誰もがうれしいと感じるITネットワーク社会づくりを目指して
今回は、地域特性と県を取り巻く諸動向を背景にして、電子自治体のインフラ整備から利活用へといち早く取り組まれた茨城県の実情を、橋本県知事にお伺いします。
日立:
まずは、このインタビューをご覧になっている皆様へのご挨拶という意味を兼ねまして、茨城県の特色・地域特性についてお伺いします。第1次/第2次産業が相対的に強いこと、そして先端科学技術に関する研究拠点や弊社を含めた産業が集結しているとの印象がありますが、その辺りからご紹介をお願いします。
![[写真] 茨城県 橋本昌知事](/Div/jkk/jichitai/interview/person/person012/image/001_01.jpg)
橋本県知事:
ちょうど良い機会ですから、最初にお願いしておきたいのが、県名の読み方です。多くの方が「いばらぎ」と「き」に濁点を付けて読まれますが、正しくは「いばらき」です。
正しく読んでいただくことをお願いして、次に県の概要をご紹介しますと、人口は約300万人で全国第11位です。県土面積は約6,000平方キロメートルで24番目ですが、可住地面積は北海道、新潟県、福島県に次いで第4位で、平坦地が非常に広いことが大きな特色です。
加えて、東京という大消費地からも近く、農業産出額が全国第3位になっています。東京で食べる野菜や果物などは、かなりの部分は茨城県産とお考えいただいてよろしいと思います。
例えば、メロンやレンコンの生産額は全国第1位で、梨や白菜、レタス、ごぼうは第2位です。食肉類など畜産も上位のほうですし、酪農も皆様が思われているよりは健闘している、というのが第1次産業の状況です。
第2次産業でも、工業製造品の出荷額が全国第9位ですから、おっしゃるように第1次/第2次産業のバランスがよくとれた県だといえるのではないでしょうか。
日立:
NHKの人気番組「プロジェクトX」で、ケネディ大統領の暗殺を伝えた日本初の衛星中継を受信したのが、茨城県内のアンテナ施設であると紹介していました。日本で最初のホームページも、1992年につくば市にある研究所の博士によって作られたものだとも伺っています。また、多くの方が茨城県と聞けばつくば市にある筑波研究学園都市や東海村の原子力施設を思い浮かべて、第1次/第2次産業に強いという印象より、科学技術の研究・開発が盛んな地域という印象があるのではないでしょうか。そのような他県にはない極めて先進的な地域資源を数多くお持ちの茨城県として、今後、どのような県づくりを目指されているのでしょうか。
橋本県知事:
お話にあったように、本県には、筑波研究学園都市がありまして、300を超える研究機関が立地し、ここで働く研究者は約17,000人、そのうち博士号を持っている方が約5,500人も住んでいるなど、最先端の科学技術集積拠点として大きな役割を担っております。日本は「科学技術創造立国」を目指しているわけですから、こうした科学技術に強い側面を活用しながら、茨城県を大きな拠点に発展させたいと考えております。
そのための環境整備として、北関東自動車道、東関東自動車道 水戸線、そして首都圏中央連絡自動車道の3本の高速道路を建設中です。それに、東京湾以北では一番大きな常陸那珂港もありますし、航空自衛隊の百里飛行場を民間共用化するということで空港の整備も進めております。また、東京・秋葉原とつくばを45分で結ぶ「つくばエクスプレス(*)」も今年の8月24日には開業しますので、これからが本県が本格的に発展する時期だと考えています。
日立:
確かに研究の拠点づくりに交通網は欠かせない存在です。「つくばエクスプレス」の開通は今後のまちづくりを加速する契機になるものと感じます。一方で、リアルな交通だけでなくバーチャルな交通ともいえる通信網の整備ですとか、あるいは電子自治体のいろいろな基盤整備に、茨城県は全国に先駆けて取り組まれていますね。
橋本県知事:
本県の場合、情報通信基盤についてもかなり整備されつつあると思っています。県では、県民、企業、行政が便利に、しかも安価に利用できる全県的な情報通信基盤の整備が必要と考え、県内の主要な地点15ヵ所を2.4ギガビットの高速大容量の光ファイバー網で結ぶ「いばらきブロードバンドネットワーク(IBBN)」を整備しました。その際、県が作っただけでは市町村の利用が進まないと考えまして、最初から市町村も一緒になって作り上げるという方針の下、全国に先駆け、県内全市町村を100メガビットの高速回線で結んでいます。
日立:
茨城県では、全国有数の科学技術の集積を活かした地域振興や構造改革特区など、さまざまな施策に取り組まれていますね。
![[写真] 茨城県 橋本昌知事](/Div/jkk/jichitai/interview/person/person012/image/001_02.jpg)
橋本県知事:
現在、東海村に「J-PARC」という大強度陽子加速器が建設されています。これはアメリカと日本の東海村の2ヵ所でしか整備されていない最先端の加速器です。これを利用しますと、今まで見ることができなかった水素やリチウムなどの軽い元素も見えるようになり、難病治療薬などの新薬や現在の1,000倍の記憶容量を持つLSIの開発など、バイオやナノテク、ITをはじめさまざまな分野での研究開発が飛躍的に進展することが期待されます。本県としても、材料構造解析計、生命物質構造解析計の2本の実験装置を独自に整備し、民間企業などに広く開放して新技術の研究開発を支援していくことにより、最先端の科学技術研究開発の一翼を担っていきたいと考えています。
また、ものづくりの面では、日立製作所さんを中心とした高度なものづくり技術があるわけですから、これらの地域資源を活用して、産学官連携による最先端の試験研究開発を推進していきたいと考えています。
さらに、鹿島臨海工業地帯は、国内有数の素材生産基地でありますが、他とは段違いの規制緩和を進めることで、生産性の向上を図り、全国一の素材生産拠点の形成を目指しています。最近、工場の集約化が全国的に進んでいますが、これにより立地環境を整備し、各分野を代表する企業を誘致したいと考えています。
このような科学技術の活用や弾力的な規制緩和が産業の振興に繋がることで、雇用の場が確保されます。そして、働く人が集まり、多くの情報が交換され、更にそれを求めてたくさんの人々が行き交うようになります。そのようにして「人・もの・情報の交流の場」に発展させていくことにより、「元気で住みよい県」にしていきたいと思っています。
一方、農業では、先程ご紹介しましたように、農業産出額が現在全国第3位ですが、これを北海道に次いで第2位に戻したいという期待をもっています。そのために、牛肉のトレーサビリティ・システムはもちろんのこと、「いばらき農産物ネットカタログ」というシステムを実施しています。これは、農産物にナンバーを付けて、どのような人たちが作っているのか、どういう肥料を使っていて、どのように出荷されたのかを、スーパーのパソコン画面に全部表示させることで消費者の方が確認できるものです。このように最先端のITを活用して、農産物の高付加価値化を進め、農業面でも日本を完全にリードしていきたいと考えています。
日立:
国でも通信基盤の整備は世界最高水準になり、次は利活用の推進ということで「e-Japan戦略II」を展開しています。ハード面でほぼ最先端を走っている茨城県としては、ご紹介いただきました農業以外で、たとえば実際の県民との接点、あるいは企業との接点で、どのような利活用をされようとしているのか、ご説明いただけますか。
橋本県知事:
「誰もがうれいしいと感じるITネットワーク社会づくり」の実現に向けて取り組んでいますが、県民との接点は比較的容易なのですが、民間企業との接点はなかなか難しいですね。
まず、県民との接点ですが、「いばらき電子申請・届出サービス」(*1)では、県と市町村で共通のシステムを整備しておりまして、現在、県と市町村合わせて約120種類の申請・届出が利用できます。そのほか、「原子力防災情報ネットワーク」や「図書館情報ネットワーク」、「新生涯学習提供システム」など、県民の安全、安心の確保や利便性の向上につながるシステムを整備しております。
またIT関連の人材育成と学校教育の情報化の有力な手段として、情報リテラシーの向上を図るため県立学校を含むすべての県立の教育施設を結ぶ「茨城県教育情報ネットワーク」を構築しました。
そのほか、「いばらきスポーツ施設予約システム」(*2)というものがありまして、現在、約600の公共スポーツ施設について、パソコンや携帯電話を利用して、空き状況の確認や、予約申込ができるようになっています。現在は施設予約のうち、およそ4分の1がこのシステムからの予約となっており、今後さらに普及していくものと思います。
これからも、県民の皆様が必要とされている情報をしっかりと把握し、システムに盛り込んでいきたいと考えています。
次に、民間企業との接点ですが、本県では、産業の活性化や地域の情報化を推進するため、IBBNを利用していただこうと、県内に15のアクセスポイントを作り、民間の方に無料で開放しております。
例えば、日立製作所さんの水戸総合病院(ひたちなか市)と、離れた場所(日立市)にある健康管理センター間で、胸部CT撮影画像データの送受信を行っています。従来は、水戸総合病院で撮影した画像データを、健康管理センターにいる専門医にCD-ROMで送付し、診断していました。それが、IBBNを利用することで、鮮明な画像データを瞬時に送信できるようになり、即座に専門医の判断を仰げるようになりました。我々としては、県民のためになる使い方をしていただき感謝しておりますが、そうした積極的な活用が、まだ少ない面があります。
その理由は、利用しようとする企業が、アクセスポイントに接続するための経費を負担することになっているからです。そこで、平成17年度予算では、ラストワンマイル対策として、工業団地のようにある程度企業がまとまって、アクセスポイントに接続する場合には、その一部を県が助成する制度を創設し、企業の負担を軽減することとしました。
今後は民間企業の利用をどのように促進して、産業の活性化につなげていくかが大きな課題だと思っています。
(2005年2月8日取材)
電子自治体への取り組みだけでなく、地域特性を活かしたIT化への対応について、茨城県の状況が浮き彫りになってきたのではないでしょうか。 次回は、「いばらきブロードバンドネットワーク」の整備に県と市町村が一緒に取り組んだ経緯や、さらなる利活用に向けての課題を詳しくお伺いします。