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自治体向けソリューション

第3回 実現に向けた課題2「運用や制度の課題」

1. ハードな知恵、ソフトな知恵、両面が大切

日立:
では次に、技術以外の部分、運用方法や組織、制度、法整備といった面での課題についてお聞きしたいと思います。

須藤修 教授:
運用に関して言うと、ハードとソフトを分けて考えてみる必要があると思います。ハーバード大学のジョセフ・ナイという人は、パワーにはハードなものとソフトなものとがあって、ハードパワーは軍事力や経済力、ソフトパワーは教育や文化の力だと言っています。

[写真]東京大学大学院情報学環 須藤修 教授

これを次世代電子行政の運用面に当てはめると、ハードな面としては事業継続性のための評価指標を可視化すること。そして、トラブル発生時の対応やリカバリの可能性をマネージメントすることが大切になります。この点では、さまざまなデータや指標が集まっているイギリスのITIL®が参考になりますね。ああいうものを利用しながら、より高度に発展させ、世界に先駆けるところまで持っていければと考えています。

一方ソフト面で言うと、人をやる気にさせるような現場の暗黙知のようなものだったり、官民が「いっしょにやろうよ」と思える信頼感ですね。こういうものを作っていく努力が必要だと思います。これは、ハード面の仕掛けとはまた別の要素ですね。一種のコミュニティのようなものです。

日立:
なるほど。官民連携の話が出たのでお尋ねしたいのですが、民間企業の中でも特に電力、水道、金融といった社会インフラ系の企業が国と連携するということは、引越し手続きなどの業務が先行して進められていることを考えても早い段階で実現するのではないかと思います。こういった企業と国が連携する上での留意点などはあるのでしょうか。

須藤氏:
やはり指標の明確化だと思います。最終的なミッションであるアウトカムを設定し、そのアウトカムを目指したインプットやアウトプットを生み出すプロセスがどのように連鎖しているのかを評価するロジックを整備する。そうしないと、企業としてここまでは責任を負う、ここからは負えない、という範囲があやふやになってしまうと思います。今後、次世代電子行政サービスでいろいろな組織が連携する際には、この責任範囲やサービスレベルをきちんと設定するということは非常に大切です。これはもちろん企業だけでなく、大学でも行政でもみんなそうですね。

日立:
なるほど。では逆に民間の取り組みで参考になるようなものはありますか。

須藤氏:
それはたくさんありますね。例えば、私が銀行からお金を借りるとなったときに、私と取引をする銀行は全国銀行協会がもっている巨大なDBにアクセスして、私の信用情報を見ます。あなたは他の金融機関との取引でも問題がないので融資しましょうとか、問題があるので今回は融資できませんといった判断をするわけです。こういった事が役所の手続きでもできれば非常に効率化が図れると思います。

[写真]東京大学大学院情報学環 須藤修 教授

例えば私が、法務省で登記の手続きをするとします。すると、「申請手続きにあたり、本人確認のために公的証明書を持ってきてください」と言われるわけです。本人確認と言いましたが、要するに住民票の写しを持ってこい、ということですね。そうなると、居住地の役所に行き、手数料を払って住民票の写しを取り、郵送料を払って郵送するか、窓口に持っていくことになります。一つの手続きのためにたくさんのの手間がかかります。

もし銀行のような業務フローが可能ならば、申請者がインターネットで申請を行うと、法務省から折り返しメールで「申請を受け付けたいが、本人確認が必要です。法務省の担当者があなたの居住している役所の情報開示用サーバーにアクセスして、なりすましではなく本人であることを確認してもいいですか?」というようなメッセージが来ます。それで申請者がOKだと言えば、法務省の職員が職員認証を使って職位に応じた権限を証明する電子署名を付けて、私の住んでいる区役所の開示用サーバーにアクセスします。それで間違いないということが証明されれば「受理します」となるわけです。

これであれば、電子申請が普及しない最大の阻害要因の一つであった「証明書関連の添付」をなくすことができます。多くの人は、開示用サーバーの情報に、法務省の職員が職位に基づいてアクセスするのであれば、個人情報にアクセスされることも納得できると思います。ましてや、わざわざ住民票を取りに行かなくていいとなれば、そのほうがずっと良いと考えると思います。また、もし開示用サーバーにアクセスされるのが嫌だという場合には、住民票の写しを役所で手に入れて郵送すればいいわけです。少なくとも選択肢は広がりますよね。

2. 官民が同じ指標、同じ課題を持たないといけない

「官民連携は不可欠。今はその共通認識のためのものさしを探して試行錯誤すべき」

日立:
官民連携に話を戻しますが、官民が連携して事業を行っていくには、なんらかの共通認識を持つことが不可欠と思います。そういった仕組みは、次世代電子行政を進めていくために用意されているのでしょうか。

須藤氏:
評価指標や乗り越えるべき課題について、官民が同じ認識を持つことは不可欠です。次世代電子行政はまだファーストステップの段階ですから、今はその共通認識のためのものさしを探して試行錯誤すべきだし、あと2〜3年はそれが許される時期だと思っています。

日立:
システム調達という意味での官民連携に関してはどうでしょうか。昔であればベンダーが作って納品するイメージだったものが、最近は高い目標を目指してお客さまと我々ベンダーが共同作業で一緒に作っていくというイメージになってきています。一緒に作業を行う場合は、やはり共通の指標を持ちながら共同作業を行わないと上手くいかないのではないかなと感じています。

須藤氏:
その通りですね。少し先の話になるかも知れませんが、必ずしも今までのように行政がメインフレームを保有して、外部委託でベンダーに頑張って保守していただく、という構造である必要はないと思います。むしろ官民連携で新たなサービスをどんどん作っていくということになると、ITサービスの発想、すなわちASPやSaaSのような形態が重要になると思います。サービスを持っているのは民間の側で、色々な機能を加えていき、それをSLA(Service Level Agreement:サービス提供者と利用者の間で契約を行う際に、提供するサービスの内容と範囲、品質に対する要求(達成)水準を明確にして、それが達成できなかった場合のルールを含めて、あらかじめ合意しておくこと。)を明確にして調達するというパターンです。そういうものを増やしていった方が、行政としても機動性が上がるだろうなと思います。ここで大切なのが先ほどのご指摘になったような「どういう指標に基づいてどれだけのお金を支払うか?」ということを発注側と提供側できちんと共通認識として持つことだと思います。

[写真]東京大学大学院情報学環 須藤修 教授

実は甲府市役所が、今回日本で始めてこの方式の調達を採用しました。すべてのサービスについてSLAを定め、「この段階を達成したらこれだけの金額をお支払いします」ということをやりました。甲府市役所の方式の画期的な点は、良いものを出した場合にはボーナスを出すということを決めた点です。今までのSLAというのは、ほとんどマイナス評価があった場合には減額するっていう発想でやってきたと思うんですが、甲府市役所では良いものなら上積みの額を支払うという考え方が盛り込まれています。市長や副市長がこの考え方を理解してくださった。トータルで見れば、必ず行政の効率化が達成できる発想だと思います。

日立:
”民に対するインセンティブ”を与えることで、行政も良いサービスを買えるし、企業も良いサービスを作ろうとするわけですね。

須藤氏:
大事なのは、SLAの基準を明確にして、民間が責任を持つところと、行政が責任を持つところを明確に定義した点です。今はシステムに関して何か問題があるとベンダーが全責任を持たされるというのがベンダーの言い分ですし、一方で自治体職員は何かあれば議会から「全部お前らの責任だ」と糾弾されるわけです。結局、ベンダーも自治体もお互いに不満が残る結果となっていました。甲府市のような契約方法であれば、責任範囲が明確になっている分、お互いに余計な不満を抱えることはありませんし、ベンダーとしては費用計算も容易だそうです。SLAを最初に定めていますから、どこまでやればいいのか明確ですからね。

甲府市では、ITシステムの責任分解点を明確にして、行政が契約で責任を追うことを明文化しています。これは今までにない画期的なことだと思います。

(2008年5月取材)

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