、わたしは仕事や家庭だけではなく、地域活動も、もちろんボランティアも同じ枠の中にあるものと考えています。その枠を寄せ鍋に例えれば、仕事や家庭、子育て、地域、ボランティア、趣味などの具材を自分という鍋に入れ、具材を変えることでいろいろな味を楽しむことができます。あるときは仕事という具が多かったり、またあるときは子育てという具が多かったり、人生を長いスパンで見たとき、そのときどきによって状況はさまざまです。ワークライフバランスを自分の生き方の問題と捉えれば、そこに正解はないと思います。みなさんも、自分事として考えて、さまざま具でいっぱいのオリジナルの寄せ鍋を作って欲しいと思います。
高橋さん そうですね、最近では自分と家族が住まう地域に関心をもっています。子どもはもちろん、その地域で暮らす人が、安全、安心で気持ちよく生活していくためにはどうしたらいいのかと考えています。地域を見ていて思うのが、大人が大人になりきれていないということです。子どもには当たり前のように交通ルールを守るように言い聞かせる反面、子どもの見ている前で平気で信号無視をしたり、それ以外にも、ごみだしのマナー、駐車・駐輪マナー、喫煙マナーなど見過ごせないものがいくつも目につきます。「みんながやっている」「自分ひとりくらい」といった考え方の蔓延が、地域のモラル低下を促し、結果的に治安悪化の呼び水となったりする場合があると思うのです。わたしたち大人が一つひとつの行動を顧みて、常に子どもたちの手本となるように立ち居振る舞うこと、その積み重ねが、よいまちづくりにつながるのではなかと思っています。今年から小学校のPTA会長もしているのですが、これからのわたしの寄せ鍋は地域という具が味付けを変えていきそうです。
すべての活動を通じて、「大人になるって楽しそう」「社会って楽しそう」って、子どもたちに感じてもらえるよう、イキイキとした大人の姿を子どもたちに見せていたいなと思っています。
